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買い忘れはございませんか?

作者: Ratohx
掲載日:2026/05/09

「ここで買うと安いって聞いたんだ」


きんきんとした明るい声が入り口から聞こえてきた。


「いらっしゃいませ」

ユナは描いていたスクロールから目を離し、入ってきた三人の少年を見やった。


「へえ、道具屋なのに武具や防具もあるのか」


「やっぱり街の人に話を聞いて正解だったな。城の連中何も教えてくれなかったし」


白シャツを着た二人は店内の品を眺めては、面白そうに声を上げている。



「おっ、この剣カッコいいじゃん!おりゃ!」

鞘から抜き打ちざまブロードソードを振り回す、ふくよかな白シャツ。


「ちょっ、おまえっ…危ないって!」

もう一方、細身の白シャツは引きつりながらもはしゃいでいる。


ユナはカウンターの奥から声をかけた。

「どのようなご入用ですか?」


店内を見回していた背の高い、眼鏡をつけた少年が落ち着いた声で答えた。

「ああ、武器と防具を探しているんだ、戦士のと。盗賊というのかな?軽装のやつ」


「スカウトが着用するようなものですね、それでしたらこちらなんか」


ユナは皮で出来た、胸部だけ覆うタイプの防具を棚から取り出した。

細身の白シャツが手に取って、どう身に着けていいのかと思案している。

ユナはカウンターから出ると彼の後ろに回り、装着を手伝ってやった。


「あの、異世界転移してきた方ですか?」


「へ?よくわかったな」

細身は素っ頓狂な声を上げた。


「ふふ、だって。恰好を見ればわかります」


二人の白シャツには学校紀章がついている。

背の高い眼鏡の彼は、薄いグレーのシャツに青色のネクタイをしていた。

眼鏡の彼が言った。


「たしかに、俺たちの服はこの世界のとかなり違う。わかって当然だ」


「じつは、お客様たちみたいな人たちは珍しくないんです」


ユナの言葉に驚きの顔を見せる三人。

この世界は人間と魔族が争っている。そのため人間側は戦力として

定期的に異世界の人間を召喚しているということをユナは説明した。


眼鏡の彼は軽く舌を鳴らし、

「だからか。城のやつら、勇者だ何だと持ち上げるわりには、やたらとマニュアルな対応だと思ったんだ」


「でもさ、佐々木の能力を測定した時、あいつら驚いてたじゃん。おれたちも結構いい線いってたみたいだし」


ふくよかな白シャツの言葉に、佐々木と呼ばれた眼鏡は、

「うん、この世界では俺たち異世界の人間しか魔法は使えないようだし。これはアドバンテージだ」

と眼鏡をクイっともちあげた。


「だな!異世界無双ってやつ~!?」

細身がたのしげに声を上げた。



その後、三人はひとしきり店内を物色して、それぞれ武具と防具を選んでいった。


「これでいいかな?」

ユナはカウンターで佐々木から代金を受け取った。


「ありがとうございます。買い忘れはございませんか?」


「ああ、大丈夫だ」


「では、これは私からサービスです。お受け取り下さい」


「……巻物?」


「ええ、回復のスクロールです。見たところヒーラーはいらっしゃらないようですし、持ってて損はないですよ」

にっこり笑うユナ。


「そうか…では」


佐々木は軽く会釈するとスクロールを懐にしまった。





戸口に立ち、去っていく三人を見送るユナ。

そこへ顔見知りのエリスが通りがかると、ユナの視線を追った。


「あれ、勇者さま御一行ってやつ?」


「うん。結構強そうだったよ」


「ユナ、まずは冒険者ギルドに行って仲間を募集したほうがいいとか教えてあげた?」


ユナは後ろ手を組むと、戸口に体を預けた。

「まあ、一応?」


「転移してきた勇者さま達ってさー、魔法が使えるからって調子にのるよねー」

エリスは腰に手を当て、眉をしかめながら言った。


       ***

『魔法が使える俺らサイコーじゃん』

『あいつらの手なんか借りることねーって』

       ***


ユナは、さきほど見た彼らの得意げな顔を思い返した。


「そうだね」


「あ、そんなことはユナが一番知っているか。えへ、余計なお世話だった!」



じゃあねとエリスは駆けていった。


ユナは店内へ戻るとカウンター内の椅子にすわった。

彼女はそのまま長い時間、窓の外を眺めていた。

この店に来る冒険者、転移者たち。

みな希望にあふれてやってきては、冒険へ出かけていく。幾人見送っただろうか。



空は高く、秋の模様を見せていた。


・・・・・・・・・・・・・・・




『がたっ』


窓枠が鳴る音にユナは顔を上げた。昼でも通りを吹き抜ける風は寒々として、

間近に迫る冬を感じさせた。



エリスはマフラーに半分顔を埋め、身を縮こませながら店に入ってきた。


「うー…さむーい。ユナ、リンゴ酒ひと瓶、あと、カズラ芋ちょうだい」


「お父さんの?」


「そ、こう寒いと寝酒がないとだめだ―とかなんとか言ってさ。飲みたいだけ」


カウンターに肘をつき、品物を取るユナの背中にエリスは話しかけた。

「そういえばさ、この前みた勇者一行。死んだみたい」


ユナの上段に伸ばした手が、一瞬止まる。背中越しにエリスに返事をした。

「死んだ?誰かから聞いたの?」


「ギルドで聞いた。Aクラスの依頼をうけたみたいで、ほら、北のダンジョン」


「ああ、あそこ。モンスター強いよね」


「でしょー。結局戻って来なかったみたいで、多分やられちゃったんじゃないかーって話」



エリスはひとしきり噂話をすると、紙袋をもって帰っていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・




その夜、フード付きのマントをまとい、大きなダッフルバックを肩から下げたユナが店から出てきた。

少し欠けているが月も見えて、空は明るい。


彼女は往来に出ると、北へと脚を向けた。



北のダンジョンは町から近いため、知らない人が間違って入ってしまわないよう

申し訳程度に木の柵でふさがれている。

彼女はひょいっと柵をまたぐと、ダンジョンへと入っていった。


ダンジョン内は暗く、照明は何もない。


「イルミネイト 」


ユナがつぶやくと、頭上に小さな発光体が浮かび上がる。

左右に分かれた階段が見えた。迷いなく彼女は左の階段を下りていった。


ある曲がり角で、進む先にスケルトンを確認した。


ユナは壁際に隠れつつ、つぶやいた。

「インビジビリティ」


刹那、彼女の体が発光した。

そしてそのまま、静かにスケルトンの横を通り過ぎていった。



地下四階。ここまでくると、かなり冷える。

ユナは足元にひんやりした空気が漂うのを感じた。


降りてすぐの広間。そこに三人は倒れていた。


「さてと」


そう呟くと、ユナは彼らの装備を外し始めた。

革の胸甲、盾、ブーツ。ブロードソード。そして、床に散らばるスクロールの紙。

スクロールに描かれた魔法陣は、微かに発光している。


「ざんねん、だったね」


そう呟くと、由奈は外した装備をバックに入れ始めるのだった。



<了>





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