幸せの始まりはホームシティの巻
ついに完結です。
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ガタンガタン……
そのリズムは果てしなく眠りを誘う妖精の子守唄のような心地よさを感じる。
仄かに揺れる身体、疲労が化学反応を起こして眠気を召喚してくる。
頬に手を当てて小さなテーブルに肘を置き、顔を横にそらせると車窓から見える田園風景が平和でとても寂しく思える。
『ホームスティ』
心地よい、非常識で刺激的で……そして……生きる価値を知った……素敵な想いと自分の存在価値を知った凝縮された一ヶ月間。
今は眠い目を擦りながら東北の実家に帰る為に、田舎ならではの汽車に乗り、マイ・スイート・エンジェル琴音と二人、ラブラブ❤に座っている。
ちなみに、この車両には琴音と二人しか乗っていないのでちょっとリッチな気分。
「ぱぱぁぁぁぁ☆」
幸せ溢れる声が聴覚をくすぐる。
俺を呼ぶ琴音は雪野お手製豪華弁当の至高のおかずの一品、エビの浜ゆでのエビの皮むきに苦戦している。
殻がうまくむけないのに、むきになって必死に頑張る愛らしい姿……こら、がじったら駄目だぞ―。
口周りやほっぺたまでいっぱいご飯粒をつけているキュートな琴音の笑顔……ああっ~眩しい……ここが世界の中心と言うぐらいに愛しているよ、マイ・スイート・エンジェル琴音☆
とはいえ、楽しい時間?……過ぎると言うものは早いものである。
夏休みももう残り一日……ホームスティと言う名の特殊訓練施設……俺はかけがえ……いやいや、もう二度と体験できないだろう、時間を過ごした。
えっ、あの後、リリスやミュウ達がどうなったかって?それは、どうも俺は気を失っていて、気がついたらホームスティの医療室のガッチガチに固いマットの上でベニヤ板の天上を眺めていた。
琴音が俺の腕をぎゅっと抱きしめながら気持ちよく眠っていて、寝顔に最大級のキッスをしたいぐらいだった。
ベットの傍らでは、ピコピコとアホ毛のように揺らしたツインテールのミュウとパープルのボブカットの今日子が泣きじゃくりながら俺に覆いかぶさってきたボディーアタックの感触はまだ新しい。
部屋の脇でうさぎ型のリンゴをむいていた雪野の眼差し『ギロリっ』と何だか怖かった事も鮮烈すぎるほど海馬に記憶されている。
リリス……いや、ママは白面金尾九梶眷属が長、女帝・妲己との和解の交渉に忙しく、しばらくは俺の事を信じて自由にしてくれると、義理の妹のユーノが言っていたらしい(今日子談)……ユーノに無理矢理付けられたやきそばのネックレス……センスはないが付ける事が条件でしぶしぶ引き下がった感があった(ミュウ談)。
そして、俺の手には先ほどかばんの中に隠されていた一通の便せん。
俺は便せんに入っていた可愛らしい?カバの形に切り取られたお手製の用紙に目をむけた。
高坂 歩様
この、お手紙を読まれている頃はもう、ホームスティを離れて、日本と言う島国にご帰還されているころだと存じ上げます。
リリスの城での私への告白……真意をお伺いする暇もなくあわただしく時は過ぎてしまいました。
正直、驚きましたが、私なりに熟慮した結論をお伝えいたします。
…………嬉しいですがまずはお友達からと言う事で、機会を伺ってご両親へのご挨拶に参ろうかと思う次第でございます。
ふつつか者ではございますが嫁として恥ずかしくないように努力いたします。
よろしくお願いいたします。
PS
子作りは結婚初夜までお待ちくださいませ。
雪野 うさぎ
はぁぁぁぁぁ……ドでかい溜息一つ。
彼女の心境の変化はなんなのだ!!もしや、これが世に名高き、女心と秋の空なのか……
「ぱぱぁぁぁぁ☆えびたんむけたのぉ」心いやされる声が聞える。
お空に輝くお天道様もびっくりするほどの爛々とした満面の笑みで得意げ&自慢げに赤い殻のいっぱいついたエビを容赦なく俺の口に押しつけてくる。
俺は思わず頬が緩み破顔する……『ぎゅっ』と琴音を抱きよせて訪ねた。
「琴音、世界で一番好きな人は誰?」
両腕を首に絡ませて上目づかいの純粋無垢な眼差しを携えて琴音は俺のくちびるに労をねぎらうように自分のくちびるを重ね合わせた。
そして……
「もう、離れないから……それも都会のしきたり……」
その声は琴音のものではなかった……無意識に涙腺が緩み、とめどなく滂沱した涙は幼い琴音の頬もつたっていた。
幾重の星霜の流れが俺を呑みこもうと、きみの声は永遠に俺の心で反芻している。
……コトネイル……
恋と乙女はホームシティの最終話になりました。
とても感慨深い作品であり、無事に終われたこと
皆さまに感謝いたします。
新作、たんぽぽ荘も頑張ります(小説家になろう勝手にランキング・コメディ部門一位になりました)。
応援、宜しくお願いします。




