英雄の祝宴、そして処刑
──歓声が、響いていた。
万民が讃え、花びらが舞う。
王都アリュステアの広場は、まさに祭りだった。
魔王討伐を成し遂げた勇者一行に向けられた喝采は、もはや神を称えるそれに近い。
剣を掲げ、英雄然とした表情を浮かべる金髪の少年──勇者グレン。
その背後に並ぶのは、名高い五人の仲間たち。
聖女、魔法使い、竜騎士、影の斥候、そして──
「……何故、俺は、ここにいない?」
クロウ=ランヴェルは、祝宴の裏手。薄暗い牢の中にいた。
鉄の鎖が手足を縛り、口元には“沈黙の封印”が施されている。
処刑を待つばかりの囚人の身で、彼はその場でただ黙って、広場の喧騒を聞いていた。
「よう。随分と、みじめなもんだな」
扉の外から、軽蔑と嘲笑が入り混じった声が届く。
「哀れな末路ね」
聖女エリス。かつて“心優しい光の導き手”と称された少女。
その表情は、かつての面影を感じさせないほど冷たく歪んでいた。
「クロウ。あんたが魔王と通じてた証拠、ちゃんと王様に提出したから。まあ……せいぜい死ぬまで考えときなよ。“なんでバレたか”ってさ」
扉が閉まる音。足音が遠ざかる。
──ふ、とクロウは笑った。
(……証拠? それ、俺が仕込んだヤツだけどな)
まるで蚊の鳴くような心の声で、彼は静かにほくそ笑む。
裏切り。投獄。処刑。
すべては、クロウ=ランヴェルの“計画通り”。
(五人の裏切り。それを世間に信じ込ませるには、“俺が悪党である必要”がある。そして処刑台で死ぬことで、罪が確定し、彼らの正義は揺るぎないものになる……)
──だが、彼は死なない。
すでに“あの子”が動いている。
ただ一人、自分を信じてくれた少女が。
誰よりも非力で、泣き虫で、でも優しくて。
そして、ただの村娘でありながらも、計画のキーマンだった。
(……あと半日。舞台は整った)
ゆっくりと、閉じていた目を開ける。
燃えるような紅の瞳に、冷酷な計算と、かすかな情が灯る。
(やろうか、裏切り者たちへの“破滅の第一幕”を)
鐘が鳴る。
処刑の時を知らせる音。
そして、それは復讐劇の開幕の合図でもあった。