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リリス襲撃! 奪われるあゆむと抵抗のホームスティ

 ◆

毎度、このセリフで申し訳ないが……今日も厳しい訓練だった。

我は思う――ホームスティの特訓でいったい何が得られるのか不可思議である。

などと心の奥底に住んでいるお茶目心に火を付け損ねた俺だが、今日もへばりきってしまった――本日の特訓はいつもより数段、肉体ダメージが☠

ちなみに本日の不可思議な訓練は血気盛んなヘビー級ボクサーカンガルーの袋の中に入り、ユーカリの葉の中に一本混ぜた竹を食べるか食べないか、と言う疑問を解決する為にコアラを視察すると言う観察的にも肉体的にも意外にハードな訓練だ。

何度なく怒涛の気迫で迫りくる――「何、大切なお腹の袋の中に言ってんねん!掃除してないから恥ずかしいやろ!」とマフィアよりも厳つい顔した癇癪持ちカンガルーに何度どつきまわされた事やら……

ちなみに余談だが、俺が袋の中にこっそり入ったカンガルーはだらしないおっさんのような昼寝をしていた奴だ。

『お兄ちゃん、だらしないミュン!直ぐに婚姻届にハンコを押して楽になるミュン♪』などと美しいツインテールをアホ毛のようにピコピコゆらしながらのミュウとコンビを組んで命がけの訓練する毎日。

かけがえのない時間。本当に、充実した日々だ。

そして、気がつけば今日も夜の帳もばっしゃりおりている……命煌めく星雲がはっきりと肉眼できる澄んだ夜風が心地よい。

もう、夜の闇も深く、微かな虫の音がホームシティの回りから聞こえている静寂な夜のはずだったのに。


今、俺は優しく鼻腔を刺激するい草の香りが昔話を連想させる畳の上にひいた、ペラペラの薄っぺらい一枚のせんべい布団に琴音と仲良く一緒に眠っている。

すーすー♪と心地よさそうな寝息を立てている琴音――もう、可愛らしい唇からよだれがたれているよ。

それにしても今日は珍しく琴音の寝相が良い。

いつもなら回転スマッシュパリの蹴りが俺の腹部を捕えている丑三つ時……

運命的に琴音に逢って以来こんな、恐ろしく静かに寝息をたてる日は必ず何かが起きる。

良い事なら歓迎なのだか……キミは理解してくれるか?恐らくはキミの想像を超えた状況が過去では起きていた。

たとえば、お腹がすいたイノシシの大群に寝床を荒らされたり、屋根裏からいきなり小判がふってきたり……

もしかしたら座敷わらしであるマイ・エンジェル琴音の魔力が開放されているのでは?と少しだけ疑っている。

しかし起こる事、それはすなわち何か必ず意味と意図があると考えていて、清も濁もしっかりと受け止める事にしている。

過去がそうだったように。

ああっっ、今日は何も起きませんように……と天に願ったことがいけなかったのだろうか……もう♪神様の意地悪――本日は闇夜にぽっかりと浮かぶ、白く、そして銀の光沢を放つ月。

柔らかな月光の光彩に彩られ照らされた窓越しに俺はただ立ちすくんでいた。

心のアラートが鳴り響き、現実的にも本能的にも危機的状況感たっぷり。


――えっ、今どうなっているかだって?


言葉では説明しづらいので俺の目線から見てほしい。

俺の瞳に写っている女性……超ド級の大人の淫靡なフェロモンが部屋をのみこむ、きりっとした二重瞼と特徴的なエメラルド色の瞳、心まで吸い込まれそう……端正な顔立ちに負けないダイナマイトボディーそして、粉雪のようにきめ細やかで白い肌……何故か……一糸まとわぬ姿……薄闇の中、幻想的な見知らぬ見事なプロポーションの美女が立っている。

間違いなく某お笑い芸人さんなら『超一流グラビアアイドルかよ!』と突っ込みたくなるほどである。

……まぁ、突っ込む余裕などありしませんが。

能力や魂の格と言うべきか?圧倒的な格の違いがヒシヒシと俺の本能が感じ取っている。

今の時点で、俺にとっての唯一の救いはつい先ほど、短い足で布団を蹴りあげて琴音がポテポテと眠い目をこすって「ぱぱぁぁ……しーしー」と言ってフラフラしながら一人トイレに行っている事だ……この状況では間違いなく誤解をうむ。

それより、この状況、俺はどうしようもなく焦っている……なぜ焦っているかって?それは、このファンタスティック的な?展開、絶対に何かあるぞ!と思えるペタさが理解できているからだ!

