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君と僕の響奏曲  作者: 宝月 蓮
第一楽章 復活の音

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奏、復活

「すみません、お見苦しいところをお見せしてしまって」

 泣き止んだ奏は恥ずかしそうに頬を赤くして響から目をそらしていた。目も充血している。

「全然」

 響はゆっくりと首を横に振った。

「かなちゃん、さっき全てから否定されたような気がしたって言ってたけど、そんなことないよ。一度の失敗で全てが終わるわけない。もしそうだったら、俺は何回も終わってるよ。小さい頃のピアノは発表会本番に失敗したことあるし、中一の時は文化祭の吹奏楽部のステージ本番で俺思いっきり変な音出して悪目立ちしたこともある。でも、俺、こうして普通に過ごせてるよ」

 響は少しだけおどけて見せた。

 そんな響に、奏の表情はほんの少しだけ和らいだ気がした。

「かなちゃん、音楽は、フルートは嫌い?」

 優しく問いかける響。

 奏はゆっくりと首を横に振る。

「嫌いになりたくても……嫌いになれませんでした。音楽もフルートも……好きです。……大好きです。だからこそ……苦しくて……。嫌いになれたらどれだけ楽か……」

 再び奏の目からは涙がこぼれた。

「そうだね」

 再び、奏の涙が止まるのを待つ響。

 

 そして奏が泣き止んだ頃、響は口を開く。

「ねえ、かなちゃん。俺、せっかくクラリネット持って来たし、吹いてみて良い?」

 すると奏は突然のことに目を丸くする。

「……良いですよ。でも……」

 奏は響に握られたままの右手に目を向ける。

「あの……手が……」

 奏は響から目をそらし、少しだけ頬を赤く染めていた。

「あ、ごめん! ずっと握りっぱなしだったね」

 響はハッとし、奏から手を離す。

(かなちゃんの手……小さくて柔らかかった……)

 自身のゴツゴツとした手との違いにドキドキする響だった。

「あの……防音の楽器部屋があるので、クラリネットを吹くならそちらで吹いた方が良いと思います」

 奏はそう言い、響を楽器部屋まで案内した。


「うわ……凄い……」

 響は案内された楽器部屋を見渡して感心する。

 楽器のことを考え、空調が管理された部屋だった。

 ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、その他様々な楽器が置いてある広い部屋だ。

 響はクラリネットを組み立て、軽くチューニングをする。

「そういえば……響先輩は絶対音感がありましたね」

「うん。チューナーなしでチューニング出来るから便利だよ。絶対音感」

 響は少しおどけたような表情を見せた。

 そして演奏を始める響。慣れ親しんだ曲なので、楽譜なしでも吹ける。

 軽快な音が部屋の中に響き渡った。

 奏は響の演奏を聴き、少しだけ表情を綻ばせた。

 

