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ハードボイルドさん家の残念メリーさん

作者: たむ

 巷じゃ俺の事をハードボイルドと呼ぶ奴らがいるが、そんな事はない、仕事柄だ、俺は依頼があれば何でもする、情報収集から殺人までな。


 だから感情を表にしてはいけない、人間いつボロが出てもおかしくない、この治安の最悪な世界で一番儲ける事ができる仕事だ、信頼は失いたくない。


 しかし今は仕事が入っておらず暇を持て余しソファに仰向けになり煙草を咥えている、仕事中に被るハットも今はアイマスク代わりになってしまっている。


「仕事......こねぇかな」


 その時部屋の黒電話が鳴り響く、依頼だろう、俺は受話器に耳を当てる。


「はいよ」


「もしもし?」


 女だ、声からして若い、俺に何の用だ? 物騒な世の中になったもんだ。


「女か、要件は? 暗殺か?」


「私メリーさん」


「は?」


 どこの世間知らずだ、自分の名まで名乗りやがったが偽名か? 金になるなら俺は依頼主だって売る、それを解ってないのか。


「今貴方のお家の前にいるの」


「あ? いたずらなら相手を選びな、死ぬぞ」


 俺は電話を切り、またソファに横になるとすぐに電話が鳴り受話器を取ると溜息が出た。


「私メリーさん」


「あのなぁ、嬢ちゃん世の中には関わっちゃいけねぇ連中がいるんだ、解ったな?」


 玄関の扉のドアノブがガチャガチャと音を立てている、誰かがいる。


 受話器から聞こえる音から、今どうやら玄関にいるのはこのメリーさんで間違い無いらしい。


「私メリーさん、あのね、鍵を開けて欲しいの」


「あ?」


 俺は電話を切り仕事を始める、仕事と言っても銃の手入れと依頼の書類整理だが、ガチャガチャと玄関が煩いが無視だ無視。


 ドアノブの音が止み今度はドンドンと扉を叩き始めた、騒々しいがまだ我慢できた。


「私はぁぁぁぁぁぁ! メリィィィィィィィィさぁぁぁぁん! 今貴方のお家の前にいるのぉぉぉぉぉ!」


 涙声で叫ぶ女の声が頭に響く、流石に玄関の扉を開く。


「うるせぇ! ぶち殺すぞ!?」


 扉を開くと誰もいなかった、気味の悪い悪戯だ、何より腹が立つ、落ち着くためにコーヒーを沸かし一息つくとまた電話が鳴る。


「今度は何だよメリーさん」


「よく解ったね! 私メリーさん! 今貴方の後ろにいるの!」


 俺は無言で背後にS&W M19マグナムの引き金を引く。


 数発の銃声が鳴り響き振り返ると、長い銀色の髪をした若い女が壁に背を当てながら震えている、両手を広げて固まっているが、二の腕の下と右頬付近と首隣に銃弾により壁に穴が空いている。


