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君と僕の響奏曲  作者: 宝月 蓮
番外編 高校時代の青春間奏曲(※時系列はバラバラです)

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39/46

初めてのクリスマス

 響は奏と付き合い始めて数日が経過した。

 部活がお昼に終わり、部員達は特別な用事がなくても少し浮き足立っている。

 この日はクリスマスイブなのだ。


「響、ソワソワしてるな」

 急いで帰る準備をしていると、風雅がニヤけながら響の肩を軽く叩いて来た。

「……まあ」

 響は曖昧に笑うだけである。


 響が奏と付き合い始めたことは風雅も知っている。響が言ったわけではなく、風雅に気付かれて白状したのだ。


 この後奏とデートすることを言えば、きっと揶揄(からか)われるだろう。もしかしたらデートのことも気付かれている可能性もあるとすら思う響であった。

「もしかして、奏ちゃんとデートか?」

 そっとニヤけながら響に耳打ちする風雅。

 やかり風雅に気付かれていたようだ。

「何で分かるんだよ?」

 どうも風雅はこういう恋愛関連には目ざといと、ため息をつく響である。

「そりゃあ今日の響、部活前からずっと奏ちゃんの方を見て浮かれてる様子だったから。ま、付き合って初めてのクリスマスなんだろう? 頑張れよ」

 風雅はニッと笑い、そのまま帰って行った。

(俺も行くか。かなちゃんとは昇降口で待ち合わせしてるし)

 響は帰る準備をし、音楽室を後にするのであった。






♪♪♪♪♪♪♪♪






 昇降口には、既に奏が待っていた。

 響は靴を履き替え、急ぎ足で奏の元へ向かう。

「かなちゃん、お待たせ」

「いえ、そんなに待っていませんよ、響先輩」

 響のことを先輩と呼び、敬語の奏。部活の後輩モードである。

 いつも一緒の彩歌と花音には先に帰ってもらったようだ。

「かなちゃん、今日はもう敬語じゃなくて良いよ。今日はその……クリスマスイブで初めてのデートだし、そうして欲しい」

 クリスマスイブ、そして初めてのデートであることを意識し、頬をリンゴのように赤く染める響。

「分かった、響くん」

 奏も少し照れたように微笑んでいた。

 響と奏はゆっくりと歩き始める。


 校門を出た頃、響は奏の手に目を向ける。

 薄紫色の、暖かそうな手袋をしている奏。

 その手は響の手よりも小さくてほっそりとしていた。

「あのさ、かなちゃん……学校出たし、手、繋がない?」

 響は少し声が震えていた。

 寒さではなく、緊張によるものだ。

 幼い頃は当たり前のように奏と手を繋いでいたが、高校生にもなるとやはり意識してしまう。

「うん、良いよ」

 奏の返事を聞いた響は、ゆっくりと奏の手を取る。

 手袋越しの華奢な奏の手を、まるで宝物を扱うかのように優しく握る響。

 響は少しだけ体温が上昇したような気がした。

「響くん、この繋ぎ方は……初めてだね」

 幼い頃とは違う恋人繋ぎである。

「うん。俺達もう……恋人同士だし」

 自分で言っておいて、照れてしまう響。


 初めての恋人繋ぎに、響は手汗で手袋が少し蒸れてしまう感覚になった。

 しかし手袋越しの奏に手汗がバレることはないので、手袋をしていて良かったと響は安心した。


 手袋越しの奏の手は、やはり小さく柔らかい。

(かなちゃん、こんな小さい手でフルートを吹いてるんだ。それに、かなちゃんは小柄で華奢。俺が強く抱き締めたら折れてしまいそうなくらいに。それなのに、チューバと同じくらい肺活量が必要なフルートを吹いている……)

 響はチラリと奏に目を向けた。


 フルートは優雅に見えるが、実はかなり過酷な楽器である。肺活量が必要で、おまけに息使いや指使いに気を配らないといけない。更には顎や口周りの筋肉にも負担がかかる。


(白鳥は優雅に見えるけど、水面下で必死に足を動かしている。フルートも同じで優雅に見えるけど、裏ではかなりしんどい。かなちゃんはそんな小さな体で、あの優雅で煌びやかな音色を……!)

 その事実に響はより奏のことが愛おしいと思った。

「かなちゃん、今日は楽しもうね」

 響は優しい笑みになる。

 その顔には思いっきり奏のことが大好きだと書いてある。

「うん、響くん」

 奏はそんな響に、少し照れながらも甘えるようにコツンと頭を響の肩に預けた。

 響は奏のその様子に、嬉しさと愛おしさが更にが増していた。

(ヤバい……! かなちゃんのこと、今まで以上にもっと好きになっちゃうよ!)






