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竜とリュートの異世界冒険  作者: 浅田浅彦
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5.手汗でした

「リュートくん、多分戦技の才能、全然無いですね……」


「……げはひ」


 現実は増々厳しかった。更に2時間剣を振り回し続けた僕は、『あら、練習したら案外あっさりできちゃって竜登くんすごーい』なんて言われる妄想を打ち砕かれ、打ちひしがれることとなった。

 ぶひるどころか、疲労と徒労感からわけのわからない音が口から漏れ出る始末だ。

 しかも戦技の練習の合間にエミリさんが魔法について教えてくれたり(完璧超人かよ! と盛大に心の中で突っ込んだ)したのだが、かざした手の平から出たのは炎ではなく手汗だけだった。

 ワンチャン、水系の魔法じゃね? と思って恐る恐るエミリさんに聞いてみたらメガネを押し上げる仕草と共に「手汗ですね」と一刀両断された。手汗でした。

 何、何なの? 現実って僕のこと嫌いなの?


「リュート殿、少しよろしいですかな?」


 そして何の進展も見せない僕の能力探しに関わらず、あれよあれよと物事は展開していく。膝をつく僕に村長が声をかけてきたのだ。

 そして案内された集会場のような建物で引き合わされたのは、物騒な装備に身を固めたいかにもツワモノな4人の男女だった。


「紹介いたします。ただ今到着しました、傭兵団、ブロークン・ハートの方々です。こちらは昨日我が村にお越しいただいたリュート殿。恐らく“勇者”である、と睨んでおります」


 村長のカダさんが、勇者、と口に出した途端、驚いた4人が息を詰めるのが分かった。

対する僕も驚愕する。ブロークン・ハートという傭兵団のネーミングセンスにではない。村長があっさりと、僕が勇者である、なんて口にしたからだ。

 そのあと初めに口を開いたのは、荒々しさの中に強い意志力を感じさせる目を持った黒い短髪をした青年だった。装備はあちこちが傷んだ様子の重厚なメイルだ。


「あの“勇者”と呼ばれる存在にお会いできるとは……。リュート殿、でよろしいですか? お会いできて光栄です。このチームの一応リーダーということになっています、ガットです」


「あ、あの、竜登です。えっと、よろしくお願いします」


 とりあえず挨拶をしたが、息苦しくてうまく言葉が出てこない。

 明らかに出来る人のオーラを放つガットさんにきらきらした目で見つめられて、身の置き場に困るような居心地の悪さを覚えた。

 暗算もろくに出来ないのに、そろばん経験者に「計算を教えてくれ!」とお願いされたような気分。

 勘違いです。無能なんです僕は。


「弓兵のトーシャです。お見知りおきを」


 黄金色の長髪をなびかせて挨拶したのは、小さな弓を腰に差し、矢筒を背負ったイケメン。ウインクをしてくる様子はとても好意的だ。


「アイ、よろしく」


 短くぶっきらぼうに言うのは、なんか暗い目をした印象の女性。軽装備でナイフと短い杖のようなものを太もものベルトに装備している。

 胡散臭いものを見るような感じで僕を眺めてきて、居心地の悪さは半分この人のせいだと思った。


「…………( ̄ー» ̄)ニヤリ」


 最後の一人は何も言わずに唇の端を吊り上げた。なんだろう、とってもヤバイ人の匂いがする。

 他のメンバーも注意する様子はないし、いつもこんな感じなのだろう。

 背中に日本刀のように見える長刀をさして、全身を黒いぴったりとした布で覆っている。明らかに忍者の装いだ。


「さて、リュート殿を引き合わせた理由は察して頂けると思いますが、一応言葉にいたします。実は今回の討伐に彼も加えてほしいのです」


 納得した様子のブロークン・ハーツの面々。

 したり気な空気を醸し出す村長のカダさん。

 この場で全く状況を分かっていないのは僕一人だった。

 え? え? 討伐? 何それ?


「失礼しました。リュート殿にはまだ伝えていませんでしたね。実は今、この村は魔物の脅威にさらされて、疲弊しておるのです」


「はぁ」


「彼らを呼んだのは、その魔物の一部を討伐して頂くため」


 村長が細い目を開ける。


「またこれは別件なのですが、近日帝城からお達しがありました。

 詳しくはお話しできませんが、この国の恐らく北方に“勇者”が現れるというお告げがあったという内容でございました。

 そしてリュート殿、このタイミングでこの村にあなたが現れた。私はこれを天啓だと思っております」


 何やらテンプレの胸アツ展開なことを言われてるけど、冷や汗しか出ない。


「あ、あの、実はさっきから色々試してるんですが、僕何も……」


「リュート殿!!!」


「はいぃ!」


 僕のもごもごした言葉を遮って村長が僕の手を握った。

 近い近い近い! ホ○で枯れ専とか、そんな濃すぎる趣味、僕にはないから!! 全力でのけぞる僕の様子を意に介さず、村長は眼光を強くする。


「我々を救ってくだされ」


 えぇ!? いきなり!!?


***


「なんで」


 次の日、僕はあり合わせの鎖帷子とショートソードを装備させられて、エゾフの森に舞い戻っていた。

 立ち止まった僕の頬に暗くて生ぬるい風が吹き付けてくる気がする。気がする? 本当に気のせいだろうか?

 とにかく目の前に広がる光景を受け入れたくない。


「なんで」


 さっきからその言葉しか出ない。なんで? なんでってなんでなんだもん。

 僕が理解に苦しんでいるのは、自分が結局、村長のカダさんに押し切られて討伐とやらに参加してしまったこと……。


「なんで、また」


 ではなかった。


「なんで、また、ここなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 僕の目の前には先日必死で逃げ出したばかりの大グモの洞窟がぽっかりと穴をあけていた。

 シギャァァァァァァァ!!

 聞こえてきた恐ろしい咆哮は、絶対に気のせいなんかではなかった。

遅くなってすみません。

日によっては、今日のように夜の投稿もあるかもしれません、

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