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掟と真実・・・九尾狐、悲愴の決意、愛するもののために

    

  


    ◆

ぎぎぎぃぃぃ――

懐かしさいっぱい昭和の軋むドアの耳障りな音がローカに響いた。


「あい、おねたん☆」


バネ式ブリキ人形やんっ!とシュールに突っ込みたくなるほど全力で何度も頷く琴音……

優しい眼差しを向けた今日子は撫でるように優しく抱きしめた。


「絶対にぃぃ、私がぁ、歩さぁんを助け出しますぅぅ、ことねちゃんはぁ、タイタニックに乗ったつもりしずんでくださいぃぃ」


耳元で小さく呟く……

毒かかった言葉とは裏腹に頭を撫で撫でされて子犬のようにうっとりしている琴音を愛でる仕草は清廉潔白の愛情に満ち溢れている。

妙に懐いてくれる琴音のこしの強い光沢のある髪を最後に優しくひと撫で。

促すように自室の前で、いつものニコニコぽや~ん的な雰囲気で琴音と別れた。


パタン――


自室のドアを閉めた途端、六畳一間のプライベートスペースに足を踏み入れると今日子の面持ちが僅かだが険しくなる。

綺麗に整った眉を顰めて胸に当てられた手に視線を落とした。

私――おかしい――

『ドクン・ドクン』早鐘のように鳴り響く拍動のリズムが身体全体を駆け巡る。

畳の上に転がっていた象さんのクッションをぐっと抱きしめる。

歩の事を考えただけで胸がキュンと苦しくなる。

統一感がある和柄でまとめられたインテリア、日本情緒溢れる部屋は破天荒な今日子の以外な一面が垣間見えている。

トスンっと小さな身体を壁際にあずけて、ボンヤリした視線は何かを探し宙をさまようよう空虚に心と連動している

あの時の……不覚をとった記憶が脳裏に走ると悔しさと後悔でググッと身体がわななく。


――歩さん、ごめんなさいですぅぅ


どうする事もできない内から湧き出る悔しさ……後悔してもしきれない慙愧の意志……グッと力の入った握りこぶしは血液が止まったように真っ赤に色づいていく。

誰にも見せない自分だけの想い……悔しさを……無限に広がる悔しさを精一杯、押し殺していた。

グリグリメガネの下には溢れる涙が目の端から頬をつたって畳にしみ込んでいく。


――胸が痛いですぅ……切ないですぅ……歩さん……守れなくてごめんなさい


ぐすりっと鼻を鳴らして、嗚咽する。自分の腑甲斐なさを咎めるように肩を落とした。

何度も何度もフラッシュバックするリリスと歩……忸怩たる想い……溢れる悔しさを意識が噛み殺している。

今日子の心……初めてだった……自分以外の為に決死の想いを深めて戦いに挑む決意はしていた――たとえ、ホームスティから追放されても、リリスを相手にその肢体が砕かれようとも、歩の元に行く決意。

潤み切った涙の視界で足元に転がっていたロバのぬいぐるみ型ティッシュ箱から紙をとりチーンと鼻をかむ。

ゴシゴシと小さな手の甲で涙を拭い、パシッと頬に手を打ちつけて気合を入れる。

六畳一間のい草の香り漂う室内は綺麗に整頓されている。

現代っ子らしい部屋と言うより家具はシンプルな空色と言った和柄かつ、モノトーンな部屋。


「絶対に歩さんはぁ、つれてかえりますぅぅ!」


ぐっと瞳を閉じで咆哮するように叫んだ……声量は二百デシベル程度だろう。

強く握られたコブシ……身体中の血管で血液が駆け巡るようにぐぐぐっと気合いが肉体と精神をに浸透していく。

その瞳には全く迷いはなかった決然たる想いが宿った乙女の眼差し。

突然、今日子はツカツカと押入れに行くとガタガタ!と建てつけの悪いふすまを勢いよく開ける。

上段にはパンダの絵柄が可愛らしい上下の布団(今日子は時々、どら○もんのように押入れで寝る癖あり)、下段には沢山のキラキラとした装飾がある小箱と禁断のBL同人誌が綺麗に収められている。

