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リリスの思いとリリンはあゆむ? 想いは線香花火よりも儚し、恋はホッカイロよりも熱し

           ◆

大きな樹が砂漠の真ん中に突っ立っていた。

見た事もなく広大な砂漠……社会の教科書でみたサハラ砂漠のようだ。

時折、強い風にのって砂塵がふき上がり俺は着替えさせられたセーラー服の上着に絡みついてくる。

手で握った一握りの土……暖かみのない、パサパサに乾いた土……俺が身体を預けてもたれかかっている大きな木は、まだ、微かに生きている。


さて、何故このような所にいるのか!


キミは疑問を持っただろう……俺も同感です。ただ、懐かしさも感じる不思議な感覚。

この大きな木が――『この木何の木?気になる木』と言ったところだが、脳深い記憶群が何かを訴えているように何だか懐かしい気持ちになる。

目視で見渡す限りの一面は荒涼とした砂漠……だけど、この木の幹に俺の脳内の記憶の糸が何かを思い出そうとしているように懐かしさと思いだしたくない苦しさの双方を感じている。

「お茶いれるよ♪」

突然、場違いな声が俺に呼びかけてくる。

優しさ果汁二百%は含まれたキャラメルティーのような甘~い声が俺を呼んでいる。

ちなみに受け売りだが、ここは、昔、エデンの園と呼ばれた場所、そして、俺は命の木と呼ばれた大木の幹の中から荒涼とした景色をながめていた。

先ほどまで、来る途中にコンビニで買った幕の内弁当、二人でおかず交換&食事をしながら、俺の母と名乗るリリスは俺の出生から今に至るまでの道のりを涙ながらに話してくれた。

どうも俺には沢山の兄弟がいたようなのだが長い月日の中でセノイ・センセノイ・セマンゲロフと言う三人の天使に殺されてしまったらしい。

何とファンタジー……いやいや、ダークなファンタジーな世界なのだ……リセットがきかない分だけたちが悪い。

まぁ、そんなことよりさっきのコンビニの店長さん、鼻の下が象さん並みに伸びて、リリスにお弁当をタダで貢いでいたなぁ……本当にお母さん?かも……俺のテンプレーションを凌駕しているなぁ。

それと……いやはや、夏休みのホームスティのはずが――俺、まだ、華も恥じらう男子高校生、リリスの言うには俺はもう二千歳を軽く超えている……こんなお肌ピチピチな二千歳がどこにいるねん!

そこのキミ、突然、綺麗なお姉さんが「私がお母さん。そして貴方はまだまだピチピチの二千歳」と笑顔で言われても『はい』と素直に信じられますか?俺は無理だなぁ。

あっ、裸のリリスがコンビニに!と期待しているキミ、お空を飛んでいる最中に、リリスは黒のボレロにふんわり感が女性らしい大人のスタイル引き立たせるバニエに身を包んだ、突然、服が出てきたからビックリしたよ。

その着こなしは恐らく、都会の真ん中で歩いていたら、「おおっっ、モ、モデル」や「ああっ、女神様が降臨された」などと男達の残念な声が容易に想像ほどの完成度だ。

ふぅぅ、と溜息一つ……

ああ……琴音に逢いたい、『こぉぉぉとぉぉぉねぇぇぇぇ』と心で叫んでみる。

まさしく、ホームシックならぬ、コトネシックである。

「リリン、貴方がセーラー服を着ている限り、天使には見つからない」

何故か小さなちゃぶ台がおかれている――リリスいわく、日本の美学らしい。

妖艶で秋派の混ざった視線で俺を捕え、ウンウン♪と可愛く頷き、右手に持っている急須に静岡産のお茶の葉を入れてお湯を注ぎ、美濃焼とかかれた黒色とにび色が混ざり合った渋めの湯呑みに緑茶を注いでくれた。

