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ガールズ・オーバーヒート

作者: なとな

 20XX年。私たちの街は…………宇宙からの侵略者に攻撃を受けていた。


 空から降ってきた五メートル近くある人型のソレは、生物を見つければ動物でも人間でも関係ない。手づかみで袋詰めにしていき、袋が満タンになったらそれを持って空に帰っていく。一体なんのためにそんなことをするのか、なぜ人間だけを狙うのか、わからない。

私たちはそんな奴らをその外見から〝ハーピィー〟と呼んでいた。


 そう……この日。私たちは思い知らされることになる。私たちの世界はとっくに終わっていたことを……。


 ハーピィーが空を埋め尽くすほど大量に飛来し、街はパニックになった。

 逃げ惑う人々。空から降り注ぐハーピィーの羽。ハーピィーが羽ばたきで起こした風圧で吹き飛ばされ倒れた人たちから回収されていく。


 そんな中、私は…………いや、私たちはブレイバースーツと呼ばれる機械の鎧に乗り込み、ハーピィー達と戦おうとしていた。


 私たちのブレイバースーツには空中戦闘を可能としたもので私たちはコクピットに乗り込んでそれを操縦している。


 私はハーピィー達が現れるまでは…………普通の女子高生だった。


「はぁ……はぁ……っ!」


 私はブレイバースーツを操縦してハーピィーと戦っていた。


「このぉ!!」


 私の乗る機体が剣型の武器を振るってハーピィーに斬りかかる。

 しかし、その剣は空を切るだけでハーピィーにかすりもしない。


「なんで! なんでよ! どうして当たんないの!?」


 私がいくら剣を振っても、中々当たらない。それでも私がパイロットに選ばれたのは、このブレイバースーツのコクピットが製造の都合で小さく、成人男性を乗せるのは難しかった事。覚えの早い若い世代の方が即戦力になったことが理由だ。


「うぐぁっ!?」


 機体に衝撃が走り、コクピットの映像が乱れる。どうやらハーピィーの体当たりを食らってしまったようだ。

 私はなんとか機体を立て直そうとするけど、機体はバランスを崩して地面に倒れてしまった。


「きゃあっ!」


 倒れた衝撃でコクピットが激しく揺れる。そして……モニターにノイズが走ると映像が乱れて何も映らなくなった。


「そんな! なんで動かないの!? 動いてよ!!」


 私がいくら操作してもブレイバースーツは起き上がろうとしない。ハーピィーの攻撃が迫っている。そんな時だった。


 銃撃による爆発音が響き、ハーピィーが墜落していった。


「え……? な、なに……?」


 戸惑う私の目の前に一体のブレイバースーツが着地した。そのブレイバースーツは銃剣のような武器を握っていた。


『さくら! 大丈夫!?』

『菜月!? 私は無事よ! 貴女こそ管轄エリアはどうなったの?』


 音声通信で接続されたのは、親友の二階堂菜月にかいどう なつきだった。菜月は私と一緒にパイロットに志願して、こうして一緒に初出動をしてハーピィーと戦っていた。


『それよりもさ! さくらのターゲット! 私が狩っちゃってもいいよね?』

『体制を立て直したらすぐに私も応戦するわ』

『いーよ! いーよ! 私、速いから』


 そう言った菜月のブレイバースーツはブースターを展開し、高速起動して大量のハーピィー達を撃ち落として切り付けて蹴り飛ばしてと圧勝ムード。


 私は剣を杖のように使い、ブレイバースーツを立たせるのに必死だった。これでも私は操作が巧い方で、手足を思った通りに動かせるようになった人はまだ少ない。


 戦線には私と菜月を含めて七人。その中には中学生になったばかりの男の子もいる。男性の場合はそれくらいの大きさの子じゃないと乗り込めないからだ。


『さくら! ターゲットロックしたから!』


 菜月の声に私は機体を立ち上がらせ、剣を構えた。するとターゲットがコクピットのモニターに映し出され、そこを狙撃するようにと表示された。


 私は言われたままに銃剣をライフルモードにしてスコープを覗くとターゲットに向けて引き金を引いた。発砲音と共に弾丸はターゲットに向かって飛んでいき……命中してハーピィーは墜落していった。


