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2話 武道系少女(前世系乙女)

 この世界に召喚されて一週間程。

 僕は城内に一人一室与えられた部屋と図書塔を往復する日々を送っていた。

 収められている蔵書は当然どれもこの世界固有の文字だったが、教わる存在に恵まれたことが幸いし簡単な読み書きは然程時間を掛けずに出来るようになった。話す分には問題無いのは異世界人補正とやらだろうか。


 歴史を積み重ねた書物の中には高い知能を持ったものが存在する。


 元の世界での経験則でしかなかったけれど、どうやらそれはこの世界でも変わらないらしいく、一番の古株らしい童話集に色々と教わる事が出来た。

 この時ついでに『解析』スキルも使用してみたがインクの成分や材料、紙の材質と製造年月日が視界いっぱいに表示されただけだった。つまり『物質の構成情報を一目で精査する』能力のようだ。

 それだけともいえるが。

 あまり活用する機会は無いかもしれない。

 そもそもの話このスキルを会得した事からして疑問は残るが。


 周囲には異世界の文字を独りでに読み始めたことで訝しがられもしたが、元の世界に似たような文法の言語があると言って誤魔化すと納得された。ちょろい。


 そうしてこの世界の知識を蓄えていたが、今日は城の敷地内にある訓練場でユニークスキル発動の練習をする事になっている。何故今頃になってかというと、こちらに召喚されたあの日、説明を受けて直ぐにクラスメイトの約半数が倒れたからだ。ステータスカードを使用した際に魔力を上手く扱えずに生命力を消費してしまったのが原因らしい。二日前に全員が目を覚まし、大事を取って一日は休養に当てて今日からという事のようだ。


「うし、全員揃ってんな。俺はこれからお前達の教官になるゼムノス・ゴルドーだ。騎士団の副長をしている。武器の扱いなんかの指導が主だが、まーよろしく頼むや」

(育て甲斐のある奴がどれだけ居やがるか。楽しみだな)


「同じく教官のリリー・コーコスです。魔術や魔力の扱いについてを主に指導します。あ、宮廷魔術士団に所属しています」

(魔力が高い子が多いですね。流石は勇者といったところでしょうか)


「そんじゃ訓練場に行くぞ。遅れずに付いて来い」

(さー行くか)


 ゴルドー教官達に続いて移動を開始する。

 ゴルドー教官は推定三十代の男性。がっしりとした鍛え抜かれた身体をしていて、剃っていると思わしき頭と相まって威圧感がある。クラスメイト達の何人かはその存在感に圧倒されて引いているが本人は構わず話し掛けている所を見るに、そういった反応に慣れているのだろう。

 コーコス教官は二十代半ば程の女性。濃い緑色の髪を長く伸ばしている儚げな美人さんだ。こちらは自分から話し掛けはせず、聞かれた事に対してだけ答えている。言葉を選んでいるようでその表現は柔らかく、そっけなさはあまり感じない。


 移動を開始してから程なくすると訓練場に到着した。


「んじゃあこの辺で良いだろ。俺達のどっちに習うかは自分で決めてくれ。つっても勿論相談は受け付けるし、どちらかに絞らなけりゃならないって訳じゃねぇ。あくまでもメインでやるのはどっちかっつー話だ」

(自主性を尊重するようにって上からの命令だしな)


 ふむ。

 僕の場合『刻銘』は恐らくは魔術系統の能力だろう。

 とするとコーコス教官に習うべきかな。


「コーコス教官。ご指導戴いてもよろしいですか?」


「ええ、勿論。えっと君は……」

(何ていう子だったでしょうか)


「カザミヤです」


「そう、カザミヤ君というのですね。それではまずどんな名前のスキルでどんな説明が表示されたのかを教えてくれますか?ユニークスキルはそこから判断して検証しながら探っていくものですので」

(カザミヤ君ですね。憶えました。それにしてもこの子ちゃんと前が見えてるんでしょうか?糸目って言うんでしたっけ?)


