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君と僕の響奏曲  作者: 宝月 蓮
第二楽章 調和、時々不協和音

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和解

 奏が詩織を探し始めた後の音楽準備室にて。


『彩歌も小夜先輩もセレナ先輩も、私がその気になれば詩織ちゃんを器物破損などで前科持ちに追い込めること知っていますよね? その気になればあの子の未来を潰すことが出来るってことも』


 響の脳裏には、その言葉と少し悪戯っぽく笑う奏の表情がこびりついていた。

(初めて見たかなちゃんの一面だったな……)

 響は思い出してドキッとしていた。

「あのさ、かなちゃんはその気になれば内海を前科持ちにすることが出来るとか言ってたけど、天沢さんと小夜さんとセレナさんはかなちゃんが中学時代に何をしたか知ってるんだよね?」

 響は興味本位で聞いてみた。

「あ……それは俺も気になりました」

 律も思い出したように苦笑している。

「ああ、その話ね」

「あれはウチもびっくりした」

 小夜とセレナは懐かしそうに笑っていた。

「まあ、奏は理不尽に対しては法で対処しますからね。あたしを助けてくれた時も」

 彩歌も懐かしそうに笑っている。

「もしかして、弁護士呼んだ系?」

 響は中学時代の彩歌が奏に助けてもらった話を思い出す。

「小日向くん、大正解」

 小夜がクスッと笑い、セレナが詳細を説明し始める。

「ウチらの中学の吹奏楽部、一年はポニーテール禁止とかいうわけの分かんない不文律があったわけ。でも奏はそれが理不尽で意味分からないって守らなかったんだよ。まあ案の定って感じでウチと同学年の性格キツい子に目を付けられて、嫌がらせが始まった」

「そしたら奏、待ってましたって感じで弁護士連れて大事(おおごと)にして、その先輩を退部に追いやった。それだけじゃなくて、名誉毀損とか前科も付けて転校させた。それに奏の家ってかなりのお金持ちで権力持ってるみたいだからさそういうこと簡単に出来るわけ。奏、凄いでしょ。吹奏楽部の意味分かんない理不尽な不文律もそのお陰で撤廃」

 彩歌は自慢するかのような表情だ。

「かなちゃん……凄いなあ」

 響は知らなかった奏の一面を知り、少し嬉しくなった。

(何か……かなちゃんが何をしても受け入れられそうな気がする)

 それは完全に惚れた弱みだった。

「意外ですね……」

 律も目を丸くしていた。

「奏ちゃん、見かけによらず凄いことする。やられたら倍返しどころか十倍、百倍返しだ……」

「大月だけは絶対敵に回したくねえ」

 風雅と蓮斗もその話を聞き驚いていた。

「まあ大月の行動は正しいと思うな」

 蓮斗は納得したように頷いていた。






♪♪♪♪♪♪♪♪






 奏は必死に学校の敷地内を探し、人気(ひとけ)のない校舎裏でようやく詩織を見つけた。

 詩織はうずくまって泣いていた。

「詩織ちゃん」

 奏は詩織を刺激しないよう、優しく声をかける。

「何で……? 何で私に話しかけるの? 私、奏ちゃんにあんなことしたのに……」

 弱々しい声だ。

「そうだね。ものを壊されたり、閉じ込められたり、理不尽な思いはそれなりにしたよ。でも、詩織ちゃんはまだ一線は超えていない」

 奏は微笑む。奏の心は穏やかだった。

「一線って……?」

 涙を拭い、弱々しく不思議そうに首を傾げる詩織。

「私のフルートは壊さなかった。だから、私は詩織ちゃんを許そうと思うの」

 奏は柔らかく微笑んだ。

「……もし私が奏ちゃんのフルートを壊してたらどうするつもりだったの?」

 

「その時は、詩織ちゃんに犯罪者になってもらうつもりだった」

 口元は笑っているが、目は笑っていない奏だ。

 

「え……」

 詩織はゾクリと冷や汗をかく。

「今まで壊されたものは証拠として保管しているし、浜須賀くんの動画と証拠として残ってる。だから、私は詩織ちゃんに器物破損とかの前科を付けることが出来るの。詩織ちゃんの将来を完全に潰すことだって出来るよ」