「やったわ!」


 初めての実戦で、初撃破……コクピットでガッツポーズをとる私。この日、私達全体のハーピィー撃墜数が合計で4体。


 私達ブレイバースーツの搭乗者は…………七人中、五人が死亡確認された。


 そんな無残な結果になった初出動から三か月。私と菜月は思いのほか優秀だったのか今では戦線を維持する要となっている。


 晴れ渡る空。夏真っ盛りのこんな日でもハーピィー達は襲来してきていた。私のブレイバースーツは桜色を採用され、菜月のブレイバースーツは群青色をしている。


 私は銃剣のブレードモードを使用することが多かったため、専用武装としてオーラソードというエネルギーを射出して剣を作りだす武装を貰い、菜月はライフルモードを使用することが多かったため、専用武装としてもう大型のレールガンを渡されていた。


 また、私たちの周囲には後輩にあたるブレイバースーツ着用者たちもいて彼女たちが操縦しているブレイバースーツは私たちが初出動の時に操縦していたものの後継機にあたるもので銃剣型武器ではなく、本人の希望にあった武器とそれに合わせてチューンナップされている。


 そして今日もまたハーピィー達の襲撃に対応する事になり、国内の襲撃地域に輸送された。


『さくら、そっちに二体行っちゃった!』

『わかったわ!』


 菜月の声に私はターゲットをロックすると銃剣からオーラソードを射出してハーピィーを切り裂いた。そのまま後ろにいる奴に向かって斬りかかると空に飛び上がって回避されたけど、空中で動きの止まったそいつに向かって銃を撃つ。

 そして銃を連射して撃ち抜いて撃墜する。


「はぁ……っ」


 私はブレイバースーツから降りる。私たちが普段生活する飛行艇。そこに戻ると既に菜月はブレイバースーツから降りて私を待っていた。


「おっ疲れさっくらぁ!」

「そっちもね」


 私と菜月がハイタッチしてお互いの健闘をたたえ合うと他の後輩たちもやってきた。「お二人ともお疲れ様です」

「はい、タオル。二人共、汗だくよ?」

後輩たちが私と菜月にタオルを渡してくれる。私はそれを受け取って汗を拭うと他の皆にも渡す。


 私たちは母艦にあるシャワー室に向かって行く。なぜか。ブレイバースーツの中はとにかく熱いからだ。


 空調を設置する余裕がなく、排熱もしているがそれでも内部の熱がコクピットにまでジワジワとやってくる。特にこれから夏本番。私たちはハーピィー達のほかに夏の暑さとも戦うことになる。


 シャワー室でさっと汗を流す私達。


「いやぁ今回も私が撃墜おうだったねぇ」

「競ってないわよ!」


 本日のハーピィー撃墜数は私が五体。菜月が七体だ。他のみんなも頑張っているけど多くても二体。私たちは完全に主力だ。


 シャワー室を出るとそのまま食堂に行く。今日はみんなと一緒に食事することになっている。


 食事は配給に近く、軍人が食べるようなものに近かった。特に私たちは体格を維持する必要があり、背が伸びてもダメ。太ってもダメ。ブレイバースーツは搭乗するより、着用するに近いくらい狭いのだ。


 だからカロリーコントロール優先のあまりおいしくない食事ばかりだ。


「今日は緑のゼリーか」


 主菜の乗る皿には緑色の固形ゼリー。メロンソーダをゼリーにした見た目のそれはとにかく苦い。


「主食もカッチカチのパン。しかもレーズン入り」


 菜月はスプーンでパンを叩くと、その硬さがよくわかるくらいにはパンは変形しなかった。幸いスープはオニオンスープのようなものでこれは美味しかった。


「ごちそうさまでした」


 食事を終えるとあとは自由時間だ。特にブレイバースーツ搭乗者やパイロットは毎日の訓練がある。ただ、それ以外の時間は暇を持て余すことになる。私は自室に戻るとベッドに寝転がる。