「わ......私、は、メリーさん、今貴方ま、前にいるの」


「あぁ知ってる」


「酷いよ酷いよ! いきなり撃つなんて酷いよ! 下手したら死んじゃうよぉ!」


「あ? 生きてぇのかあんた」


「いやまぁ、死んでるようなものだけどね」


 急に笑顔になるこの女、気味が悪いが仕事を持ってきたんだろう、ここは我慢だ、此処では精神不安定の人間なんざ珍しくとも何とも無い。


「で? 要件を話せ、金を置いてけ、そして失せろ」


「要件? 金? 何の事?」


「あんたは何しに来たんだよ」


 突如メリーさんの手元にクラッカーが現れ派手な音を鳴らしながら色紙を撒き散らす。


「おめでとうございまーす! 貴方は今日からメリーさんに取り憑かれる事になり.....何で撃つの!?」


「いきなり銃声紛いの音を出すんじゃねぇ!」


「ははーん、さては旦那ビビってますな? このメリーさんの......痛い!?」


 遂に手を上げてしまった、俺はメリーさんの頭を拳で殴る、勿論手加減はしているがメリーさんは両手で頭を抑えている。


「訳わからない事言ってねぇでさっさと帰りな、あと年上には敬語使え、なんか腹立つ」


「何で?」


「敬語」


 発砲するとメリーさんは言う事を聞いた、素直なのか何なのか。


「ひゃい! 話を聞いてください!」


「何でもいいが早く帰れよ」


「旦那? 舐めてますな? メリーさんを見くびると痛い目にあいますよ?」


「へぇ、言ってみろや」


 煙草に火をつけ仕方なく話を聞く事にした。


「なんと私が怒ると、貴方が不幸になります!」


「ザックリしてるな」


「そりゃもうザックリと不幸になります!」


「例えば?」


「まずは婚期を逃します!」


「別に構わないが」


「ぷぷっ寂し.....!? 撃たないでくださいごめんなさい!」


 銃口を向けると涙目で謝罪してくる、何なんだこの女は。


「よし解った、すごいすごい、だから出ていけ」


「ダメです嫌です」


「出てけ、次は当たるぞ」


「嫌です」


 涙目で訴えるメリーさんを俺は躊躇なく撃った、理由は単純で仕事の邪魔だ、額に穴が空き倒れる。


「血も出ないのか気持ち悪い、処理が面倒だ......!?」


 メリーさんがむくりと起き上がり、光の無い瞳でこちらを見つめている。


「酷い......」


「生きてるのか!?」


 メリーさんの傷はすぐに再生され、元の姿に戻っていく、瞳に光が差し込み、額の開いた穴が埋まっていく、俺は理解が追いつかず吐き気がした。


「酷いですよぉ! 初対面でヒロインの脳天撃ち抜く人がいますかぁ!」


「何の事だよ!?」


「もー怒りましたよ! 私だって怒るんですよ! 貴方はこのメリーさんを怒らせましたよ!」


 剥れたメリーさんは人差し指を向けてきた、何をするつもりだ。


「おいおい、今度は何だよ」


「メリーさんビィィィィム!!」


 しかし何も起こらない。


「は?」


「ズビビビビビビ! はい不幸ー!」


「死なない体は辛いよなぁ」


「ごめんなさいぃ!」


 リボルバーに弾を詰めるとメリーさんは土下座してきた、怒りを通り越し呆れてくる。


「もういい帰れ」


「嫌です、そもそも帰る場所がここ以外ありません」


「だめだ」


「何でもしますからぁ!」


「なら帰ってくれ、頼むから」


「あ、それずるいですよ! そもそも嬉しく無いんですか? このメリーさんと生涯を共にできるのですよ?」


「お前さんここに住み込もうってか?」


「そうですけど?」


 頭痛がしてきた、話を整理しよう、この女はメリーさんと名乗り俺の所に依頼主ではなく居候として来た、しかも死なない。


「よしお前さん出ていけ」


「さっきからそれしか言いませんね」


「正体不明の化け物をペットとして家に置けるかよ」


「酷い......」


 両手を口に当て涙ぐむメリーさん、化け物の自覚はあったのか。


「そうだ化け物、さっさと失せろ」


「ペットだなんて......」


「あ、そっち?」


「どっち?」


「もういい......伏せろ!」


 突如玄関から銃弾が飛び込んでくる、俺はメリーさんを押し倒し頭を下げる、何とか銃弾を回避したが、冷静になれば庇う必要もなかった、再生するし。


「ようよう、久しぶりだなぁ、元気してるか?」


 玄関を蹴破り入って来たのは大柄の男、スキンヘッドにサングラス、顔も背広から見える厚い胸板にも無数の傷が見える。


 俺にはよーく見覚えのある顔だ


「何の要件だ? 依頼か?」


「ぶぁぁぁぁかが! 貴様の裏切りによってうちは大損害だ、覚えているだろう?」


 この男はここら辺を締めている悪漢だ、去年俺はこの男から依頼を受けて仕事をした、内容は簡単だった、縄張り争いで暴れる、それだけだったが俺は裏切った。


 この男は後払いと言い、金を払う事を躊躇ったが、敵対勢力さんは前払いでこの男の倍額を支払ってくれた、それ以来この男は俺を逆恨みしているようだが。


「馬鹿はどちらだろうな、お前は俺に金を払っていない、その時点で未契約な筈だ」


「こじつけはいいんだ! 俺様はお前の首を落とすまで気が済まない!」


「誰ですかこの人! こわっ! 怖いですよぉ!」


 メリーさんが俺の下で小刻みに震えている、だから荷物はいらねぇんだ。


「おやおや? お前のような男にそんな趣味が合ったとはな! がは! がはは!」


「あ? これ? いらない子だが欲しいか?」


「ちょっとちょっとぉ!?」


「この年頃は高く売れる、有り難く貰うがまずはお前の命を貰おうか」


「......」

(また家の買い替えか、結構気に入ってたんだが)


