血の雨が降る日
ビルの最上階から見る空は荒れていた。
雲が渦巻き、まるで混沌としたこの国の象徴にも見える。
「マスターコーヒーを沸かしました」
「ありがとう」
今、このビルに居る"人間"は私ひとりだ。
他の動くものはアンドロイドだ。
アンドロイドと言っても、時代は進歩して見た目はほぼ人間と一緒だ。
唯一、機械らしいところを挙げるとすれば近づくと駆動音がするという些細な事くらいだ。
これを作った我が社は一気に急成長。この新宿という街を見下すことが出来るようになった。
彼らの支援がなければここまで来ることができなかった。
何故、私の研究を支援してくれたか。想像はつく。
が、しかし。
娘を生きかえらせるためにはどうだっていいことなのだ。
「一つ質問をしてもよろしいでしょうか」
「…なんだ…?」
「なぜわたしたちをつくってくれたのですか?」
「…自分の願いを叶えるため、というところだ」
「なるほど」
これはただの会話システムだ。
アンドロイドの会話システム。
疑問を投げかけ、答えが肯定、否定のどちらにも対応する相槌を打たせる。
「…とんだ、子供だましだな」
そんな子供だましのからくり人形は一般に出荷しているアンドロイドだ。
この玩具はちょっとした資金稼ぎ。
私が黒い支援を受けてまで完成させようとしているのは"人間"だ。
「パパ、早く私にからだをちょうだい」
「わかってるよ、ミコト…安心しろ、もうすぐだから」
PCから娘の声がした。
冷凍保存していた脳から必要な情報は取り出しておいた。
あとはこれを入れてちゃんと動く器だけなんだ。
「無理…してない?」
「パパはミコトのためだったらなんでもできるのさ、だから死んだミコトとこうしてまた話せてる」
「うん、ありがと」
あと少しなんだ。
「ちのあめがしとしとふるよ
いかりがかさなりあなたをおそう
それをうけとめるかくごがあるのなら
あなたはそのけしきにぜつぼうするね」
「またか…」
娘の情報はちゃんと抜き出せたはずなのだが、たまにおかしな事を言い出すことがある。
バグではない、娘が何かを伝えたがっているのは間違いないのだが。
いったいなんだ。
「パパ?」
「なんだい、ミコト?」
スピーカーを通して、娘が言う。
「もうすぐお祭りの季節だね」
その時、すべてが始まった。
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