 自室は四人部屋で私と菜月。それから二つ空きのベッドがある。こんな暗い戦いの中でも、親友の菜月が一緒にいてくれるから戦える。彼女がいるから頑張れる。


 初めて街にハーピィーが現れた日。私は家族を連れていかれた。絶望して腰を抜かしていた私を連れて逃げてくれたのが菜月だ。ハーピィーに壊されていく日常。


 菜月さえいれば私は…………戦えるよ。


『さくら! 聞こえる? 出撃命令よ!』

「っ!?」


 そんな時、菜月からの通信で私は飛び起きた。格納庫に走ってブレイバースーツに搭乗する。


「遅くなりました!!」


 私が敬礼すると他の皆も敬礼をして機体に乗り込む。そして発進シークエンスが始まる。モニターにはすぐさま戦闘区域が表示された。


『パイロットバイタル正常値、ブレイバースーツ各フレーム問題なし、全システムオールグリーン!!』

『こっちもいいよ!』


 菜月も専用ブレイバースーツに乗り込み、各接続シークエンスをパスして出撃準備が整う。

『さくら! 一緒に行こう!』

『ええ! わかってるわよ!!』


 私は操縦桿を握りしめる。ブースターから炎が噴出して空に舞い上がった。


 戦闘開始から十分後。


「はぁ……はぁ……」


 私は荒い息を吐く。今回の出撃はハーピィーの数がかなり多く、そのすべてを撃墜するのにあとどれくらいかかるのだろう。


 私の周囲にはハーピィーが五体。菜月の方にもハーピィーが六体。後輩たちは半分に分かれて私と菜月の援護をしてくれている。


「くっ!」


 ハーピィーが体当たりでこちらのブレイバースーツを殴りつけてくる。それを私は機体を操作して回避して斬りかかるけど、剣は空を切ってしまった。そして一匹のハーピィーに背後を取られる私。


「くぅう!?」


 そのハーピィーのくちばしが私の首筋に突き刺さると激痛が走る。私は銃剣を引き抜いて突き刺さっている鳥の頭を貫くとそのままオーラソードを振り抜いて背後のそいつも撃墜した。


「はぁ……っ」


 しかし、機体のコクピットに衝撃が走る。モニターを見ると他のハーピィーが体当たりをしてきたようだ。私はモニターを確認しながら操縦桿を操作して体勢を立て直す。そして銃剣を構え直して上空から急降下してくる二匹のハーピィーに向かって引き金を引くと放たれた弾丸はそれぞれのハーピィーに命中した。


『さくら先輩!』


 後輩たちの声がすると同時に私のブレイバースーツに何かが巻き付いた。それは蛇のように長い胴体を持つハーピィ。


『何よこいつ!? こんなハーピィー知らないわ!!』


 菜月の悲鳴に似た声が通信から聞こえる。蛇ハーピィは私に向かって溶解液を吐き出してきた。私はそれを回避できず、ブレイバースーツの腕部と背面ユニットの一部が溶かされてしまった。


