柳【400文字小説】
いつも通りの帰り道。
なんとなく、いつもは通らない遊歩道を通ってみると、川沿いに柳の木が並んでいた。
よくある怪談なんかだと生暖かい風が吹いて、葉がざわざわと不気味に揺れる。根元に視線を映せば、幽霊が居たりするのかもしれないけれど、まだ夕方なのでそんなことはない。
その代わりに親子連れと思われる二人が川を眺めていた。
「あっさかなだ!」
女の子が川面を指差すと、母親が同じように川面を覗き込む。
「ほんとだ。魚がいるね」
「でしょ!」
女の子ははしゃぎながら魚を目で追っている。
「ほらほら、早くいくわよ」
「やだ! まだ、おさかなみたい!」
「またあとでも見れるでしょ。ほら」
「えー!」
母親が駄々をこねる女の子の手を引っ張っていき、遊歩道に静けさが訪れる。
「魚ね」
なんとなく気になって、ボクも川面を覗いてみると、町の真ん中なのにわずかに川面をのぞかせているその場所で懸命にとどまり続けようとするかのように魚が泳いでいた。