プロローグ
例えば、超能力者。
例えば、霊能力者。
例えば、魔法使い。
科学的に証明する方法は未だ発見されておらず、世間では懐疑的な視線が多い。
けれど実際にそれらの現象に遭遇した場合、大抵の人は自分には無い力を持つソレを恐怖するという。それも当然だろうと僕は自分の経験から語る事ができる。
とは言っても僕自身がその感情を体感した訳では無く、そういった思いを抱いた人物が居るという事実を知っているというだけであるが。
僕は先に挙げた三つの中で言えば、超能力者の分類に入る。
サイコメトリーと言えば、テレビか何かでちらと耳にしたことは有ると思う。
日本語に直せば『精神解析能力』なんて言うらしい。『残留思念や心の籠った物品の想いを汲み取る』らしいが、身も蓋もない言い方をしてしまえば、他人の心や記憶を覗き見ている訳だ。
僕の場合は『視る』というよりは『聴く』事に特化しているけれど。
僕はそれを『副音声』や『心聲』と呼んでいる。
これはどうやら生まれついてのものだったらしく、僕は幼少期から随分と異質な子供だったようだ。今ではその頃の記憶は劣化して覚えてはいないが、両親の記憶を覗いて知っている。その際に当時の両親の会話を耳にして頭痛がしたのは良い思い出だ。(母「やっべ超能力者産んじまったよ。…あたしヤバくね?」父「ヤバいな。天才過ぎるぜ」)
気味悪がられなかったのは良かったけれど、力の乱用を推奨される未来が待っているとは思わなかった。
お蔭様で随分と捻くれて育ちましたよ。ええ。
人間の中身なんて殆ど真っ黒でしたよ。ええ。
趣味は盗聴ですが何か問題でも?
そんなこんなで無事に成長してきたんですがついに先日高校生になりまして、新しい生活だー、と死んだ魚のお目目と評判の瞳を薄く開けて謳歌していたんだけれど。
どうやら今日はいつもとはひと味違ったようで。
朝の始業の時間、教壇に立った担任が号令を掛けた時。
ピカッ
なんて、使い古された効果音と共に光が溢れた。
反射的に目を瞑ったけれども然程効果がなかった様で、光が瞼を貫いて世界を白く染め上げた。
そして今、自分について語ってみたりした訳なのだけれど。
世間的に非現実な超能力者が現実逃避したい非現実が目の前にある。
足元には魔法陣。
ずらりと並ぶ神官服らしきものを着込んだ男女。
そして魔法陣のすぐ外に居る顔の似通った美男美女。
これはつまり、最近流行りの異世界召喚というものでは。
それもクラス単位の。
あまり信じたくはないが、
「ようこそ御出で下さいました。勇者様方」
(うっわやべぇ、本物出て来ちまった。帰ってくんねーかな)
「勇者様!どうか!どうかこの世界を魔の手からお守り下さいませ!!」
(ああ!本当に、本当に来てくださった!これで世界は救われる!)
どうやら確定らしい。
風宮鈴音16才。面倒事に巻き込まれたようです。
というか男の方、そう言うなら帰せ。今すぐに。