「きゃぁああああああああ!!」


 私は悲鳴を上げた。モニターには損傷箇所が表示されていて、その部分から煙が出ていた。そして私のブレイバースーツのエネルギー残量が減っていく。


『さくら先輩! 今助けます!』


 後輩たちが銃剣を構えて蛇ハーピィに向かって発砲するけど、そいつは私を盾にするように動いて回避した。そして再び私に溶解液を吐き出してきた。


「あぐぅうううう!?」


 今度は肩や足だ。もう逃げだすこともできない。ここは空。たとえこいつを倒せても、私はこのまま空中から真っ逆さまだ。死ぬんだ。私、死ぬんだ。


「いやぁああ!!」


 私は叫ぶと操縦桿を思い切り押した。するとブースターの出力が上がり、機体が加速させようとする。それでも、手足も背面ユニットもないブレイバースーツでは何も動かない。


『さくら!? 何してるの!?』


 菜月が通信から悲鳴のように叫んだ。でも……もう無理だよ。私、助からないもん。私の以上に気付いた菜月がこっちまでやってきた。


『さくら、今助けるから』


 菜月の強い意志を感じる言葉。でも、私は首を横に振る。


『無理よ……私なんてもう助からないわ。菜月、私ごとこいつを』


『あきらめんな! 私が助ける!』


 菜月は蛇ハーピィに向かって発砲するけど回避されてしまう。


『大型レールガン出力最大!!!』

『ちょっと菜月!? それ私も巻き込まない!?』

『信じて! 親友でしょ!』


 大型レールガンは発射されるとものすごい轟音で蛇ハーピィーが怯み、巻き付いていた私のブレイバースーツをするりと落とす。それを後輩たちが救出する事で、私は蛇ハーピィーから逃れる事に成功した。


 さすが菜月だ。彼女に任せればもう大丈夫。


 そう思って菜月と蛇ハーピィーの戦いを見ていた。しかし、撃墜数トップ最高のブレイバースーツパイロットである菜月ですら、蛇ハーピィーを前にして圧倒されている。


『うわぁあ!? とっとぉい!!』


 菜月の悲鳴。菜月は専用大型レールガンと銃剣の二丁で乱射しているが、蛇ハーピィーはするりと回避し、菜月に巻き付こうとする。しかし、菜月の操作テクニックにより、綺麗に回避する。菜月がライフルモードの銃剣を蛇ハーピィーに向けるが、撃とうとした寸前で引き金を引くのを止めた。


 そしてそのまま体当たりを喰らってしまい、ノックバックする。


『菜月!』

『心配無用! って言いたいけどこいつはやばいね…………私が倒れたらみんなも倒されちゃうかな…………逃げる気はあるかい?』


 菜月の質問に後輩たちが戦う意思を伝えると、菜月は深いため息を吐く。


『…………ブレイバースーツ出力最大』

『何してるの菜月』


 ブレイバースーツにはリミッターがある。一定以上の出力を出せばすぐにオーバーヒートをしてしまうどころか、ただでさえ排熱処理の上手くできていない機体。


 中にいる菜月は…………耐えられるのだろうか。


『菜月! 無理しないで!』

『ん-? いやぁ熱いねぇ。でもさ…………もう誰も死なせたくないのは私も一緒だから』


 菜月のブレイバースーツの手足から煙が出始める。


『さくら…………通信切るから…………最後に声を聴かせてよ』


 菜月に言われた言葉を理解できない。でも、私は言われたままにした。今の気持ちを全力でぶつける。


『フザケンジャないわよ!!!!』


 私の痛烈な叫びが通信に乗る。そして菜月から通信が帰ってきた。


『ありがと』


 プツン。通信から菜月のブレイバースーツの音が聞こえなくなった。


「菜月ぃいい!!」


 私は絶叫した。すると私のブレイバースーツがゆっくりと動いて上を向いた。それはまるで……私が空を見ているようにも見えただろう。でも、私のブレイバースーツには…………手足もブースターもない。何も出来ない。


『さくら先輩?』


 後輩たちが私に声をかけるけど、私はそれに反応できなかった。


 菜月のブレイバースーツは高速飛行をしながらブレードモードの銃剣で乱雑に切り裂いていく。蛇ハーピィーが身動きできなくなったところで大型レールガンと銃剣のライフルモードをドッキングさせる。


