最新鋭戦艦級の力・・・激突、魔戦艦の巻
◆
「す、凄いミュン……」
食堂……いつもお茶を飲みながらワイワイと女子会をしていた場所、いや、もう食堂とは呼べなくなっていた。
三百六十度見渡せるスクリーンで現在の状況が手に取る様にわかる。
ミュンはスクリーン越しに空を見上げて感嘆の言葉を漏らした。
先ほどから三度に渡る堕天使の強襲もクリエティアの最高旗艦級戦艦・カンナギ・システム搭載・ホームシティのクリエティア式・氷結時空磁場シールドと対天使仕様・光子レーザーによる火力の前に近づくことすらできずに屍と化している。
「さすがぁですぅぅ、クリエティア最強といわれたぁぁ、ホームスティとカンナギ・システムですぅぅぅ、バシバシたおすですぅぅぅ」
ガラス越しにへばりつき、両腕をぐいっと組んで、九本の尻尾をパタパタとご機嫌に振りながら今日子は感心一入である。
「カンナギ、進路はこのままで良いですか」
食堂の中央に繭の様な形の光のから雪野の声が輝く繭を通じてカンナギに伝わる。
「進路は間違いありません、命の木、クリエティアの本国のメインカンナギシステムの情報ハッキングによるデーター摂取によるものです。先ほど、メインシステムより指示いただきました、戦力分析結果……リリス・アザエル・ユーノ……Sクラス、及び、三十二の軍団長……AAAクラス、総兵力は八十五万です」
「はううぅぅ、大軍ですぅぅ、八十五万対三ですかぁぁぁ、ああっっ、ことねちゃんをいれたら四になりますぅぅ、戦力アップですぅぅ、ミュウ、リンゴあげますからぁ、囮になってくださぁぃ。私はぁ、歩さんと結婚しますのでぇぇ❤」
ポケットから両手で大切そうに紫色の毒毒しいリンゴを差し出してグリグリメガネ越しにウインクする今日子をミュウはプイっと一瞥する。
「グリグリメガネはうるさいミュン!!今日子こそ、しっぽハタつかせてサーカスして、相手の気を引くミュン。以外と相手はロリコンが多いかもミュン。その間にお兄ちゃんは私が助け出すミュン、駆け落ちのチャンスミュン」
ぽっと相貌に朱色に染まったミュンを今日子はメガネをずらしてジト目で見る。
何故か、線香花火程度の静かな火花がここでも起こっている。
「二人ともうるさいですよ」
しょうがないなと肩をすくめた雪野。微笑みながらも二人を制止させるほどの言葉に強制力がある。
「雪野様、ホームスティの装備についてですが、ご説明いたします」
カンナギ・システムの暖かな悠久の優しさを感じさせる声音が館内に緩やかに木霊した。
「小型ブラックホールを核とした超時空磁場変動変換中型縮退炉からのエネルギー転換により推進機関・兵器システム・防御システムを展開しております、現在の搭載兵器は対空流れ星レーザー連装四基・対天使仕様光子レーザ―・連装八基・クリエティア式カナリア主砲・防御システム・クリエティア式氷結時空磁場シールド。以上が現存する戦力です」
「…………難しいミュン……。それだけ、凄そうなエネルギーがあるなら、私の部屋の電気のブレーカーがすぐ落ちるので何とかしてほしいミュン」
「…………」
切なるミュウのお願い事に無言のカンナギ・システム……どうも雪野以外のいう事は聞く気が無いらしい。
「現在のリリス軍の動向は?」
瞳を閉じて問いかける雪野にカンナギ・システムは的確に答える。
「前方二千キロにリリス軍主力部隊ユーノ隊が守勢を展開して待ち構えています。確認できる戦力は堕天使第三世代一等旗艦コトダマ・同じく一等旗艦アマクサ・起動スーツ兵器二万六千機、戦力値から考えて戦闘は回避を提案します」
「言っている事こが難しいミュン、もっとわかる様に説明するミュン」
「わたしぃぃも、よくぅぅ、わからないですぅぅ」
「…………」
カンナギ・システムは返答しない。
ふぅぅ、軽い嘆息すると雪野は「二人にわかるように説明してあげて」とカンナギ・システムに指示をだす。
「了解しました」
少し沈黙したカンナギ・システムは二人のデーターを元に最良の方法を導き出す。
「戦力値の差は……」
二人とも真剣な顔で光の繭を見上げる。
「味噌ラーメン三杯分の塩加減とヨーグルトです」
「…………」
その答えに今度は雪野が?マークだったが、ミュウと今日子は大騒ぎし始める。
「た、大変ミュン!戦力差がありすぎるミュン!」
「はぅぅぅぅぅ、圧倒的ではぁぁ、ないですかぁぁぁ」
ガラガラ――突然、ハイテク戦艦の昭和漂うドアが横にスライドすると琴音が両目に涙いっぱい溜めて入ってきて。
「ことねも、パパぁぁぁに、あいにいくにょ」
トテトテっと短い脚を駆使して全力で走り、がばぁぁと今日子のふあふあ尻
尾をぎゅっと抱きしめる。懇願した眼差しで雪野を包む金の繭を見つめる。
「琴音もぉぉ、運命共同体ですぅぅ、私が責任もってつれていくですぅぅ」
琴音の頭を器用に尻尾で撫で撫ですると琴音は気持ちよさそうにほんわりした相好を浮かべる。
「琴音、安心するミュン、お兄ちゃんはぜっっっっっっったいに私が取りかえすミュン」
そっと優しく琴音を抱きしめる。
少し肩が震えている……心を発露させないようにミュウは精一杯強がって見せる。
「さぁ、みんな、絶対に生きて帰るのだからね」
雪野は自分に言い聞かせるように力強く言い放った。
「射程距離まで後一分となります、カナリア主砲エネルギー充填開始、全砲門開きます」
カンナギ・システムの声が食堂に響き渡ると寛厳とした緊張感が張り詰める
エデンも地上と同じような美しい夕日が煌々とスクリーンに映し出されていた。
血に染まる刻が導かれし魂を混巡させるように。




