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総力戦! 敗戦濃厚のホームスティに援軍? 母の想い・・・九尾狐の長・妲己見参の巻

       ◆

「氷結時空磁場シールド左舷後方部、シールド損傷率四十六%、戦艦アマクサ、主力砲エネルギーチャージ確認、衝撃きます、クルーは各自対衝撃防御」


鷹揚のない声がホームシティの食堂に響く。


「ここにわぁぁ、シートベルベルもないですぅぅ」


ずごごごっっ――怒号にも聞こえる耳を劈く爆音、機体の揺れは百四十センチ未満は乗れませんと注意書きがある絶叫マシーン・ジャンボバイキングが如く容赦がない。

ビリヤードの玉のようにころころと転がりながら今日子は尻尾をクッションにして琴音を必死に守っている。

数打ちゃ当たるとはまさしくこの事だ。

その数が問題だ、空を覆う程の起動スーツを装備した堕天使がいっせいに襲いかかってきていた。

戦艦コトダマ・アマクサが主砲を撃ちはじめた遠距離攻撃が始まり、クリエティアの最強戦艦ホームシティも遠距離・近距離の一斉攻撃にかなりの劣勢に立たされていた。


「主砲カナリア砲エネルギーチャージ完了、標的、右舷前方、戦艦アマクサ、座標整い次第、発射」


金の繭の中で雪野は艦長として孤軍奮闘している。


「ううぅぅぅ、艦隊戦では全く手が出せないミュン」

悔しそうに下唇をかみしめて転がり壁に頭をぶつけているミュウ。


「下方部シールド展開率十六パーセント低下、敵、起動兵器、館内に侵入する恐れあります」

「や、やばいミュン、ローカで抑え込まないと、ここに入ってくるミュン、茶菓子も用意してないミュン!」


今日子と目を合わせたミュンは言うないなや、食堂から出てローカに走り出す。


「ミュウ、待つのですぅぅぅ、わたしぃぃもいきますぅぅぅ」


そっと、琴音を抱きしめた今日子は『大丈夫だからねぇぇぇ♪だからぁ、ままぁぁぁ、と呼んでねぇぇ』と微笑み可愛らしくウインクしてローカに駆けだしていった。


――本当に生きて帰れないかも……雪野は心の中はネガティブになっていた。

そして一人、逡巡していた。

現在の戦力状況・当艦の残存エネルギー・損傷状況・全てがリアルタイムにカンナギ・システムにより脳パルスに直接伝わってくる。

カンナギ・システムが出した現在の勝率は二%……雪野は思いのたけを強く抱きしめて戦っていた。


「対空レーザー及び光子レーザーを全砲門下限の敵、起動兵器に集中砲火したのち、左舷十五度に距離三百まで押し進みます」

「了解いたしました、アマクサ主砲衝撃波が来ます、シールドエネルギーを一点集中回避いたします、カウンターにてこちらのカナリア砲を放射いたします」


雪野の身体中の神経や視界はホームシティと同化しており、全てが手に取る様に見える。

一瞬、スクリーンが真っ暗になると『ゴゴゴっー』と地震レベルエイトクラスの衝撃がホームシティを襲う。

ガガガーと波打ったスクリーンが再び息を吹き返し、現状報告がすぐに、雪野に走る、推進機関損傷、ホームシティ外部の状況を映し出すとシールドが打ち抜かれ、ホームシティの光子レーザ―が二基大破している状態が脳に伝わってくる。