「リリン、私、貴方を見つけてから貴方を理解しようと日本と言う国の文化を勉強したのよ」

俺の相貌をじっとのぞき込みながら恍惚な面持ちを浮かべるリリスは優しくセーラー服の裾を持った。

「このセーラー服は特殊な糸で紡がれていてセラファムの加護を得られている、天使達は迂闊には手が出せない」

俺はてっきり、セーラー服とセラファムの呼び方がなんとなく似てるいるからダジャレかと思ってしまったが違うようだ。

というか……俺は夢を見ているのだろう、一般ピープルたる俺が突然、ホームスティすることになり、琴音とともに都会に来てみれば、雪娘やアンドロイド……九梶キツネとしんどい特訓の毎日と思えば、いきなり母親を名乗るリリスとか言うめっちゃ綺麗なお姉さんに誘拐されるし、これは夢に違いない――と俺は木の幹にガンガン!思いっきり頭をぶつけてみた。

シナプスが何千は討ち死にしたぐらいの鈍痛……痛いです(涙)

悶絶する俺をニコニコと破顔しながらリリスはほほえましく見守っている。

「ここにいる限り、天使達は襲ってこないから、ここは私の居城。かつてのエデンの園、今は私が率いる三十二の堕天使の軍団によって支配されているから、安心してね」

ぐっと抱き寄せられた……いたわるように、愛しむように……

顔に押し付けられたリリスの柔らかで張りのある胸の拍動が伝わってくる。

暖かい温もり……鼻をくすぐる柔らかな香りは心まで浸透していく。

「リリン……お母さんと呼んで……そして笑ってほしい」

懇願と不安が入り混じったエメラルド色のリリスの瞳に映し出された俺は恥ずかしさと混乱で酷く戸惑った。

クスッと笑うリリスはそんな、俺の前髪をかきあげておでこに柔らかで魅力的な唇をそっと当てた。

「リリン、ようこそ、我が居城へ、これからはここが貴方のお家ですよ」

そして、にっこりと微笑む。可愛いっす……ブルブル――ダメだ、見かけは妙齢で美しすぎる偏差値MAX超えでも、母親となのっているではないか!

禁断の世界へは踏み行っては駄目だぁぁぁぁぁ、頑張れ、俺の理性を司る小人達!

 完全に目がグッピーのように泳いで戸惑う俺をからかうように、リリスは唇にちょこんと一指し指をのせて蠱惑的な仕草をみせる。

はっ!今気がついた――いつの間にか俺達を取り囲むように濃厚なパープルの靄が一面を覆い、はれたと同時に厳かで荘厳な宮殿が現れた……白亜の大宮殿という存在感だ。

唖然とした……そんな俺の腕を抱きつきリリスは「さぁ、行こう」と耳元で囁いてくる。   思春期の俺には危なすぎる程のオーバーキルが理性の天使を堕天させようとしている。

 そんな感じで、俺が懊悩しているころ……


「ぜっっっっっったいにリベンジミュン!」


ホームスティ宿舎が建っている島の中心にあるホームスティの統括本部――厳粛な雰囲気に包まれたホームスティ本部長室にミュウの声がけたたましく木霊した。

広さは二十畳ほどだろうか、壁にはかつての本部長の写真や任命書などが所せましと飾ってある。

肘掛椅子にどっぷりと腰を預けた好好爺な雰囲気の老人にミュウは『てやんでぃぃぃぃ』と粋な江戸っ子張りにピコピコといつもより興奮しているツインテールを逆立たせてガブリ寄る。

「歴史的・屈辱的・官能的・エロチシズム的敗北ミュン、実力もおっぱいの大きさもまったく歯が立たなかったミュン」

ドカーン――とほとばしる気炎が両肩からモクモクと激高して上がるミュウの後ろには、「ぱぱぁぁぁ」と叫びながら大泣きベソをかく琴音。その琴音をあたふたとあやしながら少し戸惑ってといる雪野うさぎ。

