3
M君が私に第一の露出事件について話してからちょうど一ヶ月ほど経った、今年の二月のある日のことだった。M君から私に、突然電話がかかってきた。私が電話に出ると、M君は電話の向こうで息が荒く、一言しゃべるごとに「ぶーっ。ぶーっ」と鼻息を立てながらこう言うのだった。
「いやあ、またやった。やっちゃったよ」
電話を通しているので表情はわからないが、うれしそうな声である。
「何が?」
私が聞くと、
「露出だよ。今やってきたところ。また体を見せつけてやった。最高だよ!」
それからM君は興奮しながら、順を追って、だいたい以下のようなことを私に話してくれた。
*
その日、第二回目の露出をすることを決心したM君は、再びあのベンチコートを着て実家を出た。時刻は夕方、獲物とするべき中学生の下校時刻に合わせている。
この日は地元の中学校の近くまで歩いた。下校途中の中学生に、無差別に露出をしようという魂胆である。中学校のそばに、いつも人気の無い公園がある。ブランコとすべり台とベンチが一組ずつあるだけの、実に小さな公園である。M君はこの公園で獲物を待つことにした。
M君は公園内に人がいないことを確認すると、公園に入り、古びたベンチに座った。ベンチからは、公園の敷地を越えて、中学生の通学路になっている通りが見える。
陽が暮れていく中、M君はベンチに座って、中学生達が一人、また一人と下校していくのを見送った。大体の中学生が、自転車に乗って帰っていく。しかし中には家が近いのだろう、歩いて帰る生徒もいる。その歩いて帰る生徒が、M君の今日の獲物である。
三十分ほど待っただろうか。獲物がやってきた。前回と同様、やはり青い体育着を着た、一人きりで下校していく女子中学生である。その中学生が公園の前を横切るのを確認すると、M君はベンチから立って公園を出、彼女の後を追った。
幸い、その中学生の他にあたりに人はいなかった。中学生は薄暗い路地を、(これから二十七のおじさんの体を見せつけられるという気味の悪い思いをしなければならないとは知らず)のんきに歩いていく。その背中をM君は早足で追っていった。
後ろから見る限り、やや大柄な女の子である。背が高いばかりか、体育着の腰のあたりにむっちり肉がついているのが分かる。先ほど公園の前を通り過ぎる時、ちらとM君に見えたのだが、顔もお世辞にもかわいいとは言えないような子だった。一言でまとめると、いかにも田舎くさい、イモっぽい女の子である。しかしM君にとっては、それがまた、前回の小動物のような小さくてかわいらしい女子中学生とは別の興奮を覚えさせる要因になるのだと言う。それまでの人生でまだ男の体を見たことが無いに違いない、いかにも性体験の無さそうな女の子に、自分の汚らしい裸を見せる――。それが、M君にとっては「たまらない」のだそうである。
M君は早足で中学生を追いかけ、すぐにその後ろに追いついた。M君のややこしい嗜好としては、体を見せる直前の、この緊張と興奮をもっと長い時間味わっていたかったそうであるが、いつ他の通行人が現れるか分からないから、そうはいかない。そのまま、のんびり歩いている中学生に、一息に並びかけた。そして、中学生の左隣に出ると、
「お嬢さんお嬢さん」
小さな声で話しかけた。中学生はけげんそうな、不安の入り混じった顔でM君の方を見た。
「んばっ」
M君はここぞとばかりに体を中学生の方に向け、コートの前をちょっと開き、(M君が私に話したその言葉に従うと)体を中学生に「ちょい見せ」した。開いたのは一瞬で、すぐに両手でコートの前をかきあわせ、体を隠した。
中学生はギョッとした表情をし、M君から顔を背け、物も言わずに逃げるように早足で歩き出した。
M君はそれをさらに追いかけ、中学生の目の前に回り込み、立ちはだかると、
「ぺろーん」
と言いながら、今度はゆっくりコートの前を開いた。かわいそうな中学生はそれを見て、明らかに恐怖と動揺で顔を引きつらせた。
「・・・」
と、やはり何も言わずにうつむいてM君から顔をそらし、早足でM君を迂回するように抜き去ると、小走りに走って逃げ出した。
M君はもうそれ以上中学生を追おうとはせず、コートのファスナーを上げ、逃げて行く中学生を見送りながら、ニコニコと実に満足そうな笑みを浮かべた。
*
「あの子、俺の体見てどんなこと思ったろうなあ。それが聞きたい。いやあ、最高だよ、JCは」
M君はその日彼がした露出の一部始終を私に話し終えると、満足げな声でそう言った。話し終えるころにはだいぶ興奮も醒めやんだようで、鼻息は治まっていた。
「いや、最高だって言ってるところ悪いけど、やっぱりそれは良くないよ。もうやめなよ」
私は、いち人間として、友達を犯罪の温床から救いだすべく、M君を再び説得しようと試みた。
「なんで」
「なんでって、犯罪じゃん。女子中学生にも迷惑がかかってるし、捕まりでもしたらどうすんだよ」
「大丈夫、捕まらないように月イチに抑えて我慢してるから」
「いやいや、月イチで我慢してるとか、頻度の問題じゃないから」
「まあいいじゃん。大丈夫だよ、田舎だし、そうそう捕まったりしないって。それに、今さら捕まったからなんだって話じゃん。どうせ俺、プー太郎なんだし。それよりさあ、今度また飲まない?」
これである。自分が罪を犯しているという意識が薄いのか、とがめる私を軽くあしらって、露出の話から別の話題に移っていってしまうのである。私はこの友人のあっけらかんとした態度に不安を覚えながらも、いくら友達とはいえあまりしつこく詮索するのも気まずく思え、M君の話題の転換に逆らうことなく流されてしまったのだった。