「どうだった?」

 演奏を終えた響は期待したような表情を奏に向ける。

「うん。響くんのクラリネットは初めて聴いたけれど……まず、ピッチはバッチリ。表現も……誰もが音楽に親しめるように寄り添ってくれている感じがした」

 奏はいつの間にか昔のように響のことを「響くん」と呼び、敬語も外れていた。

「ありがとう、かなちゃん」

 奏の言葉に、響は嬉しくなる。

 そして今度はとある楽譜を取り出した。

「次の曲、行くね」

 響は早速演奏を始めた。

 すると、奏はハッとする。

 それは奏が中学一年の時に出場し、棄権したコンクールの曲だった。

 少しだけ奏の表情が強張る。

 響はそれに気付きつつも、その曲を吹き終えた。

「かなちゃん、この曲一緒にやってみない? フルート向けの曲だから、クラリネットだとやっぱり違うよね」

 響は勝手の違いに苦笑する。

「確かに……クラリネット向けではないかな」

 奏も少し表情が強張りつつも苦笑した。

「かなちゃんに……手本を聞かせて欲しいな。俺も一緒にやるから」

 響は真っ直ぐ奏を見ていた。

「……分かった」

 少し悩み、奏はゆっくりとフルートを準備した。

「じゃあ行くよ」

 奏は合図し、響と一緒に曲の演奏を始める。

 ほんの少しぎこちないフルートの音だが、次第に滑らかになって行く。

 響と奏は順調に演奏していた。


 しかし、あるところを境に奏のフルートが止まる。

「かなちゃん?」

「ここなの……ここで右腕の腱鞘炎が悪化して……」

 奏は震えていた。

「そっか。……ゆっくりなら出来る?」

 響は優しく奏に寄り添った。

 すると、奏は小さく頷く。

「分かった。じゃあゆっくりやってみよう」

 演奏を再開する二人。

 従来のテンポよりもゆっくり演奏している。

 奏のフルートの音には、恐れが混じっていた。しかし響が寄り添うようにクラリネットを吹いたことで、奏のフルートは優雅で伸びのある音になっていた。

(かなちゃん、あの時の調子を取り戻してる。それに、昔、中学生になったらかなちゃんと二重奏するって約束、この曲じゃないけど半分は達成してる)

 響は奏の様子を見て嬉しくなった。

 軽やかで優美なフルートの音色が響き、クラリネットの音色と絡まり合う。

 奏の表情は明るくなっていた。

 大月家の楽器部屋には、若々しく瑞々しい音色が響いていた。


「かなちゃん、出来たね」

 響は明るく表情を輝かせる。少しずつ調子を取り戻した奏に嬉しくなった。

「うん」

 奏も控えめだが嬉しそうだ。その表情はすっきりしていた。

「かなちゃん、またフルートやってみない? 今年の吹奏楽部の新入部員、フルート希望者が少ないし、全員高校から楽器を始める初心者だけなんだ。先輩も二年も初心者しかいないんだよ。是非ともフルート経験のあるかなちゃんに入部して欲しいんだ」

 響は奏を吹奏楽部に勧誘した。

「……うん。私……またフルートをやりたい。吹奏楽部も、中一の時、中途半端な状態で辞めちゃったから……高校では最後までやり遂げたい」

 奏は覚悟を決めた表情だった。

「ありがとう。俺、かなちゃんのフルートを聴くの、一緒に演奏するの、楽しみにしてた」

 響はワクワクと表情を輝かせていた。奏が吹奏楽部に入部してくれたら、ほぼ毎日奏のフルートを聞くことが出来るのだ。

「私も……また響くんと演奏出来て嬉しい。あ、ごめんなさい、敬語が抜けていましたね」

 奏は呼び方や敬語が外れていたことに気付きハッとする。

「気にしないで。俺はそっちの方が嬉しい」

 響は少し照れたように笑う。

「でも……」

「じゃあ、学校にいる時は敬語でも良いよ。でも、誰もいない時は気を抜いてもらって構わないから」

 クスッと笑う響。

「……分かった、響くん」

 奏は少し表情を綻ばせた。

「響くん、休み明け、吹奏楽部に入部届を出してみるね」

「うん。待ってるよ」

 響は晴れやかな表情だった。嬉しいという感情が、心からあふれ出る。

 

