はじめてのおでかけ -予定調和-
こんばんは、夜遅くに失礼します。
投稿遅くなってしまいすいません。
それではお楽しみください。
朝起きる。
歯を磨く。
顔を洗う。
リビングに行くと、既に母さまが出かける支度をされていた。
「あら、ワカちゃん、もう起きたの。早起きね。お母さん今日は会議だから遅くなりそうなの。
ルールーに頼んであるから、大丈夫よね?」
「はい、母さま。いってらっしゃい。お仕事がんばってください。」
「ふふふ。本当にうちの息子はよく出来た子だわ。行ってきます。」
昨日あんなことがあったのに、うちの母さまはすごい。
ナチュラルに言葉を交わしてくれる。
私にはとてもありがたいことだ。
【この忌子が。あんたが産まれてきたから!】
うん、考えないようにしよう。
私の今の家族はここだ。母さまと父上。ルールーと、昨日増えた二人。
これが今の私の家族だ。
(主よ。聞こえるか?)
うわ。いきなり頭のなかに声がしたからびっくりした。
この声はマティのものだ。
(うん。聞こえるよ。そっちは問題なかった?)
(お館様が若干ぐずっていただけだ。問題ない。今日はいかがするおつもりだ?)
(折角母さまから許可も出たことだし、外を出歩いてみるつもりだよ。
マティは大丈夫?出られそう?)
(ふうむ。お館様がぐずっておられる故、あまり目が離せない状況である。何かあったら呼んでくれ。)
(分かった。そうするよマティ。がんばって。)
17歳でぐずるってどういうことだ。
お気に入りを取られて、やっかんでるってことなのか?
魔王様も可愛いもんだな。あ、だから崩御されたってのもあるのか。
さて、じゃぁ俺は朝飯食ったら行動しますよって。
さっと朝食を終え、身なりを整えると、ワカは外へ出かけた。
「あらワカちゃん。一人でお出かけかい?」
ドアを開けたそばからファーストコンタクトだ。
この美人さんは、左隣の魔族のお嫁さん。
名前は確か、、シェーラさんだ。
「はい。昨日、導きの儀が終わったので、母さまから許可を頂きました。今後共よろしくお願いいたします。」
「あら立派なご挨拶だね。こちらこそよろしくね。」
にこやかに挨拶を返してくれたシェーラさん。
赤い髪に金色の瞳の鬼族だったかな、その姿は美しい。
ただ、聞くところによると、怒らせるとめちゃめちゃ怖いらしい。
うちのマンションには各部屋のドアの前にアプローチのようなちょっとした空間があるのだけれど、
シェーラさんのお家の前には鉄格子の外ドアが嵌っている。
その一箇所、ちょうど目線の高さの部分には、左右の格子の幅が狭まっているところがある。
言わずもがな、怒ったシェーラさんがドアの向こう側から、格子を掴んでぐにゃりと曲げてしまったらしい。
何をして怒らせたのかは、母さまは教えてくれなかった。
なんとなくわかるけどな!
さて、マンションを抜け、外にでると、
まだ朝の早くだというのに、案外人出があった。
地球のこの辺りは、この時間帯はまだ死屍累々。土曜、日曜の朝なんて歩けたものじゃなかったきがする。
でも、この世界のこのあたりは清潔で、穏やかな朝だ。
すぐ横の広場では軽食の屋台や、野菜や果物を売っている野市が出ており、
地球でのイメージがある私には少しミスマッチな様子に見えてしまった。
「おう、ぼっちゃん。果物買ってかねえかい?」
目の前を通ると、果物を売っているおじさんに声をかけられたので、
折角なので売り物を覗かせてもらうことにした。
「おじさん、ぼく環でしかお金払えないんだ。でも、どんなもの売ってるか見せてもらってもいいかな?」
「おう、こりゃしっかりしたぼっちゃんだな。構わねえよ!好きなだけ見てってくれ。
なんつったってうちの果物はうまいもんばっかりだからな!」
ガハハと大きく笑い、人好きのする笑顔で招き入れてくれた。
移動式であろう店には、色とりどりの果物が載せられ、
10種類はあるかと思われる果物が所狭しと並んでいた。
地球的には
りんご、オレンジ、バナナ、ぶどう、かき、いちご、メロン、すいか、マンゴー、もも。
季節感皆無。
ま、それはいいとして、
みんなみずみずしくて、美味しそう。
桃もハチハチにふくれているし、りんごも表面がテカテカ光っている。
ぶどうにしたって、房のじくは太くてしっかりしているし、すいかの音もいい。
あ、この果物屋さん本物かも。
そうして目をキラキラさせて果物を見ていると、
「おう、ぼっちゃんよ。どうやら果物が好きなようだな。どうだ、試食していかねえか?」
「え、いいんですか?」
「構わねえよ。ほれ、今日のイチオシはこのシンデレリンゴだ。うめえぞ!」
おやじさんはひとつりんごを掴むと、手ぬぐいでキュキュっと磨き、そのまま丸々手渡してくれた。
鼻を近づけて匂いをかぐ。
ああ、りんごの蜜の香りがいっぱいに広がり、思わず笑みが溢れる。
思い切りに齧る。
りんごのジューシーな果肉が口の中で弾け、その華やかなかおりがまた私を包み込む。
果汁にしたって、ただ水っぽいのではなく、しっかりと味のある水分で、
