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企画参加作品集

平井課長の一日(2012文字小説)

作者: りったん
掲載日:2012/01/05

日下部良介先生発案の2012文字小説です。


いつものメンバーが出て来ます。

 私は平井ひらい卓三たくぞう。ある大手企業の営業課の課長だ。


 同期の梶部かじぶより早く課長になれた。


 奴はまだ係長。どうだ、この実力の差!


 だが、知っている人は知っている。


 私の妻の蘭子は実は専務の愛娘。


 だから私は梶部より早く課長になれた。


 最初はそれを喜んだのだが、やがてそれがプレッシャーとなって私に圧し掛かって来るようになった。


「貴方、次は次長よ」


 事ある毎に蘭子はそう嫌味を言う。


「父の力で伸し上がるのは簡単でしょうけど、男だったらここからは自力で這い上がりなさいな」


「はい」


 婿養子同然の身分の私は妻に全く頭が上がらない。


 この関係は、どれ程年月が経とうとも変わらないだろう。


 娘のめぐみは高校三年で、受験生。


 蘭子はめぐみをすっかり手懐てなずけてしまい、私は家では孤立状態だ。


「パパ、私より先にお風呂に入らないでよね。ばっちいから」


 一家のあるじが娘より先に風呂にも入れない。


 何と嘆かわしい事か。悲し過ぎて、涙も出ない。


「そうか」


 悔しさを隠し、作り笑顔でめぐみに応じる。


 めぐみは妻に似て美人だが、性格まで似てしまい、とてもきつい。


 今思えば、三年不倫関係だった真弓は本当にいい子だった。


 今は実家の宇治市で機織はたおりをしているらしいが。


 真弓に会いたい。


 急にそんな感情が湧き上がって来た。


 しかし、連絡先を知らない。


 会社の誰かが知っているかも知れないと思い、訊いてみる事にした。


 


 課のフロアに行くと、スチャラカ社員の律子君と優良社員の香君がいた。


 二人は真弓と仲が良かったから、もしかすると連絡先を知っているかも知れない。


 いや、待て。


 香君はともかく、律子君が関わるとまずいのではないか?


 何しろ、人間拡声器の異名をとる律子君の事だ。


 真弓の連絡先を訊いた途端、この課だけではなく、社内全体にその話が広まってしまうだろう。


 律子君がいないところで、香君に訊く事にしよう。


 私は二人にごく自然に挨拶をし、課長室に入った。


 


 しばらく時間が経ったが、香君と律子君は常に行動を共にしており、なかなか香君に話を訊けない。


 考えあぐねた私は、ある事を思い出した。


 確か、律子君は藤崎と付き合っているはずだ。


 藤崎をうまく動かして、香君から律子君を遠ざけよう。


 早速、内線で藤崎を呼び出す。


「何でしょうか?」


 藤崎は午後から外回りの予定なのは把握している。それを利用しようと思った。


「どうだね、律子君とは順調かね?」


 私は如何にも二人を気遣う良き上司として尋ねた。


「はい、お陰様で順調です」


 藤崎は照れ笑いをして言った。


 この男、課内だけでなく、全社でもモテていたのだが、何故か律子君と付き合っているのだ。


 理解に苦しむ。


 スタイルは幼児体型、顔はお世辞にも美人ではない。


 その上ガサツで仕事もできない。


 何が良くて彼女と付き合っているのだろう?


 私が藤崎なら、間違いなく香君と付き合うのだが。


「あの、課長?」


 妄想に耽っていたら、藤崎が声をかけて来た。


「ああ、すまんな。たまには律子君と美味しいものでも食べなさい」


 小遣い制の私は、身を切る思いで藤崎に一万円札を渡した。


「え、どういう事ですか、課長?」


 藤崎は目を見開いて私と札を見比べている。


 課内で、私はケチで通っているのは知っている。


 一度も奢った事がないから、基本的に飲み会には誘われないのもわかっている。


 しかし、それもこれも妻の締め付けがきついからなのだ。


「いいからいいから。受け取りなさい。律子君には内緒だよ」


「はあ……」


 藤崎は得心がいかないという顔をしている。


「さあ、早くしないと、どこも混雑するぞ」


「はあ、ありがとうございます」


 藤崎は納得しない顔のまま、課長室を出た。


 よし、これで香君はお昼休みは一人になる。


 思わずニヤリとしてしまった。


 


 そして、お昼休み。


 思惑通り、藤崎と律子君は連れ立って食事に行き、香君が残った。


 私は素早く香君に近づいた。


「香君、たまには一緒にどうかね?」


 私は会心の笑みで誘ってみた。


「はい、ありがとうございます」


 素直な香君は素直に返事をしてくれた。


 財布の中を確認すると、一葉さんが一人。


 あまり高いところには行けない。


 仕方なく、近くの蕎麦屋に向かった。


「課長のお誘いを受けるなんて、久しぶりですね」


 香君はニコニコして言ってくれた。


「私より、蘭子ちゃんを誘いたかったのではないですか?」


 ギクッとした。そうだ。同じ課に配属された新人社員の蘭子君。


 律子君より優秀な社員だが、彼女が呼ばれるたびにビクッとしてしまうのが難点だ。


 どうして妻と同じ名前なんだ……。


「そんな事はないよ」


 私は苦笑いした。香君は私の財布の事情を知っているのか、かけ蕎麦を注文した。


 何ていい子なんだ。涙が出そうだ。


「そう言えば」


 香君が言った。


「課長は真弓の連絡先知りませんか?」


「へ?」


 私は間の抜けた顔で聞き返した。えええ!?


 知らないのか、真弓の連絡先を?


「残念ながら、知らないんだ」


 私は顔を引きつらせて答えた。


 とんだ散財だった……。

お粗末さまでした。

すみません、謝り忘れていました。


ごめんなさい、つるめぐみ先生<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
[一言] えええっ! これで終り。 俺っち全然活躍してないじゃん。かっこ良くないじゃん。ただの間抜けなオヤジじゃん (T_T) …せめて濡れ場として不倫の回想シーンでも挿んでほしかった(泣)
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