広域警戒配備 - やるときゃやらなきゃだめなのよ -
こんばんは。
本日2話目となっております。
暗い。
痛い。
手と足に巻かれた縄。
魔力を出そうにも、何故かうまく発動しない。
私は今、
誘拐されています。
「へへへ。身なりの良いガキンチョゲットだぜ。」
「これで俺らも幹部昇進!」
「リッチな生活も夢じゃない!」
どこかで聞いたようなことを宣う3馬鹿だ。
これで俺が黄色い電気ネズミだったら間違いないよな。
「んで、ボスはなんと?」
「ああ、いつもの獣車置き場に来いとな。」
「オッケー。それでは、いけ!サトシ!」
あ、アウトー
どうやら魔獣の名前らしい。
ガタガタと揺れ始めた魔獣車は、ゴトゴトと車輪を揺らしながら進んでいく。
何故念話が通じないのか、不思議に思いながら、
全く恐怖感を感じずに、私はおとなしく袋にくるまっていた。
その頃……
「おい。ヌエ。緊急事態だ。」
「あら、マティウリス様、いかがされましたか?珍しくそんなに慌てていらして。」
「これが慌てられずにいられるか。ワカの魔力が消えた。」
「なんですって!」
「我も油断していた。200メートルの距離だと思い、一瞬感知を怠っておったのだ。
何たる不覚。ワカになんと詫てよいか分からぬ。」
「マティウリス様、そのような事をお考えになられるよりも、ワカ様をお探しになる方が先ではなくて?」
「最もだ。むむ、しかし。。」
「おい。マティ。ワカの気配が消えたぞ?どういうことだ。」
「おお、フェン。実は、カクカクシカジカ」
「なに!お前馬鹿野郎。父上の前で大見得切っといてそれはまずいだろう。」
「我が至らぬ点は百も承知。さするに今はワカ様が何処へ行かれたか。」
「現場はどこだ?」
「どうやら、我らが居の直ぐ表のようだ。果物屋の主人が不審な3人組を見かけておる。」
ここは若葉組事務所。
先ほどヌエが名前を決め、人数に物を言わせて一瞬で掃除を完了させたあの寝床だ。
床磨き、ガラス拭きも完璧だ。
ゴミの分別も間違いなくさせ、先ほど足りない備品の購入に今まで溜め込んだ金を使い、買いに走らせているところだ。
ワカから、領収書で後で精算すると言われたが、自分たちの生活の場になるので、今回ばかりは辞去した。
そういう訳もあって、今は汚れの落ちたソファーセットと、テーブル。辛うじて生きていた観葉植物しかなく
ガランとした30畳ほどのスペースに、突然先ほどの黒衣の麗人が現れたかと思えば、
遅れて違う狼人が現れたので、周りの元ゴロツキ達は再度震え上がっていたのだが、
彼らが話す内容を耳にすると、一大事だということが理解できた。
「マティウリス殿。ワカ様に何かあったのですが?」
「おう、オーガン。緊急事態だ。ワカが攫われたらしい。」
苦虫を噛み潰したような表情で、怒りを抑えきれずにマティウリスの体から魔力の放出が漏れ出ている。
色々な意味でまずいと悟ったオーガンは後ろを振り返ると、
集まっていた面々は、静かに頷く。
「マティウリス殿。あっしらに最初の仕事をさせて頂けやしませんか。」
「人探しか?」
「へい。お聞きしたところ、ワカ様の魔力を通さない入れ物に入れられて運ばれている様子。
裏の世界にはそういった面倒なものも出回っておりやす。
裏の世界は、裏の住人にと。餅は餅屋というやつです。
ここの直属の構成員は22人ですが、声をかければ、この街には目となり耳となるものは数えきれやせん。
どうか、手伝わせて頂けませんでしょうか。」
「ふふ。是非もない。我等が幼き主君に仇成す者、共に消してくれようぞ。オーガン、頼めるか。」
「へい。畏まりやした。
聞いたか?お前ら。マティウリス殿からお話のあった通りだ。ボスが攫われた。
街中に緊急事態発令。果物屋には人相書きを手伝ってもらえ。
それと、人を攫うのに、車を用意してないわけはない。見慣れない車がいたら、片っ端からひん剥いてやれ。