「館内に起動兵器の侵入を確認いたしました、現在、ローカ内にてクルーと交戦中」


意識を飛ばし雪野はすぐに館内映像に切り替えようとするが旗艦の損傷が酷く、カンナギ・システムも雪野の意識をホロ―しきれていない。


「出力エネルギーマックス、敵旗艦ロックオン、カナリア砲、放射」


損傷しているホームスティの先端部分が燃えたぎる赤の光彩を放つと大気を割るほどの爆音とともにド級のカナリア砲が唸りを上げて戦艦アマクサを襲う。

其の輝きは熾天使の「赤く輝く雷光の空飛ぶ蛇」を連想させるほど優美だ。

その刹那、戦艦コトダマの主力砲が赤黒い光を上げた。


「雪野様、戦艦コトダマより主砲発射準備確認、現在シールド展開での回避不可能、推進機関も損傷、高速移動不可……」


形の良いくちびるから小さな溜息が零れた……

無意識に諦観していた……少し諦めかかった瞳の色を宿しつつある、雪野は最小限のダメージレベルになる様に回避運動を示唆する。

ホームスティと一体化して得られる膨大な情報が全身の視覚・聴覚・全ての神経や脳を駆け巡る、飛び込んでくるリアルな感覚の先に、戦艦コトダマの主力砲のエネルギーがこちらに牙をむいている……背中に汗が流れ落ちる。


「せめて、あの子達だけでも」


祈りを込めて、舵を切る……その瞬間……

どんよりとしていた空が裂け、突き抜けたように眩しい青白い光が一面に降り注いだ。

戦闘区間全域を覆う程の流星群を彷彿させる光の帯が螺旋状に蠢き、戦艦コトダマ・戦艦アマクサに容赦なく襲いかかる。


「カンナギ・システム、現状報告を」


突然の出来事――少し混乱した雪野は必死に状況を把握しようとカンナギ・システムに呼び掛ける。


「全方位レーダーに権キツネ級大型戦艦ククル及び第一位神格クラス戦艦タタラ、ムミカミ・シズランを確認、周囲に九梶型起動兵器ランラン、およそ三万を確認」


その映像が雪野にも飛び込んでくる――雄大な九梶の紋章を掲げた大船団だ。

驚きは雪野の思考に刺激を与える、今、やるべき事が知恵の泉から湧きあがってくる。

突然、ハッキングされたように食堂を覆うスクリーンが外部映像に切り替わる。

大型戦艦ククルより通信回線が全方位に開かれた

食堂のスクリーンには、息を呑むほどの、絶世の美女が威厳のある雰囲気を醸し出し宝石のような美しい唇を動かした。


「わらわは白面金尾九梶眷属が長、女帝・妲己……我が最愛なる娘の決意を邪魔立てするものは許しません。堕天使の長に告げます、直ちに、我が最愛の娘の婿を解放しなさい……」


大型戦艦ククルからの通信に答えるように戦艦コトダマが全方位回線を開く。


「解放……それは意とする所が違います――」


スクリーンの片側に光沢のある、スカイブルーの髪を靡かせたユーノが眼光鋭く、にべつけて懇切に返答を始めた。


「九梶の長、妲己殿……私はこのエデン領域の女王にして守護者リリスの義娘、直属近衛隊長ユーノ。貴公が言われる婿とは……リリンお義兄様とお見受けいたします、リリンお義兄様は私と結婚すべき人物、返せとは受け入れられぬ話、いかに九梶の眷属といえども、ここは我らが領域、勝手は許さぬ、お引き取り願おう」


一点の曇りもなく凛とした瞳には、戦闘の意志がみなぎっている。

クスリッ☆と微笑み、妲己は口角を上げた。


「ふふふっ、愛を貫くと言う事は何と不憫な事でしょう、良く、理解が出来ました。話し合いの余地はありません、我が愛しき娘も不憫ですが、わらわの九梶の王国まで聞こえし剛の者が相手なれば手加減無用、思いあがりを力でねじ伏せてあげましょう」


きめ細やかな妖艶な手を軽く振った。

そして、再び空は青い閃光で埋め尽くされた。

スクリーンに映し出された映像は九梶の艦隊が堕天使の艦隊に一斉攻撃をかけている。

戦闘は混巡の要素を大きく含まれ始めてきた。


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