壁にかかっているバッハのような巻き髪の歴代本部長の写真を見て頬を引きつかせながら湧き出る笑いを尻尾で口を押さえて必死に耐えている今日子がいる。

「うむ、却下だな」

その声は冷静で抑揚のない声。

最近、お気に入りのブレンドコーヒーの入ったカップをカチャリ!と音を立ててソーサーに置き、短考した本部長はさらりと言った。

「何故ミュン!歴史的敗北ミュン、その上、大切な仲間がさらわれたミュン!」

その非情な言葉にドカァ!と両手で机を叩き、更にミュウは額に青筋を立てる。

「ミュン、アンドロイドが青筋立てたら回路に悪いよ」と軽くあしらう本部長に瞳が深紅に染まりかけたが、深く深呼吸をしてここは必死に堪えている。

びしっ!と指先を本部長の顔先三寸まで突き上げる。

その燃え上がる瞳――宿した炎の色合い……いやいや色合いはいつものミュウではない、恋する乙女&大切なお兄ちゃんに逢いたいビーム二百パーセントオーバーの眼差しで更に本部長に百獣の王の如く果敢に食ってかかる。

「報告書を見たが……リリス……これはSランクに属している」

その言葉の重みは最前線で戦い続けてきた三人には痛いほど分かる――S級ランクといえば通常は上位三体と言われる熾天使・智天使・座天使やソロモン七十二柱の魔神などの超絶な力量を持つものを指す。

ぐっと苦虫を噛み砕くように悔しさでわななくミュウはキッと睨みながら口を閉じる。

そっと励ますように真剣な眼差しの雪野がミュンの肩に手を置いてそっと後ろから抱きしめた。

そんな沈黙は思わぬ伏兵の鳴き声によって破られた。

「ぱぱぁぁぁ……どこぉぉぉ」

滂沱の涙で絶賛大洪水中の琴音が『びぇぇぇぇぇぇん』と力いっぱいぐずり始める。

必死にあやそうとしていた雪野をしりめに今日子が九本のしっぽでギュっと琴音を抱き寄せる。

「ことねちゃん、もし、歩さんを連れ戻したらママぁって呼んでくれますかぁ」

牛乳フタのグリグリメガネの奥は何か悦に入ったように瞳を輝かせて、琴音に向かって今日子が言い放つ。

「あいぃぃ♪しきたりぃぃぃ☆」

ぱぁっと泣きやみ、涙の後を残しながら燦々と輝くお天道様のような『にぱぁぁぁ』とした笑顔が戻った琴音はふわふわ尻尾をぐっと抱きしめ舌たらずに精一杯訴える。

「今日子、勝手は許さん」

地を這うほどの威圧的で強制力のある声が本部長室に響く。

好好爺のような本部長の顔が歴戦の戦士に変わり、鋭い視線で今日子を射抜く。

「本部長ぅぅ、私はぁ、歩さんを婿にほしいですぅぅ、だから、行かしてくれないと呪い殺しますぅぅ」

琴音を傍らに寄せて、露骨におどおどしい間延びした声を残すと、毒りんごを机に置いて、ぷいっと琴音を連れて部屋から出て行ってしまった。

「本部長、歩は私の大切なお兄ちゃんミュン。私は私のやりたいようにやるミュン!」

本部長なんて豆腐の角に頭ぶつけてしまえ……みたいな視線をしっかり送り、ミュウも今日子の後を追った。

はぁぁぁぁ……と、ため息混じりに雪野は本部長に一礼してその場を後にすると。

「雪野、何があってもカンナギ・システムだけは起動させてはならない。もし、あの二人が動く事が出来るとしたら、お前がカンナギ・システムを作動させた時のみ。あのホームスティの宿舎はお前と共に預かったクリエティアの特別製だ。何があろうとも稼働させるな」

本部長のくぎをさす言葉に雪野は再び一礼をしてその場を後にした。

ローカを歩く雪野の脚は重力以上に重い……本当のところは、歩の事などどうでもよい(歩のあまりの浮気の為に……ほぼ、誤解だが)、何故、そこまでミュウや今日子が固執するのか理解はできなかった。

ただ、ミュウや今日子を無駄死にさせるわけにはいかない……大切な仲間……私のたった二人しかいない本気で心を許せる仲間。

決意の気持ちを固めた雪野の面持ちは何処か凛として清々しかった。


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