六話
あの日からおじさんには、会ってない。公園にも行ってない。
父さんも母さんもまた、喧嘩している。とうとう、私のこと以外でも喧嘩をしだした。
やれ、家に帰るのが遅いだの、浮気しているじゃないかだの、よくも、そんなに喧嘩のネタがあるものだ。
両親は離婚するみたいだが、親権の問題で争っているみたいだ。
最初、親権の意味も知らなかった私は、親権の意味を調べた。インターネットが普及したこの時代調べるのは容易だった。
「親権」(しんけん)とは、成年に達しない子を監護、教育し、その財産を管理するため、その父母に与えられた身分上および財産上の権利・義務の総称。Wikipediaより参照
話を聞く限り両親は二人とも私を捨てたかったみたいだ。
最初は私立だの問題だのと言って私を愛してるかのように振る舞っていたのに化けの皮が剥がれるとこれだ。
結局のところ二人とも私のことはどうでも良かったのだ。
私は、これからどこに行くのだろう?
親権の放棄は両親が死んだ場合以外は出来ないらしい。
親権の中の監護権だけは親戚などに一時的に預けることは出来るみたいだけども一体どっちの親戚に引き取られるのだろうか?
もしかしたら、それすらもないかもしれない。
考えが煮詰まりすぎて頭がぼーっとする。
私は、家を出てあてもなく、歩き始めた。
気がつくと私は、公園に足を向けていた。それに気がついたとき私は、おじさんのことが頭にスライドショーのごとく浮かんだ。
おじさんに会いたい。私が悪いことは分かっている。でも不思議と、会いたい気持ちより、気まずさのほうが私の中で風船のように膨らんだ。
私は、進行方向を変え公園と逆向きに向かって歩き始めた。
歩いている最中コンビニが目に留まった。そのコンビニはおじさんとアイスを食べたコンビニだった。
どこを歩いていてもおじさんが私の心の中でべったりと張り付いて離れない。
高校生ぐらいだろうか?腕を組むカップルが眩しく見えた。私とおじさんは腕を組むこともカップルになることも叶わない。
おじさんには子供としてか写ってないことは分かっていた。それでも、私は、嫉妬した。嫉妬して、おじさんにあたった。
この街にはどこにでもおじさんの思い出があった。
でも、両親が離婚したらそれすらも見れない。そう思うとやるせない気持ちが涙になって体からこぼれた。
不思議と家の前にまで戻ってきていた。物が割れる音がした。
血を出している父さんがいた。私は、急いで母さんを止めた。
「この男なんか!死んだら良いんだ!」
父さんは頭から血を出して怖い目で母さんを睨み付けていた。
私は、その目が恐ろしくなった。それでもタオルを濡らして父さんに持っていくと、「おまえのせいだよ」
ただ冷たく呟かれた。
私は、どこまで行ってもこの二人の子供であることを今しっかりと認識した。認識してしまった。
自分の気持ちで相手を傷つける行為に一体なにが違いがあるだろうか。
私は、父の言葉で目が覚めた。自分でも、恐ろしいほど父の言葉で傷つくことはなかった。
それよりも、父の言葉で私がした行為の重さを知ってしまった。
おじさんは私を強いと言った。でもそれは間違いだ。強さは正しく使えないとただの暴力だ。
自分が言いたいことだけを言い相手を尊重しない言葉はどんな暴力よりも暴力的なのだ。
おじさんが教えてくれた勇気を使う人達の方がまだ強く見える。
私は、急いで靴を履き、膨らみ今にも破裂しそうな気まずさを心の中でパン!と潰しおじさんのもとに走った。
潰した、気まずさは罪悪感になって私の目に、喉に、多大な被害を与えた。公園にはよれたスーツを着て、大人の色気を醸すおじさんがいた。
でも、普段と違ったのはニコニコしていなかった。どこか、魂が抜けたようなそんな顔をしていた。
「おじざん!」がらがらの喉と涙で濡れた目で私はおじさんに向かって叫んだ。