 その時、楽器部屋の外から物音が聞こえた。

「あ、誰かが帰って来たのかも」

 奏は楽器部屋から出る。

「あら、奏、ただいま。そこにいたの。ところで今日誰か来てるの?」

 奏の母親だ。目元が奏に似ている。

「お帰りなさい、お母さん。実は昔マンションの隣の部屋に住んでいた響くんが来てるの」

 ふふっと笑う奏。

「えっと、おばさん、お久し振りです。うちの両親からのお土産を持って来てました」

 響は少し緊張しながら奏の母親に挨拶をした。

「あら、響くん……! 大きくなったね」

 奏の母親は懐かしそうに、そして嬉しそうに響を見ていた。

「お土産ありがとう。後で響くんのご両親にも連絡しておくね」

 奏の母親は優しそうに微笑んでいた。

「あのね、お母さん、私、吹奏楽部に入ろうと思うの」

 奏は過去を吹っ切れたような表情だった。

「そう……。奏が吹奏楽部に……」

 奏の母親は感慨深そうな表情になる。

「今まで心配かけてごめんなさい。でも、私は多分もう大丈夫だから。またフルートもやってみる」

 奏は穏やかな表情である。

「分かった。奏のやりたいようにやってみなさい」

「うん。ありがとう、お母さん。後でお父さんにも伝える」

 奏は嬉しそうに微笑んでいた。

 響はそんな奏の様子を見守っていた。







♪♪♪♪♪♪♪♪






 休み明けの放課後、音楽室にて。

「また新入部員が二人も入ってくれました! しかも人数が足りていなかったフルートに!」

 吹奏楽部の部長が嬉しそうな表情だ。

「一年三組、大月奏です。フルートを担当させていただきます。よろしくお願いします」

 前に出て自己紹介する奏。

 響は嬉しそうに拍手をする。

「一年三組、天沢彩歌です。ピッコロ担当になりました。よろしくお願いします」

 ツンツンと棘のある態度は男子に対してのみらしく、女子がいる場では普通の態度の彩歌である。

 人手が足りていないフルートやピッコロに即戦力の新入部員が入ったことで、皆大歓迎だった。

「彩歌、今まで振り回した感じでごめんね。色々とありがとう」

 奏は今まで自身の側にいてくれた彩歌に感謝を述べる。

「ううん、全然。奏が大丈夫ならあたしはそれで良い。それに、また奏と演奏出来るの嬉しいかも」

 彩歌は楽しそうに笑っていた。

 響は奏と彩歌の元へと向かう。

「かなちゃん、入部してくれてありがとう。天沢さんも、ピッコロがいないから助かる」

「いえ、響先輩、これからよろしくお願いします」

 学校なので敬語の奏だ。

「あんた、奏の幼馴染とか言ってたけど、奏にとっての一番はあたしだから」

 彩歌は響に対して妙なマウントを取ってきた。

 男子の先輩に対して敬語を使わない彩歌である。

「そうだね」

 響は困ったように苦笑した。

「あ! 水曜の図書室当番の子じゃん!」

 そこへ風雅も加わる。

「げっ! あたしに絡んでくるチャラ男! ウザい! こっち来んな!」

 キッと風雅を睨む彩歌。

(やっぱり風雅、天沢さん目当てで水曜の昼休みに図書室行ってたのか)

 自身の予想が当たり苦笑する響。

「そんな冷たいこと言わずにさ」

 風雅は彩歌の失礼な態度を気にしていないようだ。

「俺はトロンボーンの朝比奈風雅。よろしくね、彩歌ちゃん、奏ちゃん」

「いや風雅、いきなり名前呼びって」

 早速馴れ馴れしく「奏ちゃん」と呼ぶ風雅に響はモヤモヤした。

「名前で呼ぶなクソ野郎が!」

 彩歌が風雅に噛み付いている。

「賑やかですね」

 律もやって来て苦笑する。

「まあ……楽しくなりそう……かな?」

 響は風雅と彩歌の様子を見て苦笑していた。

「改めて大月さん、よろしく」

 律は爽やかな笑みで奏を歓迎した。

「うん、よろしくね、浜須賀くん」

 奏は柔らかな笑みで答えた。

 響はそんな二人の様子を見て少しだけ嫉妬心を抱くのであった。

 小夜とセレナも奏と彩歌を嬉しそうに歓迎している。

 吹奏楽部は賑やかになる予感がした。

読んでくださりありがとうございます!

少しでも「面白い!」「続きが読みたい!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をしていただけたら嬉しいです!

皆様の応援が励みになります!


次回から二章に入ります。

賑やかになる響と奏の周囲、お楽しみいただけたら幸いです。

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