プロローグ
太古の昔、世界というものが存在していなかった頃、闇の神と光の女神が誕生した。二人はお互いの存在を大切に想い、過ごしていたが、光の女神は闇の中で二人だけでいることを寂しく思うようになり、闇の神の力を借りて人間界を創造した。
生あるものを創造することの楽しさと、創造したものへの愛しさを感じた光の女神は、再び闇の神の力を借り、世界に自分たちと同じ姿をした人間や、いろいろな生物を創りだして、心から慈しみ、育てた。
光の女神は、人間界を育成することに夢中になった。闇の神は、光の女神が人間界の者たちばかりかまって、自分を見なくなったことが、いたたまれなくなり、行き場のない怒りと憎しみを人間界に向けた。そして、光の女神の目を惹くすべてのものを消し去り、再び自分だけに目を向けざるを得ない状況を作り出すことを決めてしまった。
闇の神が、その足掛かりとして始めたのは、人間界と敵対させ、すべてを破壊させるための力を持つ存在の創造。闇の神は、闇の力のみで、新しい世界とその世界に住む魔力を持つ者を、創り上げた。
新しい世界の名は、冥界。人間界に比べ、その広さは小さいものだったが、森や川、谷や草原、果ては砂漠まで存在する、起伏に富んだ世界であった。
この冥界に住むことになったのは、五つの種族。
毒に関する魔力に長けた、スライム族。
水に関する魔力に長けた、セイレーン族。
大地に関する魔力に長けた、アサシン族。
魔力はあまり持たないかわりに腕力を持つ、コボルト族。
魔力も腕力も、すべてにおいて長けている、龍人族である。
さらに、闇の神の意志を伝達し、五つの種族を纏める者として、魔王を生み出し、魔王の一族を、魔の一族と称した。
すべてを創り終えた闇の神は、自らを冥界の王・冥王と名乗り、冥界の住人に人間界への憎しみを受け付けた。冥界の住人達は、冥王の意のままに、人間界を破壊し始めた。
このありさまを見た光の女神は、嘆き悲しんだ。そして、冥王と冥界の住人たちから人間界を守るために、光の力のみで新しい世界を創り、冥王たちの襲撃で命を落とした人間や、生物の魂を転生させる場とした。また、人間の中でも特殊な能力を持つ者と婚姻を結び、永遠の命と引き換えに、光の女神の力を受け継ぐ神々を誕生させて、人間界の守護者とした。
光の女神は、新しく創った世界を天界と称し、自らは天聖神と名乗った。そして、人間界を守護する、己の血脈の者たちを総称して天聖一族とした。
こうして、冥界と天界の、人間界を巡る争いは、長い間続いた。しかし、気の遠くなるような年月を争ううち、冥王は天聖神にその魂を封印され、冥界は混乱した。冥王という存在がなくなったことで、年月が経つとともに争う理由を忘れ、冥界が存在する本来の意味を知る者が消えていった。人間界や天界に好意を持つ者が現れ、愛を覚え、平和を愛する者が、存在しはじめていく。
その結果、争いは一時中断し、冥界と天界は、人間界に手を出さないという暗黙のルールの元、互いの存在を少しずつ認め合うようになった。
これにより、すべての世で、平和と言える状況が訪れることになった――