お姉さんはキカイダー? 素敵な肌のむこうに
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「見た目より精神は成熟しているミュン!もう、じゅくじゅくミュン!トマトジュースより完熟ミュン」
シャキ―ン!と歩の鼻先に指を指してアホ毛とツインテールを揺らしながら得意げにふんふんと鼻をならしている。
「誰にでも子作りは駄目ミュン。エロミュン!歩はエロの巣窟ミュン。男女問わすに誘惑しているミュン。ホームスティの先輩として根性叩き直してやるミュン」
何故か草むらで正座させられる俺に高説?なお説教をたれるミュウ――
「幸せな奴ミュン、幸せを求めている奴はいっぱいいるのに、男女はいつも幸せは気づけばそこにあるみたいな奴ミュン……すこし……」
最後は口をごにょごにょさせて訥々としか聞こえなかった。
ところで何故、俺が正座をしながらアホ毛とツインテールを揺らしながら頬を膨らまし、お説教を受けているかと言うと……今日子に迫られた俺を間一髪のところでミュウが助け出してくれたのだが逃走の途中、第二施設のメンバーと遭遇、ミュウが応戦している間……何故か、相手側の男女問わず、告白されたり、目をハートにしてパッタンキュッと倒れたり……ホームスティに来てテンプテーション(誘惑)の能力が無意識に発動してると聞いたが、今までの人生の苦渋の根源、今なら理解できる。
本線からそれてしまったが、あまりの求愛され加減にミュウがなぜか激怒!空が模様替えの衣装替えが行われている中、ミュウに連れられて大きな池の畔で野宿する事になった。
――ぐぅぅぅぅぅ――
突然、俺のお腹の音が可愛らしくなった――はぁ、昨日から何も食べてなかったなぁと心でボヤいてしまう。
「?……お腹空いたミュン?みかんのつぶつぶ触感なみに可愛らしくお腹が鳴ってるミュン。男女は食べ物を持ってきてないのかミュン?」
俺は素直に頷くと呆れたようにミュウは大きく溜息をついた。
「馬鹿ミュン。三日の遠征授業ミュン。カシスオレンジよりも甘いミュン……しかたがないミュン。先輩の私が駄目っ子な後輩に食べ物分けてやるミュン。感謝するミュン、歳末決算大セールの電気屋さんの店員ぐらい頭をさげて感謝するミュン」
と言うと、『訪問販売お断り!』と書かれているウエストショルダーから棒状のラスクを取り出してぽきっと半分に折って歩に渡した。
「食べるミュン!今日子と違って禍々しい毒は入ってないミュン」
ううぅ、ありがたい。日頃は高飛車で傲慢不遜で俺の事を目の敵にするミュウから貰ったラスクを一口食べた瞬間……壮大に感じるほどの濃厚で芳潤な味が脳に刺激するようにひろがっていく。
驚愕しながらも受け取ってガツガツ食べる俺に目を細めてとても優しく見つめてくるミュウ……その姿にはいつもの刺々しさが感じられない。保護者のような暖かさだ。
「うまいミュン?」
その言葉に無言でコクリと頷いてしまう俺を見て、可愛らしい腕を組み納得したように相好を緩めた。
「当然ミュン!ラスク用のパン生地に24時間かけて発酵させたミュン!バターも自家製ミュン。不味いわけがないミュン!不味いと言ったら八つ裂きミュン。市中引き回しミュン。ちんこ踏みつけてやるミュン」
悪魔のような微笑みを湛えるミュン。
まるで先ほどの微笑みがフェイクに感じますよぉぉぉ♪
それにしても……ミュウ、さっきからずっと俺の顔をみてくるなぁ。
俺もちらりっとミュンの顔を見ると、少し小首を傾げて「どうしたのミュン」と逆に伺いをかけてくる。
すこし困った俺は軽く髪をかきあげて「ミュウは何だか世話をやいてくれるお姉ちゃんか妹みたいだね」と口ずさんでしまうがミュウはツインテールをピコピコ揺らしてこれ以上ない!と思える驚愕の面持ちを浮かべた。
そして、一瞬寂しそうな表情をつくるとプルプルと首を振り、ぐっと腕を組み高飛車な上目線で静まり返った空を見つめていた。
そして、ばさっと起き上ると「ちょこっと、水浴びしてくるミュン。覗いたら八つ裂きミュン」
くるりっと振り向いたミュウは少し屈みながらジト目でいわれなき罪を俺に押し付けると月明かりに照らされた湖へと駆けだしていった。
「なんだかんだで、面倒見の良い奴だな」と呟くとごろりっと草むらに横たわる。
いつものポジションには琴音がいない……超寂しい☠そんな心の、いや、本能の訴えを噛みしめながら、ポケットからクシャとなった一枚の紙を出して一点の雲もない煌々とした月に彩られた空を見上げていた。
紙には高坂歩の生態チェックとかかれている。
ホームスティに来て説明されたショッキングな出来事、俺は無意識に人の心を誘惑してしまうテンプテーションの魔力が規格外に発せられているらしい、ここに来てメディカルチェックの詳細な情報がそう示していた。
そして、人ではない……これは大きな問題だ……と言うか人でなければ何なのだ?そして、雄でもなければ雌でもない……ってなんなのだ!見かけはどうみても立派な日本男子ではないですか!……しかし、何故か男性からの告白も多い……などと懊悩してしまう。
そして、鏡を見るたびにぽっと自分でもしてしまうぐらいの造形美というべきか……本当に自覚してしまうぐらいの超美少女にみえてしまう。
たまにお風呂に入る時に自分を見てドキドキしてしまうのは内緒である。
にしても、体感時間として一時間ぐらいだろうか。ミュウが帰ってこない。
妙な胸騒ぎがする。立ちあがった俺はパンパンと黄色いジャージをはたき、イヤホンでミュウに連絡を入れてみるが応答がない。
その刹那、俺は湖に向かって走っていた。
何か不吉な予感が冷たく背筋を凍らす。
不安を振り払うようにミュンが消えていった方向に走っていくのだった。