 悪戯っぽく笑う奏。

「あ……」

 詩織は怯えたような目で奏を見ていた。

「理不尽には法で対処するって決めているからね。中学時代も、先輩から嫌がらせを受けた時は弁護士呼んで大事(おおごと)にしたから」

 中学時代を思い出し、奏は懐かしくなった。

「……ごめんなさい。私……本当にごめんなさい……!」

 詩織は泣きながら奏に謝罪した。

「大丈夫。フルートは無事だから、詩織ちゃんを許すって決めていたの。それに、今まで通り部活にも来て。みんな詩織ちゃんを待ってるから。テナーに抜けられると困るの」

 奏は優しく詩織の肩に手を置く。

「私からのお願い、聞いてくれるよね?」

 奏は優しく詩織に微笑む。

「……うん、分かった」

 詩織は少し迷いながらも頷いた。

「良かった」

 奏はホッとして胸を撫で下ろした。

「詩織ちゃん、私、詩織ちゃんに何か悪いことした?」

 奏はずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。

 すると、詩織は黙り込む。詩織は悔しそうな表情だった。

「……てない」

「え? 何て言ったの?」

 詩織の声が聞き取れなかったので、奏は聞き返す。

「何もしてない。奏ちゃんは……悪くない。完全に私の逆恨み」

 詩織は悔しそうに奏を見ている。

「奏ちゃんは……小日向先輩のこと、どう思ってるの?」

 詩織は奏から目をそらす。

「響先輩? 響先輩は幼馴染だけど」

 奏はきょとんとしていた。詩織がどうしてそんなことを聞くのか分からなかった。

「ふーん……」

 詩織はやや納得していなさそうだ。そのまま話を続ける詩織。

「私ね、小日向先輩が好きなんだ。中学の時からずっと」

「そうだったんだ」

 奏は意外に思った。

「でも、全然振り向いてくれなくて。高校も、音宮は偏差値高いから諦めろって言われてたけど、小日向先輩かいる高校だから勉強頑張って合格して、また吹奏楽部で小日向先輩と過ごせたらって思ってた。だけど、いきなり現れた奏ちゃんが全部持って行っちゃうんだもん……」

 詩織はムスッと頬を膨らませ、恨めしげに奏を見ていた。

「それで、奏ちゃんのメトとかチューナー壊した。三組が音楽の授業中だった時、一組は自習だったから教室抜け出すのは余裕だったし。でもそうすればそうする程、奏ちゃんは小日向先輩と楽しそうにしてるし、ムカついた。だから音楽準備室に閉じ込めた。音楽室のピアノの下、死角になってるからそこに隠れて、奏ちゃんが音楽準備室に入るの待ってたんだよ」

「ピアノの下にいたんだ……。確かにあの場所は見えないよね」

 あっさり詩織が音楽準備室に閉じ込められた件をネタバラシしてくれたので、奏は目を丸くした。

「冷静に考えたら、奏ちゃんにそんなことしたって小日向先輩が私を見てくれるわけじゃないのに」

 詩織はため息をつく。

「奏ちゃん、本当にごめんなさい」

「詩織ちゃん……」

 奏から見た詩織は、心底反省しているようだった。

「私はもう気にしていないよ。フルートが無事だったから」

 穏やかに優しく微笑む奏。

「……ありがとう」

 詩織は力なく眉を八の字にして笑う。

「あのさ……奏ちゃんは……小日向先輩のことは本当にただの幼馴染としか思ってないの?」

 詩織は真っ直ぐ奏を見ている。

「……うん、そうだけど」

 奏はきょとんとしながら答えた。

「そっか。……私、やっぱ小日向先輩のこと、諦められなくてさ。たとえチャンスがもうなかったとしても……」

 詩織は力強い目で曇り空を見上げていた。

「そっか」

 奏はそんな詩織から目をそらす。

(もし響先輩と詩織ちゃんが付き合い始めたら……)

 ふとそんな想像をしてみた。

 響と詩織の仲睦まじい様子を脳裏に思い浮かべる。

 すると、奏の胸がほんの少しだけズキンと痛んだ。

(どうして……? どうして胸が痛むの……?)

 奏は心の奥底にあるよく分からない本心に戸惑っていた。

 詩織とは和解出来たのだが、新たな感情に戸惑う奏だった。

読んでくださりありがとうございます!

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次回から三章に入ります。

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