「スキル名は『刻銘』といいます。説明は『素材に力有る文字を刻むことで特異な性質を付与する』です」


「『刻銘』……ですか」

(確か昔『刻印』というユニークスキルを用いて大成した魔道具職人が居た筈でしたね)


「何か?」


「いえ、国が管理している過去出現したスキルを全て記録している魔導書を閲覧した際に『刻印』というユニークスキルがあったのを思い出したんです。そのスキルは確か『素材に特殊な文様を刻むことで多様な効果を引き起こす』という能力だった筈です。文様と文字という違いはあれど根幹としては同系統の能力だと思います。とするならば魔力を込めながら文字を彫り込んでいけばいいのではないでしょうか。えっと、…有りました。このナイフを差し上げますので頑張ってください。実践あるのみ、ですよ」

(実に興味深い能力ですね。過去に類似する能力が存在していたとしてもあくまでもそれは似ているだけ、独立した新たなスキルの発見には胸が躍ります。他の子達もそうであれば嬉しいですね。ユニークスキルは千差万別。表面上に現れる効果だけが全てとは限りませんし、存在するだけで周囲に影響を与えてしまうようなものもあります。出来るだけこちらとしても効果を把握して置きたい処ですね)


「ありがとうございます。少し試しながらよく考えてみます」


「仕事ですから」

(趣味も兼ねていますので)


「それでは僕は向こうで作業するので失礼します」


 返事は聞かずにその場を後にする。

 あまり信用しすぎない方が良いだろう。

 指導を受けるという事はこちらの思想や思考に干渉を受ける事だ。こちらの常識について疎い今の内に自分たちの都合の良いように制限された情報を与える事もあり得る。現に僕が図書塔に通っている間に話し掛けてきた貴族の人間は意図的に歪めた情報を混ぜて会話を仕掛けて来た。同時に内心が『聴こえて』いた為に問題は無かったがだからといって油断をしていると足を掬われかねない。向こうはこちらに根を張る人間なのだから方法はいくらでもあるだろう。


「鈴音。少し時間を割いて貰っても構わないだろうか?相談したい事があるのだが」

(聞こえているんだろう!?頼む!私にとっての一大事なんだ!)


 訓練場を囲む塀の直ぐ傍に腰を落ち着けた処で声を掛けられた。

 顔に無表情を貼り付けた女。僕の幼馴染に当たる林道(リンドウ)菊花(キッカ)だ。

 彼女は僕の力を知っている。

 親同士が非常に仲が良いため昔から行動を共にする事が多く、僕の力の特性や欠点なんかも知っている。

 だからこそ菊花は普段から内心(本音)言葉(建前)を使い分けて僕に話し掛けて来ているのだが、普段と違いとても分かり易く感情を乱している。

 そのためかやや口元が引き攣っている。


「……どうしたんだ?君がそのように心情剥き出しで話し掛けて来るのは、常との差がありすぎて些か不気味なのだけれど」


「相変わらず失礼な奴だな貴様は。まあいい、相談というのはユニークスキルの事だ」

(その、私のユニークスキルなんだが、少し問題が有ってだな)


「スキルの事なら教官達に相談すればいい事だろうに」


「それでは駄目だから貴様に持ち掛けたに決まっているだろう」

(とにかく聞いてくれ!私のユニークスキルは『黒歴史』というんだ)


「『黒歴史』?君の黒歴史と言えばアレかい?中学の時の……」


「思い出さなくて良い!」

(本気でやめてくれ!)


「分かった。分かったよ。悪かった。それで、続きは?」


「うむ……」

(分かればいいんだ。それで『黒歴史』の効果説明だが『過去の傷を自ら抉る事で真の己を開放し世界に干渉する。精神的負荷(ダメージ)が甚大な程効力は広く永く時を刻む』というものだ。どう思う?)


「んー…。取り敢えずあの頃と同じように喋ってみたらどうだ?ほら『私の愛する土の妖精さん。私、綺麗なお花が見たいの。貴方の力で咲かせる事は出来ないかしら?』だっけ」


「う、うあああぁぁぁぁあああ!!!」

(アアアァァァァァァァァ!!!!!??!?!?!?!!)


 びったんびったん。

 効果音で表現するならばこれだろう。

 頭を抱えて全身を使い地面で悶えている。

 僕が口にしただけでこれだけのダメージなら自分で口にした時には『黒歴史』の効果で花畑が出来るんじゃないか?

 正気に戻ったら提案してみようか。

 きっと楽しい。


 まあ、それはひとまず置いて自分のスキルの検証もしなくてはならない。

 まずは、ステータスカードに自分の名前でも彫ってみようか。




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