トレードマークのグリグリメガネを右手で大切に丸いちゃぶ台の上に置くと、押入れの下段中央に大切にしまってあった、ひときわ華美な意匠が施された木箱を掘り出して『じぃ――!』と睨みつけた――一枚の何やら見た事もない言語が書かれた札が貼られていて、江戸前かい!と夏場の墓場なら百人いれば百三人が答えそうな、禍々しい妖気が満ちた江戸錠前により封印されている。

徳川幕府の呪いでもかかっている埋蔵金の地図でも隠してありそうな木箱。

今日子の箱に触れようとする手は小刻みに震え、微かに指先が触れると、感電したような感覚が全身に走る。今日子の神経にしびれに似た感覚が残る。

心は葛藤していた――躊躇するような意識――乗り越えなきゃ……どんなに苛まれても……

木箱を掴んだ手にぐっと力が入り、重々しく持ち上げる。

その刹那、想像以上の衝撃が駆け抜けた……ホラー映画に出てくる悪魔に背筋にティッシュを丸めたこよりで撫ぜられたような悪寒がゾクっと背筋に走る。

それでも今日子は持ち上げた木箱をはなさない、今の今日子には強い信念が宿っているから。

当然、何が起こるか予測はできる――今日子は箱の意味を知っているから。

小刻みに震える手……大切に落とさないように持ち上げた豪奢な木箱……グルグルメガネが置かれたちゃぶ台の上にガラス細工を扱うようにゆっくりと置く。

ちゃぶ台に置かれた箱は意志を持つようにカタカタと揺れている。


――ふぅ――


パープルの髪が静電気をおびたように逆立っている。雛鳥のように可愛らしい唇から餌が零れるように溜息が一つ抜けていく。


「ママ、私、禁をやぶりますぅぅ、ごめんなさいぃぃ」


ちょこん――と木箱の前に背筋をピンっと伸ばし礼儀正しく正座をして顔の前に手を合わせてパープルか髪が畳に擦れるほど深ぶかと頭を下げた。

その時、箱の封印である禍々しい錠前がボワーンと蛍光塗料に含まれた光のように鈍く輝く。

次の瞬間……密度の濃い妖気が室内を覆い、外部の空間を遮断する。

まるで外界との接点が遮断された空間のように。

瞳を閉じて頭を下げたまま、ピクリとも動かない今日子。


――今日子の脳内に懐かしい声が響く……


今日子……禁を破る事の意味……」


深淵の陥穽に落ちたような悲哀な声音が今日子の脳裏に直接響く。


「ママぁぁぁ」


はっ!と我に返った今日子は驚愕した面持ちで頬に手を当て、パープルの髪を靡かせてキョロキョロと辺りを見回す。


「しきたり――覚えているわね」


脳内に響く、冷厳な声音が今日子の心まで震えさせる。


「その者と結ばれない時は今日子……悠久の常闇に縛られ、貴方の命を持って一族に償いをしなさい」


厳しくも哀しい母親の声……母親の愛情としきたりの間に揺れ動く言葉……辛辣なれど、深い愛情の本質を今日子の心で受け止めていた。

分かっていますぅ――ママぁ――私、馬鹿な娘ですぅ、たかが男に心を奪われた。

心で強く叫ぶ……後悔など存在しない強い意志で。

だけど……一緒にいたい、そのためなら沢山、馬鹿なふりは出来る、親の愛情と自分の意志の狭間で心を締め付けられて瞳からせきをきったように涙が溢れる。


「ママぁぁぁ、私ぃぃ、歩さんと一緒になりたいぃぃ」


頬に沢山の雫が流れ落ちた……一族に対しての背徳の気持ち……三百年で初めて恋に落ちた私……不器用だけど……歩と一緒にいたい。

……脳に跋扈していた伝心が消えた……

 静けさを取り戻した六畳間……今日子の意志が伝わったようにちゃぶ台に置かれていた木箱の錠前は開いていた。木箱の中に入っている希望と言う宝物を今日子は大切に抱きしめているのであった。

  


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