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君と僕の響奏曲  作者: 宝月 蓮
第三楽章 その思いはappassionato

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賑やかな試験勉強

 この日、奏は自宅の自室で少し悩んでいた。

(進路か……)

 奏は学校で配られた進路希望調査票を眺めてぼんやりとしている。

 

 頭の中に浮かぶのは、幼い頃に響と一緒に二重奏をした思い出や初めて出場したフルートのコンクールのこと。そして、中学一年生の時の挫折や再び響と二重奏をしたこと。フルートや音楽から離れていた時期もあるが、奏の人生は基本的に音楽とは切り離せないものだ。

 

(普通の大学か、音大か……)

 奏は軽くため息をつく。

 その時、スマートフォンに連絡が入った。

 彩歌からである。

 この日、奏の両親と祖父母は用事があり、帰って来るのは夜になる。だから奏は彩歌と一緒に家でテスト勉強をする約束をしていたのだ。

 彩歌からのメッセージは「着いた」と一言。奏は二階の自室から出て一階の玄関を開ける。そのまま広い庭を通り、門の前にいた彩歌を見つけると表情を綻ばせた。

 

「彩歌、いらっしゃい」

「お邪魔しまーす。五月の中間テスト振りの奏の家だね。あ、これお土産。うちのお母さんが買ったクッキー」

「ありがとう、彩歌。彩歌のお母さんってお土産選びのセンスが良いから少しワクワクしてる」

 奏は表情を輝かせながら彩歌からお土産の紙袋を受け取る。

 

 二人は広い庭を通り、ようやく玄関までたどり着いた。

「うちのお母さん、趣味のお菓子作りの為に色々なお店のお菓子食べて研究してるからね」

 ややしたり顔の彩歌。しかし、玄関の様子を見て怪訝そうな表情になる。

「待って、何か男ものの靴多くない?」

「ああ、一応彩歌に連絡しようと思ったところだったけれど……」

 奏は少し申し訳なさそうに微笑み、どう説明しようか迷っている。

「実は響先輩から連絡があったの。響先輩達、中央図書館で勉強しようとしていたみたいなんだけど、今日図書館臨時休館になったみたいなの。それで、私の家で勉強して良いかって……」

 奏は困ったように苦笑し、上目遣いで彩歌を見る。

 図書館臨時休館で困った響が連絡したのは奏だったのだ。

 すると全てを察した彩歌は何も言わず、大股歩きで奏の家のリビングに突入する。

 

「今すぐ奏の家から出て行けクソ野郎共!」

 

 リビングに入り開口一番それである。

 響達は突然の言葉に驚き、肩をピクリと震わせ彩歌に目を向ける。隣の徹はあまりの驚き具合にすっ転んでいた。

「天沢さん……」

 目を吊り上げ仁王立ちの彩歌に、響は若干顔を引きつらせていた。

 奏は彩歌の様子に苦笑した。


 結局、奏と彩歌の邪魔をしない条件で響達は奏の家での勉強を許してもらえることになった。もちろん、彩歌が出した条件ではあるが。

 こうして、奏の家で勉強会が始まる。

 

 奏、彩歌、律達一年生は自分のペースで問題なく勉強を進めていた。

 響達二年生は徹の面倒を見ながら自身の勉強を進めていた。

 響も数学Bの分からない部分を蓮斗に聞いてワークの問題を解いていた。

 奏にとっては見慣れたリビングでいつもの空間である。だから他の者達がいてもいつも通り集中して勉強出来た。一方、奏の家に初めて来た者達は最初この高級感あふれる空間に呑まれそうになっていた。しかし、次第に自分の勉強に集中出来るようになったようだ。


「あー、疲れたー」

 しばらくすると、徹がシャーペンを置き、座ったまま軽くストレッチをする。

「徹が一時間半も集中するなんてな。明日は大雪か?」

「おい風雅、どういうことだよ?」

 風雅にムッとする徹。

 風雅が言った通り、勉強開始してから一時間半が経過していた。

「まあ一時間半勉強したから、少し休憩するか」

 蓮斗は問題集をもうすぐ解き終わるようだ。

「何かいつもより集中出来たかも」

 響はふうっと深呼吸をした。

「せっかくですし、紅茶出しますね」

 奏は数学Aの勉強を終え、ゆっくりと立ち上がりキッチンに向かう。

 すると、響もすぐに立ち上がった。

「かなちゃん、じゃあ俺手伝う」

「ありがとう、響くん。あ、ごめんなさい。敬語が抜けていました」

 自宅なのでリラックスしていた奏は、他の部活のメンバーがいるにも関わらず響のことを「響先輩」ではなく「響くん」と呼んでしまった。

「いや、今学校とか部活じゃないから、気にしないで。このコップで良いのかな?」

 響は優しく笑いながらコップを出そうとする。

「はい、それを七つお願いします。私、お湯を沸かしていますから」

 奏は電気ポットのスイッチを入れた。

「大月さん、俺も手伝えることある?」

 いつの間にか律もキッチンにやって来ていた。

「浜須賀くん……じゃあ、棚の上にある紅茶のパックを取ってもらえる?」

「これだね?」

「うん、ありがとう」

 比較的長身が高い律にとっては朝飯前の行動だ。奏は律から紅茶のパックを受け取る。

 奏はガラスのティーポットに紅茶のパックとお湯を入れ、一分間蒸らしていた。


「奏ちゃんの家って広いし豪華だね。普段とは違う場所だから、いつもより集中出来た気がする」

 奏達が紅茶を準備している間、風雅は奏の家のリビングを見渡していた。

「何つーか、本当に金持ちって感じだな。俺とてもじゃないけどこの家では騒げない」

 徹が肩を縮ませていた。

「徹が騒いだら絶対何か壊すからな。大月の家のもの壊したらお前が絶対弁償出来ない額になりそう」

 問題集を解き終えた蓮斗は苦笑していた。

「奏の家はお祖父(じい)さんとお祖母(ばあ)さんの代から揃って音楽一家の資産家なの。しかも結構権力がある。由緒正しい奏の家に来るんだったらそんなお菓子じゃなくてもっとまともなもの持って来なさいよ」

 彩歌はムスッとしながら響達が持って来たお菓子が入ったビニール袋を顎で示す。

 スーパーのビニール袋にはポテトチップスや大袋のチョコレート菓子など庶民的なものがドサッと入っていた。

「確かに奏ちゃんの家には不釣り合いかも」

 風雅は庶民的なお菓子が入ったビニール袋を見て苦笑した。


「お待たせしました」

 奏達は紅茶を皆に配る。

「奏ありがとう」

 彩歌はご機嫌な様子で奏から紅茶を受け取った。

 皆集中して勉強していた反動か、肩の力が抜けている。

 

「そう言えばさっき天沢が大月の家は祖父母の代から揃って音楽一家の資産家とか言ってたけど、もしかして世界的有名な指揮者の大月弦一郎(げんいちろう)って大月のお祖父さんだったるする?」

「はい、そうです」

 蓮斗から聞かれた奏は頷いた。

「大月弦一郎、俺も聞いたことある。じゃあさ、大月さんも進路は音楽関係の道にするの?」

「進路……」

 奏がまさに悩んでいたことである。

 律からの問いに、奏は黙り込んでしまった。

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