 そしてその一撃は蛇ハーピィーを蒸発させる。


『やったんだね菜月』


 菜月のブレイバースーツはそのまま落下し、海に沈む。捜索部隊がすぐに菜月の回収に向かったが…………この日、一期生は私だけになったことが通達された。


 菜月の葬式が終わってから三日後。


 私は自由時間はすべて部屋に引きこもっていた。訓練時間はシミュレーションに乗るだけ。


 私のブレイバースーツはボロボロで修理中だから出動できない。みんなも気を使ってハーピィー警報時には私を置いて出動してくれている。


 最初は私が代わりに誰かのブレイバースーツを借りて出動するって伝えたのだけど、みんな少しでも強くなりたいと言われた。


 私だって…………一匹でも多くハーピィーを狩りたかったけど、本来の私の機体でもないし、無理を言っているのはわかっているから引き下がっていた。


 食事も残さず食べる。緑のゼリーは苦いけど…………菜月とまずいと言いながら食べた思い出だ。


 私は戦いに参加できるのだろうか。気持ちは殺したいと願っているのに、もう目の前で誰かを失うところを見れない。私は…………一期生の勇敢なパイロットじゃない。


 ただ連れ出してくれる人のいる。その場の空気に流されて武器を持ったモブだ。


「菜月……私、もう無理だよ…………」


 そんな時だ。部屋のブザーが鳴った。誰だろうか? 私は扉を開けるとそこには後輩の女の子が立っていた。


「あ…………あの……さくら先輩」

「どうしたの?」


 私が尋ねると彼女はもじもじとしてから口を開いた。


「その……一緒に来てくれませんか?」

「え?」


 彼女の言葉に首をかしげる私。そしてそのまま彼女に連れられていくことになった。

 連れてこられたのは格納庫だった。そこでは整備士たちが忙しそうに作業をしていた。


「さくらさんですね」


 整備士の一人が私に声をかける。


「はい…………」

「貴女のブレイバースーツの修理が完了しました。ご確認お願いします」


 そこにあったのは…………私の桜色のブレイバースーツの顔に胴体。そして菜月の群青色のブレイバースーツの手足に背面ユニットだ。


 武器としてオーラソードと大型ライフルが腰と背面に装備されている。


「これ…………」

「どうしても手足の作成に時間がとれず、菜月さんのブレイバースーツから流用することになりました。ただ、性能は上がっています」


 私はブレイバースーツに搭乗する。するとモニターには各部のチェック結果が表示され、エネルギー残量も表示される。


「菜月さん……いえ、一期生の皆さんの思いを乗せて整備しました。さくらさんの思うままに使ってください。それがきっと……皆さんのためになりますから」

「……はい」


 私は返事をするとコクピットから出て後輩たちのところに行くことにした。警報が鳴ってから三十分ほど。


 そろそろ後輩たちがハーピィーと戦闘を開始している頃だろう。私は早速ブレイバースーツの出力を上げて高速飛行を試みる。


 軽い。今までの初期型や専用にチューンアップされた桜色の機体よりずっと軽い。これなら…………誰も死なせない。私は基地から飛び出すと上空でホバリングをする。そしてハーピィーのいる方向を見据える。


『さくら先輩!』


 後輩たちが私に気づいて近づいてくる。


『みんな……行くわよ』


 私の声に合わせて全員が頷く。そして私たちは一斉に散開した。足のブースターを噴かせて一気にハーピィーの大群に距離を詰めると、私はオーラソードで一刀両断。今まで以上に手足に近い感覚で動くブレイバースーツは、簡単にハーピィー達を切り裂いていった。


『すごい』


 誰かのつぶやきが聞こえた。それを皮切りにみんなも戦闘を始めた。後輩たちはそれぞれ同じ改良型のブレイバースーツだけど、自分に合わせた武器を装備している。


 彼女たちも二人一組でハーピィーを一体ずつ撃破していってくれている。


 私の目の前にいるハーピィーの群れに大型レールガンを向ける。射撃はあまり得意じゃないけど、この広範囲攻撃なら!!


 レールガンを発射し、ハーピィーの群れの中で大爆発が起きる。逃げのびたハーピィーの前に移動しては切り付けていく。


 そして私の目の前にはあの変異型と思われた蛇ハーピィーが三体現れた。


 菜月を殺したハーピィーと同種のハーピィーだ。でも、私は恐怖しない。


『あんたは別個体だけど…………菜月の仇……とらせてもらうわ』


 私はオーラソードを構えると三体のハーピィーに向かって突撃する。そして先頭のハーピィーにオーラソードを突き刺す。そのまま横に切り裂くと、そのハーピィーは消滅する。


「やぁああ!!」


 二体目のハーピィーが私に巻き付こうとしてきたけど、それを回避して切り裂いた。最後の一体が体当たりをしてくるけど、それはレールガンで撃ち抜いた。


『よしっ』


 私は残ったハーピィーの殲滅を行うためにその場を離れて次の敵を探した。逃せない。私は出力を加減してハーピィー達を追いかける。モニターに遠距離武器の表示が出たので、私はそれを使用する。


