表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

2

 M君が大学卒業以来勤めていた会社を辞めたのは、二年前の三月のことである。


M君は大学卒業後、工事機械のモーターを作っている東証二部のメーカーに就職した。


この会社が、M君にとって良くなかった。M君は横浜の営業所に配属されると、朝から晩までお客さんの元に出向かされ、モーターの修理をさせられた。新人で分からないことだらけでただでさえ仕事は辛い上、M君が出向く時、機械は故障しているのでお客さんの気持ちは一様に荒れており、朝は早く、帰りは遅く、睡眠もろくに取れない。事業所に帰ると先輩になじられる。


・・・それが二年間続いた。勤続日数が増すごとにM君は元気を無くしていき、私と会うときもネガティブな発言が増えていった。M君と私はあるとき街コンに行ったが、女の子と話していてもM君は仕事の愚痴に入ってしまい、しまいには「本当、死にたいですよねえ」と女の子に言い出すので、私はフォローに困ってしまったことがある。それから、M君に会っていないときも、私の携帯にM君から突然「死にたい」というメールが入って、私は慌てて電話をかけ、しかしつながらなかったので、「とにかく明日仕事を休め」とメールを返し、それにもM君からの返信は無く、結局数日後「今度遊ぼう!」というけろっとしたメールがM君から入ったり、まあそんな、精神的に良くない状態が続いていた。


そして二年前の三月、M君はとうとう精神を病んでしまった。M君によればそれは「今までたまりにたまっていたものが噴出した感じ」だったそうである。


その月のあるときから、M君は、何をするにも集中できず、ぼーっとしてしまう自分に気づいた。営業所で昼食を食べているときも、食べるのがめんどうくさく、弁当を前にしてぼけっとしてしまう。お客さん先に修理に行っても、モーターを前にひとりぼーっとしてしまい、気づくと何もせずに十五分、時計が進んでいたりすることがあった。夜は眠れない。そして――ここからはM君は私にも詳しくは語ってくれないが、ある日、やはり仕事に集中できず、仕事上のとある大きなミスをしてしまったそうである。


たまらなくなってM君は心療内科にかかった。パニック障害という診断名がついた。こうなったのは全て会社のせいに思えた。M君は、即座に会社を辞めた。


それからM君は茨城にある実家に戻った。(ちょうどそのころ、私も仕事のストレスから統合失調症になって栃木の実家に戻っていたので、栃木と茨城でお互いの家も近く、私たちの交流は続くことになった。M君が病気になった旨を聞いた時、お互いが似たような理由から同じ時期に精神病になったとあって、私は「そんなところまで仲良く似なくてもいいのにな」と苦笑したものである)そしてM君は、地元のキャバクラに通いつめ、四十万円ほどあった貯金をあっという間に使い果たした。そのまましばらくまごまごしていたが、やがて親に頼んで、公務員試験の予備校に通うことにした。地元の市庁舎にでも勤めて、気軽にこれから先を暮らそうと考えたのである。


M君はしばらく予備校に通ったが、(おそらく病気のせいから)自分が以前のように勉強に集中できない状態になっていることに気づくのに、あまり時間はかからなかった。試験はまるでだめだった。M君は全てのやる気をなくし、予備校に通うのを止めた。


こうしてこの国に、若手のニートがひとり新たに誕生したのである。M君は今、毎日昼過ぎに起きて、おばあちゃんが作ってくれた(M君の家では両親が共働きをしているため、だいたいの家事はM君のおばあちゃんがやってくれている)朝昼兼用の食事を食べ、それからひたすらゲームをしたりマンガを読んだりあてどもなく外をうろついたりして夜まで時間を潰している。晩飯では、毎晩安い焼酎をかなり飲んで、そのまま酔った頭でテレビを深夜まで見て過ごす。そんな、あまりにむなしい、浪費的な日常の繰り返しの中を暮らしている・・・。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