発売当日!!『飲んで飲んだくれて勢い余って。(夜版)』
酒を愉しむには作法がある。
バカ騒ぎをしながら大人数で飲む時、しっとりと気分に浸りながら飲む時、冒険話や儲け話、色恋話にと話題の脇に添えて飲むのも悪くない。特に食事と合わせるべくして合わせた酒ってのは相乗効果で料理の美味さを何倍にも高めてくれるよな。
じゃあヤケ酒は。
勢いだ。
理性なんぞ吹っ飛ばせ。
明日の心配なんぞしてるからヤケを起こす。
考えるより本能で、でもモノは壊すな迷惑になる。
ほんの僅かな理性を残し、後は一緒になって馬鹿をやってくれる相手が居たなら、それはそれで最高の時間を味わえるだろう。
少々言い過ぎたかなんて反省は後からやれ。
さあ飲め。
酒精に身を任せ、笑って、怒って、笑って、泣いて、そうして感情を発散させろ。
「……………………あぁ、さすがに飲み過ぎたな……」
どれだけやっていたのか。
しゃがれた声は俺のものか。自分で聞いても違和感を覚えるほどに枯れていて、揺れる視界の中でマズいかな、なんて理性が働いちまう。
止め時か。
思って財布を取り出し、立ち上がった時だ。
くい、と袖が引かれた。
隣の席、カウンターのあるこの酒場でいつしか並んで座っていた、彼女は。
派手な格好と、下手な化粧に、大きく開いた胸元からはたわわなものが丸見えで。
この地下にある酒場で偶然出会った、未だに名前も知らない女。彼女は俺以上に酒を浴び、すっかり理性の飛んだ……妙に幼げな表情でこちらを見上げてきた。
「…………………………………………え? もう帰っちゃうの?」
…………………………………………え? 帰っちゃ駄目なの?
※ ※ ※
気付けば寝台にぶっ倒れていた。
意識があんまり連続していない。
ここまで酒に飲まれるのは滅多にないが、今日はいい感じに盛り上がれていたからな、偶にはいいだろう。
ただ。
腰元に重みが来た。
漂う汗の匂い。俺だけのものじゃない。俺以外の、誰か。
その女は俺に跨り、少しだけ腰を揺すりながらしがみ付いてくる。
寄せられた唇が遠慮なしに押し付けられ、この時間で何度目かになる感触を味わった。
稚拙で、幼稚とも言える口付け。
けれど、だからこその遊び心が俺の舌を弄んで、真っ最中だってのに彼女は楽しそうに笑った。
ちょっとだけタガの外れた笑い方になってるのは酔っぱらってるからだな。
そうして揺すり続けていた腰元が十分に潤いを感じられる段階になって、俺は彼女の脚の付け根を掴んで押し入った。
声が漏れる。
しがみ付かれて、身体を震わせる。
男としちゃあ堪らなくなる反応だ。
至近で漏れる女の声と、吐息と、熱で、頭がイカれそうになりながら動き続けた。
掻いた汗で肌と肌が張り付いて心地良い。
彼女の髪がさらりと頬や、肩口を撫でて流れていく。
青い瞳を見詰めた。
名前。
君の、名前。
それすら分からないまま、酒の勢いで関係を持って、行為の最中に僅かな理性を取り戻す。
次の瞬間には、我慢し切れず吐き出しちまう時には忘れちまっているかもしれないくらい僅かで、ちっぽけな思考の中で彼女の瞳を見る。
名前すら、ヤケを起こした理由すらロクに知らない。
叫んだ言葉を探れば推測くらいはできただろうが、そういうのは違うよなって無視してきた。
ただ、今のこの、何もかもを忘れてただ俺を見ている瞳に引き寄せられ。
俺もまた、強く抱きしめて。
帰らないし、逃がさないよと、身体を反転させて寝台に押し付けた。
朝になったら話をしよう。
お互いに名乗り直して、今夜を思い出にして、また明日を生きていければそれでいい。
パーティから追放されることになって、仲間を失った身には、こんな関係は毒だ。
溺れちまう。
彼女にとっても俺なんぞと一緒に居続けてもいい事なんてないだろう。
だからせめて、いい別れをしようなと、考えていた所に。
「っっ……離さないで」
心臓を掴まれたような衝動が来た。
抱き締めて、寝台へ押さえつけた女が全力でしがみ付いてくる。
俺もまた強く腕を回した。
限界が来る。
いい。
まだ。
理性は要らない。
本能のままに……、
そうだな。
今はこの時間を愉しもう。
※ ※ ※
これはもうじき始まる物語の前日譚。
互いの名前も、立場も、内に秘めた想いすら知らないまま酒に溺れて、本能のまま肌を重ねた二人の始まり。
この幕を開けて。
夜が明けたら。
始めよう。
冒険譚、ってヤツをさ。
ここまでのお付き合いありがとうございました!!
本作は、本日9月10日発売の小説、
『万年シルバーランクのおっさん、史上最高の冒険者となる ~パーティ追放されてヤケ酒してたらお隣の神官さんと意気投合して一夜を過ごした件、ってお前最高ランクの冒険者かよ~』
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