先日のミュウといい今日子や雪野といい、もしや、噂に名高いモテ期が到来?(単なるテンプレーション(誘惑)の力かも☠)俺のモテ期よ、その全てをマイ・スイート・ハニ―琴音にぶつけてください(涙)

いやはや、まぁ、とりわけ最近は不思議な事だらけだなぁ……と感慨に浸っている暇などない!

こんなことなら村の神社でお清めをした、魔除けたっぷりと聞かされている一張羅のひらひらフリルのセーラー服に着替えておくべきだった……セーラー服こそ私の村の正装着だと村長に教わっている。

俺を取り囲むように意識を混沌とさせる香りが。

闇に包まれた六畳間の狭い空間がいつもの数倍にも大きく感じる、身体中の汗腺が開いて嫌な汗がふき出る。

六畳の畳の部屋にますます広がる妖艶な雰囲気……大人のフェロモンといったところか。

「リ・リ・ン」

突然、その声は紡ぎだされた。

その吸い込まれそうな甘く透明な声や違和感のない呼び方に心臓が止まるほど『ドキッ』とした……形容しがたい感覚、心ではなく俺の胸の奥の魂が……。

その言葉が聴覚よりも直接、脳に溶け込むように入ってくる。

その声音は何処までも甘美、美女らしい甘い吐息を含んだ艶めかしい声、一つ一つの仕草が蠱惑的で柔らかそうで両腕を優雅にこちらに向けて、すっと伸ばし、艶やかな白銀の髪はふわりっと空気を含んで舞った。

腰の辺りまで銀髪、一本一本の髪がしっかりと闇の中で冴え冴えと輝く夏の月のように光沢を放ち、深まりを極める深淵的な妖麗さを映えさせている。

俺は二つの意味で『ゴクリっ』と思わず咽を鳴らした。

「どうしたの、リリン……昔のように愛でてあげる」

女性は当たり前のように優しく言葉を投げかけてニッコリと微笑む。

欲情をそそる芳香が鼻腔をくすぐる、そう一つ目の意味、目の前の幻想的な裸体に本能がドキドキしているが抱きたいと思えない事(もしかして……俺って男色の傾向があるのか?)。

そしてもう一つの意味、今の俺の命の生殺与奪の決定権は目の前の女性が握っていると言う事だ。

格の違いというか……考えただけでもぞっとするほどの違いを感じる。まぁ、格の違いどころか戦闘能力の次元が『フリーザと亀仙人』ほどの違いすぎをひしひしと感じる。

ニッコリと嬉しそうに美女が動く度にプリンプリンと揺れるおっぱい❤少しだけみてしまう。

俺の視線に気がついたのか?一瞬、視界から美女が消えたと感じた刹那、俺の目の前にすっと現れる。

そして、体温が俺の身体と交わっていく――柔らかく暖かい肌の感触が俺の首の絡みつくと、腕を引き寄せて豊満な肉体へと引き寄せられた。

抱き寄せられた俺……身体が金縛りにあったように動けない、だけど、懐かしむような安堵感……精神がとても安心する。

脳内小人達がいっせいに叫んでいる『いったい誰なのだ』と言う疑問も豊満かつダイナマイトな美女の胸の二つの大きな丘陵が俺の相貌をがっしりと挟みこみ形を変えている。

すっごく柔らかくて気持ちいい……わ~い、疑問なんてすぐに吹っ飛んでしまう。

はっ、いかん、最近、大活躍の俺の理性よ!奮起してくれぇぇぇ。

「愛している、リリン、私のリリン、私を闇の底から解放してくれる私の世界で一番大切なリリン」

リリンって誰――と疑問を浮かべる余裕など全くない、これだけ見事なおっぱいの感触は全身及び思考回路を麻痺させている。

脳内第二次警戒領域突破されました!!といった感じである。

柔らかく抱きしめられた俺……もう、もう心までとろけそうです。

甘く淫靡なパフューム、その香りが嗅覚をくすぐると何故か懐かしく、心が凄く落ち着く、大きな、ディジャブを感じてしまう。


ドカンッ!


遠のいていきそうな意識を現実に引き戻す音が響く――俺の部屋の扉を不遜にも蹴り壊し(うぁぁぁ、本部から修理費請求される(涙))、ひらひらフリルが可愛いピンクのパジャマ姿のミュウが不機嫌そうに入ってくるなりこちらを刮目した。

「うるさ……なな、歩おに……こんな夜中に……大人なおしりが割れているミュン!」

意味不明な言葉……ミュウ、驚く気持ちわかるぞ!