 菜月のレールガンと私のオーラソードをドッキングさせた。


『オーラバスタアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』


 逃げるハーピィー達を一気に殲滅する。


『はぁ……はぁ……』


 私は額の汗をぬぐうと基地に戻っていく事にした。この機体はいい。すごく使いやすい。それに……みんなを守るのにふさわしい力だ。


「ただいま」


 私は自分のブレイバースーツから降りると、その機体をもう一度見る。桜色の頭部とコクピットのある胸部。そして群青色の手足と背面ユニット。異色の配色のその機体は菜月に支えられているようで、安心する。


「菜月…………いつまでも一緒だよ」


 私はその機体に手を振ると、シャワーを済ませて食事をし、就寝する。明日からは機体を使った訓練にも参加できる。あのブレイバースーツがあればハーピィー達に後れを取ることはない。


「菜月…………私…………わだじ……づよぐなっだよぉ……」


私は涙を流しながら眠りについたのだった。


 一か月後。私たちはまた戦場にいた。三期生を迎え私たちはより強くなった。


『みんな! 行くよ!』


 私の声と共に後輩たちがハーピィーに攻撃を開始する。この機体のテストは上々で、出力も安定しているし、動きもいい。そして何より……菜月のブレイバースーツがベースだからかすごく使いやすい。


『さくら先輩!』


 後輩の一人が私を呼ぶと、その方向にはハーピィーがいた。


『任せてください!』


 そう言ってハーピィを撃破していく。ずいぶん頼もしくなった。


『さくら先輩! そっちに行きました!!』


 別の後輩が叫ぶ。そちらを見るとハーピィーが数体向かってきている。私はすぐに大型レールガンを構えると、それを構えて引き金を引く。そしてそのままブースターを噴かせてオーラソードで一気に切り裂いた。


「ふぅ」


 一息つくと、他のみんなもそれぞれハーピィーを撃破していた。この調子なら……いけるかもしれない。でも……油断はしちゃいけない。


 そう思っていたところで私達の周囲は一気に暗くなる。見上げるとそこには太陽を遮る何か。


『きゃあああああああああああああああ!?』


 突然の叫び声。その黒い影から触手のような何かに貫かれる後輩のブレイバースーツ。幸い、右足を切り落とされただけで後退していってくれた。


『ナニコレ』


 目の前にいたのは、超巨大ハーピィだ。


『でかすぎんのよ!?』


 巨大な翼に、長い首と尻尾。そして蛇のような胴体。その大きさは……山のようだ。


『みんな! 散開して!』


 私はすぐに指示を出す。巨大ハーピィの触手攻撃を避けながら私たちは距離をとるが、後輩たちは逃げ遅れてしまったようだ。


『きゃああ!?』『いやぁああ!!』『たすけてぇえ!』


 そんな悲鳴が聞こえる中、巨大ハーピィの触手が私に迫る。回避してオーラソードで一刀両断。そのまま距離を取るが、他のハーピィーたちが私を取り囲もうとする。


『くっ!』


 私は触手を回避しながら、一体のハーピィに接近する。そしてオーラソードで切り裂こうとしたときだ。


『さくら先輩!!』『危ない!!』


 後輩たちの声と同時に私の目の前には別のハーピィがいて、その尻尾が私に巻き付こうとしているところだった。私はすぐにそれを回避するけど、その尻尾から溶解液を噴出して私のブレイバースーツに浴びせようとしてくる。


『対策済みよ!!』


 背面ユニットからエネルギーを展開し、簡易的なシールドを生成して溶解液を防いで尻尾を切り落とす。


「グギャアアアア!?」


 ハーピィーの悲鳴が聞こえると、私はすぐに巨大ハーピィに向かっていく。しかし、その行く手には大量のハーピィーたちだ。


『邪魔なのよ!!』


 私は大型レールガンを構えると、そのまま連射する。一体ずつ撃破していくが数が多すぎてきりがない。でも……やるしかない!


