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あと七日!!『神の愛した酒を求めて』

 「~~~~っ、ぷはあ!!」


 などと豪快に酒臭い息を吐き出し陶杯を叩きつける女が一人。

 彼女の名はリディア=クレイスティア。

 史上唯一とも言われるアダマンタイト級の神官であり、冒険者である彼女の名を聞けば、この町じゃあ誰しも講釈の一つも始めたくなるような有名人だ。

 あぁ、アダマンタイトってのは鉱石の名だが、冒険者にとっては最上位のランクを示す言葉でもある。


 とはいえ今はそんな立場なんて関係無い。

 酒の席、だからな。

 ついでに宿の窓を開け放って、部屋に充満した汗のにおいを逃がしているところだってのを説明してもいいが、楽しそうに酒を飲む女を差し置いてすることでもない。


 彼女、リディアは干した酒杯を改めて見詰めながら、赤ら顔で感心したみたいに言ってくる。

 ちょいと上機嫌に、隣り合う俺へ肩をぶつけてきて。


「値段見た時はちょっと不安だったけど、おいしいねっ、コレ!!」

「だろう? 流行りの風味とはズレてるし、材料も安物、けど造り手の腕前は一流さ。それだけでエールの味は劇的に変わる」


 得意げに語る俺の首元で、シルバーを示すランク章がくすんだ光を放つ。

 時は夜。月明かりと夜風は心地良く、呷った麦酒(エール)の酒精が身体に染み込んでいくのを感じながら、同じく薄着一枚のリディアへ視線を流した。


 彼女の熱がまだ自分の身体に残っている。

 行為で乾いた喉を潤すには酒が一番だ。

 度を越せば明日激しく後悔することにもなるんだが、それでも止められない魔力が酒には宿っている。


「ロンドくんって、ほんとにいろいろ詳しいね。私だって冒険者やってる期間は同じくらいなのに」

「はは。いつもすまし顔で()()()()()やってるお前とじゃ、流石に飲み歩きの年季が違う」


 自慢にもならねえことだがよ。

 まあでも、今夜一人の女を満足させることができたってことを、誇るくらいはいいのかもな。


 調子に乗って、俺はとっておきの話を差し出すことにした。


「珍しさで言えば、蜂蜜酒(ミード)なんてどうだ?」

「え、ミード!?」


 いい喰い付きだ。

 色々あって今みたいな関係になっちゃ居るが、お互い過去についてはあまり知らない。特に、冒険者を名乗る男共が一度は憧れるだろうリディア様の過去とくれば、それはもうあることないこと噂されてて、どれが本当かは分からない。

 元貴族って噂も聞いたことはあるけどな。


「ミードと言えば、この地域じゃ別名ザルカの酒って呼ばれることもあるよな」


 ちょいと焦らして講釈を始める。

 酒を愉しむには必要なことさ。

 あるいは、男女の行為にも。


「えっと、ザルカって、ザルカ神、だよね?」

「あぁ」


 ポッと出てきた神の名に、未だリディアは疑問顔。

 応じつつも小樽からエールを注いでいる様はすっかり酒好きのぐび姉さんだが、年齢的には俺と同じ三十二だ。

 神官の扱うルーナ神の奇跡、神聖術によって十代のハリと潤いを保つ彼女は、注いでくれた俺の陶杯を差し出しつつ、目で話の先を促してきた。


 俺が受け取ると、身体の傾きによって流れ落ちた金髪を軽く纏めて後ろへ流して、おてては素早く自分の陶杯へ。


 コン、と軽く打ち合わせ、質の良い安酒を味わった。


 彼女のなんともいえず、満足げな吐息を聞きながら、


「町の西にある農村や農園じゃあ、毎年自慢のミードを持ち寄って品評会をやるんだよ。どれが真なるザルカの酒と呼ぶに相応しいかってよ」

「えっと……蜂蜜のお酒の、話だよね?」


 リディアの疑問に俺は頷く。

 一般的には蜂蜜自体が高級品と言われるし、この町じゃあ酒と言えば麦で造ったエールが主役だからな。

 普通に飲み歩いててお目に掛かれるものじゃないのは確かだ。


「何も蜂蜜はお貴族様専用じゃないぜ。むしろ、土に塗れてる農民の方が身近さ」


 森へ入って巣を探す、というのもあるし、俺もガキの頃はよくやってたけどよ。


「養蜂って言ってさ。蕎麦とか色々、実を付けさせるには蜂に頼むのが一番だ。自然に任せてると変に偏っちまうこともあるけど、蜂はそれぞれの巣で特定の花を好んで飛び回る性質があるから、決まった作物を育てるのに都合が良いんだよ。蜂と農民の関係は羊飼いと牧羊犬よりも長いと言われる」


 謡うように語って見せた俺だが、どうやらリディアの脳には今、酒以上に引っ掛かってくれる言葉が無かったらしい。


「つまり……探せばあったりするの?」


 アダマンタイト級の冒険者と言えど、知らないものは探さない。

 知っていても、関係性が出来ていなければ融通して貰えない。

 ランクだけが全てじゃないさと、万年シルバーやってる俺が偉そうに言えたことじゃないけど、一つの事実ではあるか。


「農園と繋がりの強い酒場なら、こっそり入荷して、知ってる連中だけで愉しんでる事もあるな」


 リディアが手にしていた陶杯を机に置いて、すくりと立ち上がる。


「飲みたい」

「うん?」

「ロンドくん。ミード、私飲みたい」

「……ふむ」


 したり顔で語ってみた俺だが、そういえば俺も俺でここしばらくミードを味わっていなかったことを思い出した。

 基本的にザルカの酒とされるのは辛口でな。

 蜂蜜のあの独特な、濃厚な風味と共にやってくる、キレの良い香味をつい想起して、口の中に唾液が滲んできた。


 やる気が出た。

 素晴らしい事だ。

 酒にはそういう力がある。


「問題は時間だな。もうすっかり夜中だぜ?」


 リディアは即答してきた。羽織一枚の身の上で、妙に勇ましさを感じる表情までして。


「ロンドくん、金貨でノックして、開かないお店はないんだよ?」

「そりゃ人生の参考になるわ」


 まあでも、馬鹿みてえな金の使い方だが気に入った。


 冒険者の血と肉は酒でできている!!


 そんな訳で俺達は、後学の為にも金貨袋を握りしめて、深夜の街中を走り始めた。

 あぁ、ミードもウマかったが、目的のブツを探して馬鹿やってる瞬間が最高に楽しくてな。

 俺達は冒険者だから。


 それに、一仕事終えた後の一杯には魔力が宿る。

 イイ女が傍らに居るのなら、それはもう神の酒にも届こうってもんよ。




















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