三話
次からおじさんの初恋を掘り下げます。
「それが、おじさんの初恋だったの?」私の問いにおじさんは微笑みながら「あぁそうさ、桜ちゃんから見て素敵な初恋に見えるかい?」と私に問いを投げかけた。
素敵な初恋がどういった物か私には分からないから「難しいわ」と一言返すことにしました。
私にはそれが素敵な物か、ということよりも、どうしてその女性に惹かれたのかそれが気になって仕方がないのでおじさんを質問攻めにしました。
「どうしておじさんは、その彼女に恋をしたの?」
おじさんは困った顔で「彼女が綺麗だったからかな」と答えた。
「彼女は、凄く強かったんだ。普通虐めの現場なんて見たら友達でもない限り無視するのが普通のことだ。でも、彼女は友達でもない柳君を庇った。そのときの姿が無性に綺麗に思えたんだ。」
「じゃあ私も強かったらその人みたいに綺麗になれるかしら?」
この質問を聞くとおじさんはなにがおかしいのか笑いながら「桜ちゃんは十分に強いよ」と私の頭をタコがついたゴツゴツの手で私を撫でた。
いつもおじさんの手はゴツゴツだ。
ある日どうしてそんなにゴツゴツなのかと聞くといっぱいお勉強したからさと答えてくれた。
そんなおじさんの手の感触を楽しみながら「どうしてそう思うの?」と聞くとおじさんは私と出会った日のことを語り始めた。
おじさんと私が出会ったのは、4月頃だった。
あのときの私はいじめっこの男子達を注意したことが原因で男子と取っ組み合いの喧嘩になった。
男の子は今までは私とそんなに背も変わらなかったのに五年生ぐらいから、ぐんぐんとたけのこみたいに背が伸びていった。
そんな、男子達に私は勝てなくて怪我をたくさんして公園で泣いている時に声をかけてくれたのがおじさんだった。
「大丈夫かい?」
おじさんのその問いがあのときは、無性に心をチクチクと刺激して見知らぬおじさんの胸で私はたくさん泣いた。
事情を話すとおじさんは「頑張ったね」とただそれだけを言って私を撫でるのでした。
「あのときの桜ちゃんは苛められている子を守ろうとしてその子達を注意したわけだろう?それは立派なことだ。普通の人はそこでどうしても怯えちゃう。」
でも、私はそのあと泣いたよ?と聞くと「泣いても君は大きさでも体力でも相手のほうが優れているのに挑んだんだ、それは君の心が強い証拠さ。」
「普通の人には勇気がいる。勇気というのは怯えたりする自分の心を切り離すとっておきの技だ。でも君や彼女は無意識のうちに心をもって誰かを助けることが出来る。そんな君が強くないわけないじゃないか!」
おじさんの言葉はむず痒い物だったけど、でも悪い気がせず不思議と頬がにやけていることに気づいた。
「さぁもうすぐ夕方だ、今日はお帰り」
おじさんに「また明日!」と言って私はにやけた顔を隠しながら家に走って帰った。