りんごの果肉の硬さも、やわらかすぎず、硬すぎず、そのまま食べるには最高のものだった。
「おじさん!これすっごく美味しいね!」
「そうか!そうだろう。なんつったって、おじさんの選んだりんごだからな!ガハハ!」
これはいい出会いだ。きっと母さまはこの店のことを知らない。
ルールーならば知っているかもしれないが、果物が食卓に上がるときに、ここまでのものは食べたことがない。
絶対に贔屓にしようと心に決めおじさんにお礼を言い、立ち去る。
今日は一番街の方へ歩いてみるつもりなのだ。
家の前を抜け、幅の広い通りを闊歩していくと、松◯のあたりにこんな時間から顔の赤いゴロツキが屯しているのが見えた。
この辺りは、母さま曰く、昼間は穏やかで、夕刻からアルコールを出す店が増え始め、
深夜になっても開けている店も多くあって、時々憲兵が見回りにくるようなところらしい。
うん、地球と一緒だね。
ゴロツキのいる道の反対側を抜け、ビック◯メラ方面へ。
駅前通りに抜けるとそこには、新宿駅の建物がほぼそのまま鎮座していた。
あれはパル◯ビルだよな。ということはあっちに見えるのは、
まじかよ。都庁もあるぞ。
どうやら東口一帯だけでなく、新宿駅を中心とした一定のエリアが再現されているらしい。
じゃあ、西口のあの立体的な構造とかどうなってるんだろう。
とか考えていると、地球では線路があるべきところを、見たことのない生物が引いた馬車のようなものが走ってきた。
どうやら、この大きなサイとトカゲを足して2で割ったような生き物が引く連結馬車が、こちらの世界版の電車なのだろう。
スピードは早くはないが、4つも客車をつなげ、そこそこの人数を乗せて走っているように見えた。
とすれば、西新宿駅はどうなってるかな。
新宿駅からすれば規模の小さな西新宿駅。そちらに行ってみると、
そこには1両編成の荷馬車が乗客が乗るに付き、次々と出発していった。
どうやらこっちはタクシーのような形で使う獣車らしく、繋がれている魔獣は多種多様だった。
先ほどのようなサイとトカゲが混ざった魔獣、イノシシのような魔獣、バイソンのような魔獣などなど。
その異世界風景に呆け、満足して立ち去ろうとすると、
何かにぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい。」
臭い。
酒臭い。
嫌な予感しかしない。
「おう?なんだガキぃ、てめぇ俺がハゲタカのゴンザ様ってわかってんにょかぁ?おい?」
周りにはいつの間にかこの酔っぱらいの取り巻きが囲んでいる。
よくよく見れば、さっきスルーしたゴロツキ集団ではないか。
こいつらもおうちに帰るために西新宿まで歩いてきたのだろうか。
「おうい、にゃーんかいったらどうなんだぁ?ああん?」
顔を近づけて吐く言葉も三下なら、吐く息は臭くてたまらない。
こういう奴にはお仕置きが必要なのだが、いかんせん私はまだ三歳の幼児。
ここはおとなしく、
逃げろ。
位置について、よーい、D
「おい、てめえら何やってんだ?」
「あ、頭。おはようございます。ちょっとこのガキにぶつかられまして、とっちめてたところです。」
「ふん、そうかい。ああ、なんだこの身なりの小奇麗なガキは。
さっさと身ぐるみ剥いで裏町へ売ってこい。」
「へい。お頭。」
あ、ダメだ。このやたら強そうなお頭さんが来たおかげで、逃げられそうな隙ありまくりの弛緩した空気が
一瞬にして緊張した空気になってしまった。
これじゃあ、誰かの注意は引けても、全員の注意までは逸らせない。
というより、お頭がきっと抜けられない。
参った。
仕方ない。
困ったときには呼べって言ったよね。
ね?
マティウリス?
「ああ、どうしたワカ。」
いきなり目の前に現れた、黒衣の魔の者の姿に、あたりは一瞬にして空気を変える。
酔いの回っていた目は見開かれ、
舐めきっていた顔は引き締まり、
ワカから奪ったもので何をするかを考えていたものは
自分の命をどうやって奪われないようにするか考えていた。
「あのねマティ、僕このおじさんにぶつかっちゃったから謝ったんだけど、
おじさん達許してくれなくて、僕のこと身ぐるみ剥がして売っちゃうんだって。」
「ほう、それはいいことを聞いたな。ワカへそのようなことをしようとする不届き者たちには、
我が裁きの鉄槌を下してやろうぞ。」
言い終わるや否や、両の腕を伸ばした先から、二振りの漆黒の剣が現れ、
空間から引き抜くと同時に、紫色の雷電があたりを踊った。
「さあ、覚悟はいいな?」
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
いかがでしたでしょうか。
マティ無双のアオリです。
8話まで、まったくもって若頭とか、異世界料理とか無くて、
タイトル詐欺になりかねなかったので、
頑張ってお話を進めました。
ワカももう少し大人になれば、きっと大立ち回りさせられるんですけどね。
もうちょっと3歳時続きます。
たこさん