『さくら先輩!』『援護します!!』


 そんな時だ。後輩たちが私の前に出ると一斉に射撃を開始する。そして通常のハーピィたちは次々と撃墜していった。


『みんな……』


 私は彼女たちの援護を受けながら巨大ハーピィに近づく。すると今度は無数の触手が私に向かってきた。


『させません!!』


 そんなときだった。後輩たちはそれぞれの射撃兵装を連射して触手たちを撃ち落としてくれた。


『みんな! 行ってくるね』


 私はブースターを最大に噴かせて一気に接近した。そしてオーラソードを振り下ろし、真っ二つに切り裂くことに成功したのだ。


『よし! 行けるわ!!』


 私はそのまま巨大ハーピィーに接近する。しかし、その巨大な翼が私に向かって振り下ろされた。私はそれを回避したけど、今度は尻尾だ。


『きゃああ!?』


 私はそれをまともに受けてしまい、吹き飛ばされてしまう。でも……まだだ! この機体ならいける!! 菜月! 私を…………連れて行って!!!!


『みんな! 離れて!!』


 私が指示を出すと全員が距離を取る。そして私は大型レールガンを構えると、一気に発射する。それは巨大ハーピィーの胴体に命中し、巨大ハーピィーはひるんだ。


 私はその隙に巨大ハーピィーの顔面まで接近し、オーラソードを突き刺し、出力最大で放出する。


『いっけぇえええ!!』


 私の叫び声と共に、巨大ハーピィーの顔面が爆発する。そしてそのままゆっくりと落下していった。


 が、空はまだ暗い。私が見上げると、そこには二体の巨大ハーピィーがいたのだ。


『な……二体もいるなんて!?』


 私は驚きながらもすぐに攻撃態勢をとる。でも、その時だ。左右から触手が襲ってきたのだ。


『しまっ!?』


 気づいた時にはもう遅く、触手に巻き付かれてしまった。そしてそのまま締め付けられる。


『さくら先輩!』


 後輩たちが助けに入ろうとするけど、他のハーピィーたちに妨害される。


『くっ! 放せええ!!』


 私がもがく中、巨大ハーピィたちは私のブレイバースーツに溶解液を噴射してきた。


 まずいと思い、私はオーラソードを振り払い溶解液を蒸発させつつ触手を切り裂いて脱出した。


 巨大ハーピィー二体同時撃墜。さすがに無理かな。私はそんなことを考えながらも、巨大ハーピィーを見据える。


 どうする!? こんな時私なら…………いや、菜月ならどうする!?


 菜月のオーバーヒート事件により、私たちのブレイバースーツにはリミッターが設けられている。よって菜月同様に出力最大状態で活動することは出来ない。


 本来ならの話だ。無理やりオーバーヒートさせる方法ならある。


『各員に告ぐ。私、天羽あまはさくらはこれよりリミッター解除を行いますまた超広範囲攻撃兵器の使用を行う為、ブレイバースーツパイロットの皆さんは直ちに戦線を離脱してください』

『何言ってるのですか先輩!? そんなのダメよ!』


 私の無線に後輩が反応する。


『私はもう仲間を失いたくない……だから!!』


 私はブースターを最大出力で吹かし、一気に巨大ハーピィーとの距離を詰める。そしてそのままオーラソードを振り下ろす。しかしそれは尻尾により弾かれてしまう。


『くっ! でもまだ!!』


 私はすぐに体勢を整えてもう一度切りつけるために接近する。しかし、今度はその長い首を鞭のようにしならせて来た。


『早く退避してください! 五分後、強制的にリミッター解除を行います。できるだけ遠くに逃げてください!』


 私はそう通信で伝える。しかし後輩たちは私の言うことを聞かずにその場に残ってくれているようだ。


『みんな……お願いだから逃げて』


 私がそういうと、巨大ハーピィーの一体が触手を私に向かって伸ばしてきた。それを回避して切り裂こうとした時だ。もう一体の巨大な尻尾が私に巻き付いてきたのだ。


『さくら先輩!?』『いやぁああ!!』


 後輩たちが叫ぶ中、私はそのまま地面まで真っ逆さまに突き落とされそうになる。私はブースターを上手く使い体制を立て直す。しかし、このままではじり貧だ。


『先輩! もうやめて!!』


 後輩たちは叫びながら私を助けようとしてくれているけど、その巨大ハーピィーがそれを邪魔していた。

 私はブレイバースーツのエネルギー残量を確認する。まだいける!!


