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君と僕の響奏曲  作者: 宝月 蓮
第一楽章 復活の音

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音楽室に行く勇気はない

 その日の放課後、奏は担任との個人面談でいつもより遅くまで学校に残っていた。

 一年生は四月に担任と中学時代はどんな生活をしていたか、学校生活には慣れたか、心配事などはないかなど、話す時間が設けられているのだ。

 

 面談が終わり、面談場所だった視聴覚室から出た奏。

(彩歌を待たせているから、急がないと)

 彩歌は面談がある奏を待ってくれているのだ。

 奏は急いで昇降口に向かおうとしたが、急ぐあまり誰かとぶつかってしまう。

「きゃっ」

「うおっ」

 その反動で、奏は倒れかける。

 しかし、ぶつかった相手が奏を支えてくれた。

 その際、相手は持っていたものを全て手放したので、ガチャンと派手な音が響く。

「大月さん、大丈夫?」

 頭上から心配そうな声が降って来る。

 

 声の主は奏のクラスメイトで吹奏楽部の律だった。

 

「浜須賀くん……」

 奏は驚いて目を見開く。

 床にはメトロノーム、チューナー、譜面台と楽譜を挟んだファイルが散らかっていた。

「あ……ごめんなさい……!」

 奏は慌てて床に落ちた律のものを拾う。

「楽器は無事だから、大丈夫だよ」

 律は爽やかに微笑み、ストラップで首にかけてぶら下げているファゴットを見せる。そして落ちたメトロノームを拾って動くか確かめた。壊れてはいないみたいだ。

「本当にごめんなさい」

 奏は申し訳なくなった。

「大月さん、大丈夫だから、気にしないで。メト(※メトロノームの略)もちゃんと動くしさ」

 奏を安心させるような表情になる律。

「なら……良かった」

 奏はホッとして表情を綻ばせた。

「大月さん、帰宅部だったよね? 何でこの時間まで残ってるの?」

 不思議そうに首を傾げる律。

「担任との面談があったの」

「ああ、大月さん、面談今日だったんだ。俺は明後日だ」

 面談の日程を思い出し、ハッとする律。

「そっか。浜須賀くんは……吹奏楽部なんだね」

 奏は俯き、無意識のうちに左手で右手を押さえた。

「うん。ファゴット担当。今から全体合奏だから音楽室に戻るところ」

 律は爽やかに笑い、もう一度ファゴットを奏に見せる。

「……そうなんだ。頑張ってね」

 奏は少しぎこちなく微笑んだ。

「ありがとう。じゃあまた」

 律は軽く手を上げ、音楽室に向かった。

 その時、律のポケットから青いハンカチが落ちる。

「あ……」

 奏はそれに気付き、ハンカチを拾う。

(音楽室……。吹奏楽部……)

 奏は律を追いかけようとしたが、吹奏楽部の部員達がいる音楽室に向かおうとすると足が動かなくなった。

(……洗って明日返せば良いよね。それに、彩歌待たせてるし)

 奏は言い訳をするように、そのまま彩歌が待つ昇降口へ向かった。






♪♪♪♪♪♪♪♪






 翌日。

 奏は彩歌と共に登校していた。

「そういえば奏、水曜の昼休み、あたしは図書委員の当番だけど、奏はその間何してるの?」

「えっと……」

 奏は少し言い淀んでしまう。

 響と会っているのだが、彩歌は響を良く思っていないのだ。

「幼馴染と話してる。この前私を吹奏楽部に勧誘した男子の先輩は私の幼馴染で……」

 それでも奏は彩歌に嘘を吐きたくなかったので、響との関係を正直に話した。

「あのクソ野郎と!? 奏、大丈夫なの!?」

 響への怒りと奏への心配で彩歌の表情は大忙しだ。

「うん。特に何かされたわけじゃないよ。だから安心して」

 奏は彩歌を落ち着かせる。

「……奏が傷付いてないなら良いけど」

 彩歌はムスッとしていた。そんな彩歌に対し、奏は苦笑する。そのまま学校に到着し、二人は一年三組の教室に入る。

(あ……浜須賀くん、もう来てる)

 律は自分の席で本を読んでいた。

「奏、どうしたの?」

 彩歌は不思議そうに奏を見ている。

「うん。実は昨日、浜須賀くんのハンカチ拾ってね」

 奏は律の青いハンカチを出す。昨日家に帰った後洗ってアイロンをかけたものだ。

「浜須賀の……」

 彩歌はやや不機嫌そうに読書中の律に目を向ける。

「……まあ、浜須賀は……多分このクラスの男共の中ではマシかも」

 不機嫌ながらも、嫌悪感は抑えている彩歌だった。

「相変わらず彩歌は男子嫌いだよね」

 奏はそんな彩歌に苦笑した。

「だって男なんて自分が楽しければこっちがどうなろうとお構いなしだからさ。本当ウザいし最低。中学の時だって男子全員そうだったじゃん」

 ムスッとしている彩歌。それでも美人である。

「そっか。まあ全員そうってわけじゃないけど……彩歌は大変だったもんね」

 奏は中学時代の彩歌を思い出し、再び苦笑した。

「とりあえず奏、浜須賀にハンカチ返して来たら?」

「うん。そうする」

 彩歌に促され、奏は律の席に向かう。

「浜須賀くん、おはよう」

「ああ、おはよう、大月さん。どうしたの?」

 律は目の前の奏に目を丸くする。

「昨日、ハンカチ落としたでしょう」

 奏は丁寧にたたんである青いハンカチを律に渡す。

「あ、失くしたと思ってた。洗濯とアイロンがけまでしてくれたんだ。ありがとう、大月さん」

 律は爽やかに微笑む。

「うん、じゃあ」

 奏はハンカチを返し終わると柔らかく微笑み、彩歌の元へ戻る。

 律は奏の笑みをみて、ほんのり頬を赤く染めていた。

「大月さん……か」

 律は彩歌と談笑する奏を見て、ほんのり口角を綻ばせていた。

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