 この男は何処からか俺の住処を聞き出して攻めてくる、その度家を買い換えるのだが、正直面倒だ。


 男はニヤリと笑いながら重機関銃を構える、これはとてもじゃないが住めなくなる。


「どうした? また恐れ逃げるか?」


「面倒だな」


 男の掲げる重機関銃はM134、よくもあそこまで軽々と持てるものだ。


「やめて!」


 メリーさんが立ち上がり両手を広げる、馬鹿が、俺を庇うつもりか。


「どけよ嬢ちゃん、蜂の巣になりたくないだろう?」


 一発の銃声が鳴り響く、俺が引き金を引いたM19は轟音と共に銃弾を吐き出しメリーさんの右胸を貫いた。


「なん......で」


 メリーさんはその場に倒れてしまい、男も苦痛の呻きを上げている。


「やはり狂っている、女ごと俺様を撃ったか」


 銃弾はメリーさんを貫通して男の左胸を貫通した。


「呼吸荒れてるぞ? 今すぐ止血すれば死なないから失せやがれ」


「お前は......必ず、俺様がぁ!」


 よろよろと男は家を出て行った、大男の背中が遠くなっていく。


 俺はソファに座り煙草に火をつけた、今までの襲撃の中でも被害は最小限で済んだのだ、メリーさんのおかげか?


 メリーさんは再生を始めていた、やはり気持ち悪い、人間ではない何か。


「酷いです! 背後から撃つなんて! 私の扱いが酷すぎます!」


「あ、復活した」


「なんでそんなにそっけないんですか!? もう怒りましたよ! メリーさん本日二度目の激怒ですよ!」


「あいあい、お前さんは役に立った、帰れ」


「メリーさんビィィィィム!!」


「......」


「何か言ってくださいよぉ!」


「いや、何も起きないだろう?」


 メリーさんは鼻を鳴らしながら指を振る、心の底から鬱陶しい


「ふっふっふ! 私は考えました!」


「......」


「貴方に依頼をします!」


「あ?」


「私と生活しなさい!」


「依頼? それが?」


「これで私は依頼主、貴方は私の駒です! 完璧! 完璧すぎる私!」


「断る、金もないだろう」


「お金は......後払いです!」


 こいつもそんな手段を選ぶのか、面倒だ、関わりたくないが、このまま放って置いても煩いだけだ、そもそも何故俺に執着する、まぁ何も考えてなさそうだが。


「もう......勝手にしろ」


「え? いいんですか? 本当に?」


「お前が言い出したんだろう」


「やたー!」


 俺はメリーさんと名乗る女の依頼を受けた、そもそもこいつは何なんだ、それから数日が立った、メリーさんは俺の後ろを付いてくる


「旦那ー! あれ! あれ欲しいです!」


「黙れ鬱陶しい」


 街を歩いていても


「旦那ー! 今です! バキャーンと撃っちゃってください!」


「お前は少し黙れないのか」


 仕事中でも


「旦那ー! 何度言ったら解るのですか!? 私を盾に使わないでください!」


「お前さんが俺の後ろにいるからだろ」


 戦闘中でも


 どんな時もメリーさんは俺の後ろを付いてくるのだった、心なしかメリーさんといる時は俺の口数も増えた気がする。


「旦那ー! 次行きましょー!」


 無駄に元気を持て余すメリーさんに最近振り回されている、メリーさんビームの不幸効果は伊達ではないのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 多分、旦那、もう既に不幸過ぎて、メリーさんのビーム効かないんだろうな。ちょっとかわいそう。 でも、旦那楽しそうだし、別にいいのか。 [一言] 私もこんなメリーちゃんほしい。
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