『みんな…………私は死なない。生き残るために使うの。どうか…………理解してください』


 私はそういうと、巨大ハーピィーに向かって突撃する。触手を回避して切りつけるがやはり硬い。


『でも……負けない!!』


 私はオーラソードを最大出力にして突き刺す。するとその装甲にひびが入るがすぐに修復されてしまう。


「そんな!?」


 私は驚きながらももう一度攻撃を試みる。今度はブースターを使い加速し、そのまま体当たりをする。しかしそれも効果はなく、逆に弾き飛ばされてしまった。


「きゃああ!!」


 吹き飛ばされている最中の私に更に巨大ハーピィーが追撃を仕掛けてくる。私はすかさずオーラソードと大型レールガンをドッキングオーラバスターを完成させると、それを放ち、一体の巨大ハーピィーを蒸発させた。


「はぁ……はぁ……」


 私は息を整えながらも、次の行動に移る。ブースターを最大出力で吹かし、巨大ハーピィーに接近する。しかし、その途中で別の個体の触手が私に巻き付いた。


「うっ!」


 そのまま空中に浮かぶと、私のブレイバースーツは粒子を放出し始めた。どうやらオーバーヒートしてしまったようだ。もう時間がない!!


『みんな! もう終わりよ!! 早く逃げてぇえ!!』


 私がそう叫ぶと同時に巨大ハーピーたちは私を持ち上げたまま飛び立つ。そしてそのまま宇宙に向かって飛び立とうとしていた。


『逃げるなぁあああああああああああああ!!』


 私がそう叫ぶと、私のブレイバースーツは残りのエネルギーを放出しながら高速移動をする。コクピット内部は想像を超える熱さだ。汗がべとつく。髪が気持ち悪い。服を脱ぎたい。口の中が気持ち悪い。目が乾く。


 でも…………思ったより頭は冴えている。


『先輩…………総員、戦線離脱完了しました』

『…………ありがとね』


 私は通信を切る。


「さぁて…………この状態キッツいな…………菜月…………力を貸してくれるよね?」


 私と菜月の武器を合体させたオ-ラバスターを変形させて、オーラブレードモードに切り替えた。


「私の仲間は…………私の国は…………私の星は…………私が護る!!! オーーーーーーーーーーーーーーーーーラブレエエエエエエエエエエエエエドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 オーラブレードの刃部分から大出力のエネルギーが照射され、そのままブレードを横一文字に動かし、巨大ハーピィーを一刀両断して見せた。


 暴力的なエネルギー消費にオーバーヒートの代償。私は頭が沸騰している気分だ。このまま…………楽になれたら…………私は菜月ともう一度…………私は…………私は……


 ドボン!!!!


 私の機体は急激に冷やされた。ここは…………海だ。そして海水の浸水が始まる。

 私の死因、熱中症じゃなくて溺死かな。私は薄れゆく意識の中でそんなことを思っていた。でも、最後に……みんなは無事だろうか?


『先輩!!』


 後輩たちの声が聞こえる。良かった。無事だったんだ……


「さくら!!」


 あぁ……この声……菜月だ。


「菜月!! なんで!? どうして!?」

「違いますよ。私たちは…………」


 目の前にいたのは後輩たち。菜月の声は聞こえない。そうか…………私、生き延びたんだ。どうやら基地の病室に運び込まれていたらしい。


 まだしばらく起き上がれそうにない。ひどい消耗だ。でも…………生き延びた。きっと最後に私を呼び起こしてくれたのは菜月なのかもしれない。


 菜月…………私、貴女が護ろうとしたこの星を護るよ…………だから…………一緒に戦おう。

短編なのでここで物語は終わりになります。

一応もっと色々考えていますので、いつか連載版を上げたいとおもってます。

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