ツンデレ対BL・・・なのですかーっ(°д°) 義理の妹ユーノ登場の巻
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俺は人生においてこれほどの屈辱を受けた事がない……
「良くお似合いですよ、リリン様」
『に、にゅぁぁぁぁてるだって!!』
エベレストよりも高い声が咽から舞いあがる。
今、余すところなく部屋一面に備え付けられている全身がきっかりお肌の毛穴まで写るんです並みの輝かしい鏡に映し出されている姿……まさしくキング・オブ・ザ・変態ではないかぁぁぁ――もう殺してください……。
摩擦熱で着火しそうな程、わなわなと高速フラワーロックなみに全身を震わせて睨みつける程の抗議の眼差しを『テパァー』と破顔しているアザエル君に送るが、しらっとかわされている――回避バロメージ二百パーセントだな。
「やはり、漆黒を司る闇の眷属をイメージしたフリルの紐パンは良くお似合いです」
軽く髪をかきあげ、うんうんとご満悦……口角をクイッと上げてニッコリ――天使……いやいや、堕天使の極上スマイル、琴音ほどではないが中々のパンチ力ではないか。
こいつ絶対友達すくないぞ!と言う性格と素敵な容姿……何てアンバランスな。
って、『黒のフリルの紐パンなんて似合うかぁぁぁぼけぇぇぇ!!』などと心で理性の俺が滂沱しながら叫び上げている……が鏡に映る俺……意外にいけている❤
ほほえましく、軽く胸に手を当てるアザエル君……ゴクリっと咽をならした。
「いやはや、あまりにお似合いでよだれが出てしまいます。今夜、私が夜伽の相手をいたしましょうか」
えっ、夜伽……っていったよね、あの二色お目目さん……脳内ライブラリーで意味変換……顔が紅潮するのがわかる……ああっ、助けてください村の神様……。
脳内思考回路の小人達がブラックマンデーパニックぎみ前頭葉から疎開している。
一縷の希望すら感じられない俺を尻目に『がばぁぁ!』とコンドルの両翼並みに両手を広げて真剣極まりない欲望に満ちた容貌とデンジャラス(BLっぽい)雰囲気でぼわ~んと常夏の楽園でカミングアウトぎみな行動をとるように、ずずっとすり足で迫ってくる……た、たすけてぇぇぇぇ……。
ああっ……愛しの琴音、もし、危険な縄、危ない縛り、一夜のアバンチュールで俺が極めて稀有な世界の住人の扉を開いてしまっても……ひぃぃぃぃぃぃ!男しか愛せなくなってしまっても、そんな極寒の瞳で軽蔑しないでください……などと真剣に妄想アンド懊悩してしまう精神状態が脳内にムクムクと存在しはじめている。
ま、まっとうに愛してやまない琴音と結ばれる為にも……な、何とか逃げ出さなければ。
心のアラート警報レベルが絶対値を二馬身半ほど天城越え状態である、赤信号、みんなで渡ってはねられた状態ではないか。
そんな俺を現実の世界に誘う音が突然響いた。
『キシュー』と圧力鍋のフタをはずしたような音がすると精緻な意匠が施された豪奢な扉が開き、独特の雰囲気が漂っていた部屋の空気がローカから入り込んだ空気と混在しあう――
頬を撫ぜる緩やかな空気がローカから入り込んで歩の意識をより現実の世界に引き戻す。
振り向いた俺の視界に凛子とした雰囲気の美少女が入ってくる。
――助かった――
よぎった安堵が途端……脳内のいつも微笑んでいる琴音がジト目でぷいっと顔をそむけられた気がした、ああっ、ごめんなさい……浮気は絶対にしないから、パパは!
瞳に写った美少女は、優美に佇んだ魔力を帯びた、意識が吸い込まれそうなスカイブルーの髪と瞳、白亜甲冑を連想させる、甘い色合いなのに幼っぽくないハイウエストワンピースを着こなし、蠱惑的な扇情をそそる雰囲気と幼子のような無邪気さが全面に押しでた相貌がミスマッチというか……とても神秘的にも見える美少女が俺を『えっ、変態がいる』ぽい、棘がある眼差しでこちらを一瞥して、オホンとわざとらしく、咳払いを一つして仰々しく闊
歩してアザエル君の傍に歩み寄る。
あれ、変態BL綺麗な二色お目目さんの顔色が波の引くように変わった?