間違ったらごめんなさいだ。事情話して連絡先教えて、そっちの人たちにも手貸してもらえ。いいな?」
「「「「「「「「「「「「「へい、おやじ。」」」」」」」」」」」」」」」」
訓練されたゴロツキ達は、すこぶる迅速に街の中へ駆けていった。
まず身を清めさせられた彼らは、片付けの後、
どこからかヌエが取り出した揃いのスーツに袖を通していた。
さながらそちらの人のような見た目になっている彼らは、方々に散っていき、
あるものは、昼食の繁盛店の女将さんのところへ行き、それとなく情報を集めてもらうようお願いに行った。
あるものは、果物屋の主人のところに行き、不審な3人の人相書きを作りに。
あるものは、そのまま屋上に上がり、白い閃光弾を放つ魔石を使い、私的な部下を集め更にコマを増やす。
ある者達は、違う街へと繋がる道へひた走り、目につく獣車に一台一台協力という強制をして確認をしていた。
素晴らしいとしかいいようの無い連携プレーにより、
瞬時に犯人らしき一味の顔が割れた。
「こいつぁ、レイクタウンのとこの三羽烏ですね。」
オーガンはそう呟くと、マティウリス達3人に、人相書きを手渡した。
「その三羽烏ってのは、どんなやつなんだ?」
「フェンよ、焦るな。」
「マティウリス様、テーブル握りつぶしてるわよ。」
「マティウリス殿。我々も向かいましょう。最低限の連絡要員は残していきやす。
行き先がレイクタウンとも限りやせんので。」
「分かっておる。くそっ。レイクタウンにさえ訪れたことがあれば、転移が使えたものを。。」
「使えんものを嘆いても仕方ないぞ。今はワカ様になるべく早く追いつくことだ。
俺の足はお前たちより早い。先に行くぞ。マティ。」
「ああ、頼んだフェン。俺も直ぐ行く。」
そう言って次々とビルから出て行く面々。
その誰もが彼の無事を祈っていた。
「む。ワカの魔力だ。」
「で?どうされたいの?」
ここは獣車置き場の一角。
あまりに大人しすぎる袋の中身が気になり、
状態の確認のために、袋の口を開け、中を覗き込んだ。
そこにはピクリともしない子供の姿があり、慌てて拘束を解き、肩を揺する。
すると、
パチリと目が開き、安堵したその瞬間、
得も言われぬ恐怖と、底知れぬ圧力に、背中から嫌な汗が流れるのを感じた。
体は動かず、空いたままの口は段々と乾き、息が続かなくなっていく。
こんな幼子から発せられると信じがたいプレッシャーで心が折れそうになっていく。
「ねえ。ここはどこ?」
その一言一言が重たいパンチのように、精神力をもぎ取っていく。
終いには、3人揃って地面に座り込み、己のしてしまったことを後悔するまでになった。
「おい、ジャン、拳、ポ・ウン、そこにいるか?」
暗がりから、ピンストライプのスーツを身につけ、
後ろにガラの悪い輩を引き連れた男が気さくに声を掛ける。
普通なら、『助かった』だの、『これからだ』と、感じるはずだが、彼らの口から出た言葉は、
「「「来ちゃダメだ!」」」
その声にピタと足を止める新たな人影。
そして不審げに、ゆっくりと、こちらに向かって歩みを進めるようになった。
「ジャン、どういうことだ。『来るな』ってのは?」
「駄目だよ。ボス。逃げてくれ。」
彼我の実力の差が感じられるのならば、この3人のほうがまだましか。
あっちから歩いてくる奴らはただのバカか。
俺は捉えている。
彼らの気配を。
否、子供達の気配を!
突如、雷鳴のような爆発音とともに、声をかけてきた集団とは反対側のドアが弾け飛ぶ。
逆光に当てられ、シルエットに映し出されるその姿は、
その形だけで、既に頼もしいものだった。
「ワカ。カチコミじゃ!」
ここまでお読み頂きましてありがとうございます。
オーガンがすごく頼りになっています。
キャラ立ちしてくれてとても嬉しいのですが、
どうも物語の序盤は話の動きが遅く感じてしまいます。
さて、次回は、レイクタウンのゴロツキVS若葉組でお送りします。
初の、ちゃんとした抗争シーンとなる予定です。
たこさん