ポカァンとだらしなく口を開いた面持ち……一瞬固まったミュン……間違いなく誤解した眼差しで俺と美女を射抜く。 

『ミュウ、誤解だ、誤解なのだ!』と心で叫びながら、俺は柔らかなおっぱいに顔をうずめている。

アホ毛のポニーテールを振り乱して獅子舞のように振り乱し、ミュウの表情が標的を狙い澄ますトラのような気配に変わる。

ターゲットが完全ロックオンされた。

「歩お兄ちゃんを離せミュン!」と語尾を強めて詰め寄ろうとするミュウ。

しかし、身体が何処かわなないているようにみえる。

「リリンは私の最後の子供……天使達に殺された子供達の最後の生き残り。リリン、もう、安心して、誰が来ても母である私、リリスが守ってあげるから」

優しく微笑んだリリスは俺の首に絡んでいる腕に『グッ』と力が入れ、さらに強く抱きしめられた。

ああっ、幸せ……物凄く肌の温もり感じます。

「問答無用ミュン、お兄ちゃんを離せミュン!瞳からレーザー!」

可愛いフリルと大気が揺れる……チョキにした指を瞳の辺りに添え、深紅に染まったミュウの瞳から狙い澄ました粒子レーザーが発射される……が、すっとミュウを睥睨したリリスの回りに羽を連想させるウォールに包まれた光に囲まれ粒子レーザ―を遮断する。

必殺のレーザーがいとも簡単に防がれ、驚愕するミュウ。

其の時、背筋も凍る冷気が部屋を駆け抜ける。

「のまれてどうするの!」

シベリアの大地のように部屋全体が瞬間的に氷に覆われる、白いパジャマ姿の雪野は颯爽とミュウのアホ毛っぽいツインテールを『スコーン』とハリセンで流れるように叩くとその勢いのまま、白い凍りつく吐息を吐き、リリスに掴みかかる勢いで突っ込む。

補足だが俺のパジャマどころかパンツまでが、かっちかちに凍っている。

――もう、風邪ひいちゃうかも❤

ドタバタと慌てる俺に落ち着きなさいと軽くウインクするリリス……き、綺麗だぁぁぁ。

リリスは俺を抱きしめたまま『ふわりっ』と雪野を軽快にかわすと無造作に開いた窓から宙に吸い込まれるように浮き上がり夜空に舞った。

「しまったぁぁ」

豪快につんのめった雪野は態勢を立て直し窓の外を見上げて悔しそうに唇を噛んだ。

今、人生初経験をしている……自分のパジャマが凍る事と……宙に浮いている事……ひぃぃぃ、落ちたら死ぬぞ!と脳内細胞達が悲鳴をあげて叫びまくり、身体は恐怖のあまり&落ちないように必要以上にリリスにピッタリ抱きついてしまっている。

「ふふふっ、リリンは甘えん坊さんね」

リリスは慈愛に満ちた優しい相貌で俺の耳元で吐息を乗せてそっと囁いた。

ああっ、大人の甘ったるさが俺の脳まで浸食していきそうだ。

「待ってくたさいぃぃ、あゆむさぁんを置いていきなさぁい」

その声は突然、夜空一面に木霊した。

白銀の月明かりをバックに某魔法少女が如く、グリグリメガネをキラリと輝かせる。

そのシルエット!間違いなく今日子!

九本のしっぽをフリフリしながら背中に『肉まん』と書いてあるブラックのパジャマ姿の今日子がリリス同様に宙に浮かんで両手を広げて、リリスの進路を絶っている。

「退きなさい、九尾の眷属よ」

強制力と言う魔力を含んだ美しい声がリリスの深紅の唇から発せられる。

ああっ――俺ならすぐに退いちゃうかも……

「あゆむさぁんを私のお婿さんにしてくれたらどいてあげますよぉ」

冗談まじりの軽口を叩きながらもグリグリメガネの奥はぞっとするほどの冷厳な眼差しでリリスを射抜いている。

「愚かな……歩とはリリンの人の名ですか?……」

短考したリリスはクスリっと笑みを零した。

「愛されていますね、リリン。母の愛情程ではありませんが」

優しい微笑みを浮かべると俺のおでこに軽くキスをする。

リリスのキスから流れ込んだ意志が俺の思考回路を遮断していく……そう、幼き日の子守唄を聞かされたように深い睡魔が俺を包んでいく。

「リリン、少し眠っていてね。下等な者達を一掃したらすぐに私の家に連れて帰るからね、おやすみなさい、私の大切なリリン」

その言葉が意識が保てていた時の最後だった。

俺は深い闇に似た世界に意識が陥っていった、まるで羽をもがれた堕天使のように。


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