♪♪♪♪♪♪♪♪






「かなちゃん、イルミネーションのライトアップまでまだ時間あるからお昼食べて色々と見て回らない?」

「うん。それなら私、前から気になっていたパティスリーがあるんだけど、お昼後のデザートにどうかな?」

「あ、それ良いね。イルミネーションの場所からも近し、丁度良さそう」

 響は奏から見せてもらったスマートフォンの地図を確認し、表情を明るくした。


 こうして響と奏は、音宮高校最寄り駅前のイタリアンファミレスで昼食を取り、その後電車で移動してパティスリーや街を巡ることにした。

 意外と奏はファミレスなどの庶民的な店にも行くようだ。


 昼食後、電車で移動した響と奏。

 街はクリスマス一色に染まり、普段とは違う雰囲気を楽しむことが出来た。

 道行く人々の表情も、心なしか少し明るく見えた。

 奏が行きたいと言っていたパティスリーでケーキを食べた後、日の短い冬なので外は暗くなり丁度良い時間になったので二人はライトアップされるイルミネーションへ向かう。


「わあ……綺麗……」

 奏はライトアップされたイルミネーションにうっとりとしていた。

(かなちゃん、可愛いなあ)

 響はそんな奏の横顔を見て、心底愛おしいと感じた。


 色とりどりのイルミネーションはキラキラと輝いており、まるで奏のフルートの音のようだと感じる響。

「うん、綺麗だね」

 響は頬を緩ませて呟く。

 響は奏と手を繋ぎ、ゆっくりとイルミネーションの道を歩いている。


 しばらく歩くと丁度ベンチが空いていたので、響と奏は座ってイルミネーションを見ることにした。

「実はかなちゃんに渡したいものがあるんだ」

 響はガサゴソとリュックからラッピングされた袋を取り出す。

「メリークリスマス、かなちゃん」

 奏へのクリスマスプレゼントだ。


 響と奏が付き合い始めたのはクリスマス直前。プレゼントをじっくり選ぶ時間はなかったが、やっぱり奏にはクリスマスプレゼントを渡したかった響である。


「ありがとう、響くん」

 奏は嬉しそうに表情を綻ばせてプレゼントを受け取る。

 その表情に、響の心は満たされていく。

「実は私も響くんにクリスマスプレゼント、用意してるよ」

 奏はスクールバッグから丁寧にラッピングされた小さな箱を取り出す。

「メリークリスマス、響くん」

「かなちゃん……! ありがとう……! 開けて良い?」

 心底嬉しい様子の響。

 中身が気になって仕方がなかった。

「良いよ。響くんの好みに合うと良いな」

 奏の返事を聞き、響は宝物を扱う手つきでプレゼントの箱を開けた。


 入っていたのは男性物の黄色いタオルハンカチ。ワンポイントでクラリネットが描かれている。


「わあ、何か凄く肌触り良さそう! しかもクラリネットの柄! かなちゃん、ありがとう! 嬉しいよ!」

 響は今にも飛び跳ねそうになってしまう。

 そんな響を奏は見守っているかのようだ。

「時間がなかったから大層なものは選べなかったけど、喜んでくれて良かった」

 奏は安心したような表情である。


 時間がないのはお互い一緒だったのだ。

 その中で真剣に選んでくれた奏からのプレゼント。

 響の喜びは更に増していた。


「響くんからのプレゼントも、開けてみて良い?」

 奏からの問いに、響は「もちろん」と首を縦に振る。

 すると奏による丁寧な手つきでラッピングの袋が開かれる。


 入っていたのは紫色の大人っぽいハンカチ。ワンポイントにフルートが描かれていた。


「ありがとう、響くん。これ、大人になっても使えそう」

 奏は大切そうにハンカチを胸に当てた。

 その表情は、心底嬉しそうである。

「かなちゃんが喜んでくれて良かった」

 響は満面の笑みである。

「ねえ、かなちゃん……抱き締めて良い?」

 奏への想いがどんどんあふれ、響はついそう聞いていた。

 奏は一瞬目を見開いて驚くが、コクリと頷く。

 響は奏を守るように、そっと抱き締めた。

 奏の全てが愛おしくて仕方ない響だった。


 肌を刺すような寒さで吐く息も白くなっているが、響の心はポカポカと温かくなっていた。

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