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忍び寄る過去とアンドロイドの恋と九尾きつねの嫉妬

   ◆

混沌とした意識が漂う宇宙のような空間で誰かがニッコリと微笑んでいた、優しい笑み……そして手を振りながら彼女は言った……アスタルテ……その言葉が鍵となり俺は徐々に意識を取り戻した……ってな、何なのだ!

身体がしびれる様に動かない、手足の関節も言う事を聞いてくれない……そして何よりも寒い。

だけどそれを調和するように暖かい物体が抱きついているような感覚。

俺はそっと目をあけると……どどどどど、どうしたんだぁぁぁ!

あまりの驚愕に意識がはっきりと戻った……身体中が冷たく痛いがそれを超越する驚きのおかげで痛覚がマヒしているようだ。

俺を抱きしめている物体……それは素っ裸のミュウだった……濡れた髪はいつものツインテールではなく腰まであるストレート……恋人同士が一夜のお楽しみをしているような程ぴったりと密着している。

「気がついたかミュン」

瞳をうるうると心配そうに見上げてくるミュン、いつもと違って凄く蠱惑的に感じる。

俺は喋ろうとするがろれつが回らなく上手く言葉に出来ない。

そんな俺を諭すような眼差しで申し訳なさそうに「訓練中は実践と一緒ミュン。死を迎えるは未熟な証拠。私は間違えなく湖で罠にかかって死んでいたミュン」ミュウの小さな唇から零れる声が少し震えている。

「嬉しかったミュン。私、先輩として凄く意地悪したミュン。ホームシティは孤独ミュン。みんな孤独ミュン。自分の事で精一杯ミュン……なのに男女は」

ミュンの目から涙腺が緩み涙が溢れていた。頬をたどり、俺の胸板に落ちていく。

俺はミュウが頭を撫ぜようとするが腕が動かない。

「動くなミュン。低体温症ミュン。体温が二十度を切ると死んでしまうミュン。私を助ける為に自律的な体温調節の限界を超えて寒冷環境に身体を沈めて、体温保持能力が低下したミュン。恒常体温の下限を下回るレベルまで体温が低下し、身体機能にさまざまな支障を生じ、生命活動に危惧が発生しているミュン」

何か難しい事を言っているがボ―っとした思考能力ではぼんやりとしか理解できない――ミュウって意外と賢い奴なのでは!

そして、更にギュっと身体を押し当ててくる。

「私の体温で男女の低体温を調和するミュン。こんな時はエロエロ大王の性的欲求はおきないから安心して抱きしめられるミュン。……はっ!私の身体の柔らかさを脳内記憶フォルダーにやきつけるつもりなら後で殺すミュン」

言葉とは裏腹に何処か幸せそうにぐっと俺を抱きしめている、何だか哀しくて泣いていた子供が母親に抱きついているような雰囲気が伝わってくる。

「男女……お前と出逢えた事に感謝ミュン」

小さく消えそうな声がそっと聴覚に届いた、とても切なく、だけど暖かい言葉。

「――ミュン」

まだ、凍えて震えた声音だが、しっかりとした言葉が俺の口から零れると、ミュンはぱっとはなやいた微笑みを浮かべる

とても可愛らしい微笑み、その可愛さは世界規格ほどの美少女度偏差値が高い水準の微笑みだ――琴音がいなかったら惚れてしまうかも……ああっ、ごめんなさい琴音、決して浮気はしません!

脳裏によぎった腕を組んでプンプンしている琴音に脳内小人達は全力で土下座している。

少し身体がミュンの体温と調和して暖かくなってきた……傍でぼうぼうと燃え盛る焚火の熱もほど良く気持ちよい。

「体温を回復する捨て身の致命的戦法がきいているミュン。もう大丈夫そうミュン。ジャージ……落ち木があまり無かったから焚火で一緒に燃やしているミュン。だから、私達はここでリタイアミュン。裸では戦えないミュン」

少し哀愁が漂いながらミュンは俺から離れると、焚火に向かって身体を丸めながら体育座りをする。

ゆっくりと身体を起こした俺、両手の傷も綺麗に手当てされている。

辺りは真っ暗闇に焚火の明かりだけが淡く優しく二人を照らしていた――このようなシチュエーション。男?と女?が誰もいない中、二人っきり……しかも、一糸まとわぬ姿……ドキドキと俺の心臓が破裂しそうなぐらい高鳴る。

そんな永遠にも思える不思議な緊張感を破るようにおぼろげに焚火の灯りで幻想的に彩られたミュウがやや遠慮がちに言葉を呟いた。

「男女……琴音とは、そのどんな関係ミュン。とても気になるけれど、別に知りたい訳ではないミュン。ただ、知りたいミュン知らないと疎外感があるミュン」

何だかしどろもどろだな、それに疎外感って何?……

ふいに歩の髪の甘美な香りが風に誘われて辺り一面にファっと広がる。

何だかますます、ミュンが真っ赤になっていくような――もしやテンプテーションの能力はアンドロイドにも有効なのか(驚)

ミュウがこちらに振り返った刹那……真っ赤だった相貌が潮が引くように『すーっ』と仄かに青がかっていく、と言うかミュウ、少しきょどってませんか?

そんな俺もその元凶が背後に迫っていた事を認識する事になる。

「ゆるしませんよぉぉ。ゆるすまじぃぃ。千年の恨みに匹敵しますぅぅ!ミュウ!わたしぃぃのあゆむぅぅさまぁぁにぃぃ」

俺の背後、ミュウの瞳に反射して写る、ぼぼーっと肩から黒い気炎を上げて怒髪天を突くといった今日子。いや、とてつもない熱気が……肌が焼けるほどじりじりする。振り返るのが怖い☠

「ご、誤解ミュン!六階よりも下の階ミュン。今日子落ち着くミュン!この状況は普通にエッチな事しただけミュン。肌を寄せ合ってすりすりしただけだから落ち着くミュン!」

プチっと何か大切な何かが切れた音が――これは今日子の切れた音?それとも俺達の生命線が切れた音(涙)

次の瞬間半径六キロは覆う火柱が森を大きく飲み込んだ……ああっ、琴音、パパは死んじゃうかも――あれっ?

いつの間にか抱きかかえられていた……月夜の晩に抱きかかえられた美しいシルエット。

一糸まとわぬ俺をミュンがお姫様ダッコをして夜空を舞っていた、裸でお空、何か大切な何かを自尊心が失ったかも(涙)

その姿は月に帰るかぐや姫のような……ああっ、琴音、パパはお姫様ダッコされているよぉぉ(涙)

その後、大火柱事件のおかげで三日間の実戦訓練は僅か一日で終わる事になった。

後日談だが今日子の誤解を解いたミュウはお詫びとしてお菓子三日分を差し出したと雪野うさぎさんから苦笑いで教えてもらった事は付けくわえておこう。


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