あきらかに、少し、戸惑い、かなり神妙な面持ちを浮かべるアザエル君……急にどうしたのだ。
「ユーノ様……いかがなされましたか?」
鷹揚なく慇懃な声色が美少女ユーノにかけられる。
腰を折りたたむように、深くお辞儀をするアザエル君、ユーノと呼ばれた美少女はアザエル君などアウト・オブ・眼中……意にかえさぬように俺をジッと見つめてくる。
無表情の仏頂顔なのに、す、凄く可愛い……
はぁぁぁ……突然、深海魚が住んでそうな水深何千メートルクラスの深い溜息をついた……っていきなり失礼な……といっても俺も乳首丸出しのいけない裸に黒のフリルの紐パン一枚……はっ、もしや、俺の姿のほうが、かなり失礼レベルが一千万パワークラスでは……もし、二人いれば二千万パワーズではないか。
今、ちょっと頭がさえている❤……などと思った俺の心を見透かされたのか、ユーノと呼ばれた美少女の瞳温度が氷点下まで下がった北国の夜が俺に突き刺さっている。
「アザエル……この変態が私の義兄に当たるのですか?」
とても憂鬱そうにアンニョイな口調でアザエル君を問いただしているが、サラリっと爽快に軽く頭を下げて恭しく「はい、そうでございます」と返事をする。
アザエル君……何故、得心する、変態部分は否定すべきだろうと抗議の眼差しをおくるが、しれっとして受け流されている。
「ふん」
フワリっと髪が舞い、ユーノは睨めつけながら、ぷいっと相貌を背けた。
目の前のユーノと呼ばれる美少女……軽蔑や嘲笑果汁を濃縮した視線はメガ粒子砲なみに完全に俺を貫いている、身も心も……粉砕中……。
「変態、とりあえず、私とともに来い」
にべもない……無表情がディフォルトですか……ああっ、夢ならさめてほしい、どうせなら琴音のモーニング・ボディーアタックで……
「恐れながら、わたくしめがリリス様よりリリン様のお目付け役を仰せつかっ……」
バコンっ――綺麗に入った――完全に不意打ちの見事なハイキックがアザエルの脳天をぶちぬき脳漿と血が部屋一面に降りかかる……バイオレンス・ホラー!お、恐ろしい、見事なハイキック、もう少し強ければ頭蓋骨も出ていたね……思わず見とれてしまう。
地球人として……一人の一般ピープルとして……リアルホラー映画の恐怖で身体中の筋肉が固まってしまう。
「うるさいなぁ、私に指図するな」
綺麗に整った眉を寄せて、両腕を引き締った腰に当てるポーズ――決まっている――と言うか、わぁ、凄く不機嫌な渋面ではないか、おそろしやぁぁぁぁぁ。
頭が吹っ飛び、ニュートン力学に従い、ぐったりとその場に崩れ落ちたアザエルを嘲笑する視線を送り、振り向きざま、俺の鼻先にぴしっとなおやかな指を突き出してきた。
「変態、その……す、姿が正装なのか……違うならまっとうな服をきろ」
突然、緊張したようなしどろもどろ口調……ユーノ、キミが言っている事は超絶に正論だと俺の理性が称賛の嵐で拍手を送っているぞ。
「助かった、ありがとう」
これは神の啓示か、そう救われたのだ――この子のおかげで貞操は守られた。
俺は心から救われた(BLの扉を開けずにすんだ)事を素直に感謝して脱がされていたセーラー服を抱きしめ、喜色満面でお礼を言った……が、ど、どうしたのだ、ユーノが全身から湯気が出るほど真っ赤になっている、はっ、突発性全身リンゴ病か!
「さぁ、変態、アザエルが復活する前に私の部屋へ」
寒い夜、段ボールに捨てられ、お腹を空かせた子猫が優しいお姉さんに手を差し伸べられた、抱きかかえられたような安堵感が広大な心に広がっていく。
再び、ユーノに着替えを促され、そそくさとセーラー服を身にまとう――マイ・スイート・ハニ―琴音以外に見られて着替えるのはちょっと恥ずかしい(紐パン一枚の姿の俺より恥ずかしいかも……って駄目だ……思考回路が……倫理観がぁぁぁぁ!)
などと、思案しながらも、手なれたセーラー服を装着、うむ、しっくりくる。
くるりっと回ってみる――ふわりっと空気を含んでスカートが舞った――足元がスースーする感覚、完璧。
ばっちり着こなした村の正装セーラー服――ああっ、落ち着く、やはり、俺には一番似合っているような気がする。
ほっと安心した歩の綻んだ相貌、それをチラリっと意識するようにユーノは少し、恥じらうように覗き込む。
「うっ?」
目があった途端、ぷいっと背けるように視線をそらすユーノ……ちょっとした仕草がフランス人形のように愛らしい。
俺の傍に来たユーノはヒラヒラするスカートの裾を持ち、何故か『ぽあ~ん』とほんのり紅色がかった相貌を壁側にそむけながらぐいっと俺を引っ張る。
この子……もしやツンデレでは❤
さて、名誉と矜持の為に勇気を出して誤解を生まないために一つだけ伝えておこう。
「変態と呼ぶな、人には事情と言うものがあってだな……」と言うと、『何を血迷った事を、お前、人ではないではないか』と言うどぎつい胡乱率の高いヘビの睨みがカエル的な俺の言葉を全面否定する。
何だかやるせない……
「ふん、変態は変態で良い」
某妖怪少年の毛針なら禿げてしまうほどの毛針を含んだ棘のある言葉。
禿げたら効果抜群の育毛剤を紹介せねば……などと思ったことが見破られたかのように。
「脳みそに虫がわきたいのなら、変態アンデットにしてやろうか」
などど、きめ細やかなユーノの気遣いの御言葉が……心から遠慮します。
こいつ、心から発露している……しかも怒気を含んでふんっと冷淡にいい放つユーノ。
わ~い、レベルが上がって新しいスペック『変態』をラーニングした……ってうれしかないだろ!!このままでは凄いよ☆☆さん的なレベルまで突き抜けてしまいそうだ。
「とっとと、付いてこい!」
軽く睥睨されて俺のスカートの裾をグイグイ引っ張る(ううっ、スカートが捲りあがってちょこっとだけエロチシズム感が❤)
う~む、額にあおすじが……ユーノさん……語尾が強くなっていますよ。
逆らえば扼殺されて市中引き回しの刑は確実と言った強引さで俺は、ユーノに袖口を強く引っ張られてポテポテと歳老いた柴犬のように賢く付いていくことになった。
はぁぁぁ、琴音ぇぇぇ!帰りたいよぉぉぉぉ。




