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第6話 sideクリスティアンの回想①

 伝書蝶が飛んできたのは、その日の昼過ぎだった。


 【今日、妹のオーレリアが8歳の誕生日だ。急で悪いが、夜7時に屋敷に来てほしい。 キース】

 短く用件だけが書かれた伝書蝶に、何故か嫌な予感がした。律儀なキースが急に、こんな手紙を送るなんて、何かあったのかもしれない。

 

 彼とは同じ魔法学園で知り合い、いろいろあって親友になった。キース・アドキンズ侯爵令息。珍しい闇属性を持った彼は、現在王宮で近衛騎士団第5部隊に所属している。

「オーレリアも8歳か。早いな」

 キースの屋敷に遊びに行く度に、可愛いリアは僕を歓迎してくれた。ピンクブロンドの髪に、ペリドットの瞳の笑顔が愛らしい少女だ。彼女に何を贈ったら喜んでもらえるか、流石に今日は用意するのは無理だから、後日希望を聞いて買い求めるのもいいだろう。喜ぶ彼女を想像して、無意識に頬が緩む。


 指定された時刻より、少し早めに着くように向かったアドキンズ侯爵邸は、僕が到着した時には既に激しく燃えていた。

「何があったんだ。キース…リアは無事なのか…」

 燃え始めてまだ時間が経っていないのか、火事に気付いて見に来た人影はまだ少なかった。出来るだけ屋敷の近くに行って、中の様子を窺おうとした。

「……たすけて…」

 微かにリアの助けを求める声が燃え盛る屋敷から聞こえてきた。この炎の中にリアがいる⁈咄嗟に水魔法を使おうと思ったが、リアがどこにいるか分からないまま水魔法を使えば、最悪リアが巻き込まれて溺れて死んでしまう可能性もあった。

「行くしか…ないか」

 僕は自分自身に水魔法を付与して、そのまま燃える屋敷の中に駆け込んだ。

「リア、どこだ!!僕を呼ぶんだ!!」

「く、くり…クリスティアンさまぁ!!」

 リアの声がした方向を確認して、転移魔法で一気に飛んだ。床にしゃがみ込むリアは、そんなに大きな怪我や火傷は負っていないようで、ホッと息を吐いた。しかし、リアの目の前には無残な姿になったアドキンズ侯爵夫妻が見えた。何が起こったんだ?混乱する気持ちをグッと抑え込んでリアを見た。

「リア、大丈夫か?取り敢えずここから離れよう」

「で、でも…」

 リアは目の前の両親の遺体を見た。僕はリアを安心させるように微笑んだ。

「大丈夫だ。アドキンズ侯爵たちも一緒に転移する」

 転移魔法で屋敷の外に飛ぶと、安心したのか腕の中にいるリアは気を失っていた。

「キースはどこに行ったんだ…どうなっているんだ…」


 目を覚ましたリアは、心的外傷のせいなのか、顔の表情と生活魔法以外の魔法を失っていた。さらに前日からの記憶もなくしていたのだ…

「気づいたら両親が目の前にいて、殺されていました。火事になっている理由も、キースお兄様がいない理由も、覚えていません…」

 アドキンズ侯爵邸で起こったことを陛下に報告し、リアを僕の所で保護する許可も得た。キースを探すよう何名かの部下に指示を出したけれど、今のところ目撃情報すら集まらなかった。

 殺されたアドキンズ侯爵夫妻は、ひっそりと埋葬され、その日からずっとリアは塞ぎ込んでいた。メイドから食事をほとんど拒否していると聞き様子を見に行くと、リアは泣きはらした目で僕を見た。リアは生きる気力を失っているのだと思った。

「もう、このまま生きていても、何もないのです…お願いですから、死なせて…」

 リアがそう言った瞬間、僕の中で何かが壊れた。泣くリアを抱えてテラスまで連れて行き、そのままテラスの柵の外に彼女を掲げた。落とすつもりはなかった、それでもあの時の自分は冷静ではなかったと思う。

 かなり荒療治だったと思うが、それからリアは前向きになってくれた。想定外だったのは、リアがその日から泣かなくなったことと、可愛い喋り方を辞めてしまったことだ。鈴の音のような可愛い声と喋り方をするリアを、無表情になった後も愛らしいと思っていた。あまりの衝撃に、僕はその場で泣き崩れてしまった…


 キースは4年経っても、見つからなかった。念のため死亡した人物の中に、キースの特徴を持った者がいないか照会したが、今のところそれらしい情報は入っていない。出国履歴にも載っていないし、国内での死亡情報も目撃情報もないのだ。一体キースにあの日何があったのか…

 リアの記憶さえ戻ってくれたら、少しは進展すると思うのだが、残念ながらその兆しはない。リアが仕事を求めて僕の弟子になって、さらに2年が過ぎた。リアも14歳になった。あと二年経てば16歳、成人となりデビュタントで社交界に入る。可愛いリアに似合う、白いドレスを仕立てるのが楽しみだ。

 無表情になったリアのことを不愛想だ、不気味だという奴がいるがそんなことはない。僕にはリアが何を考えているか分かる。表情を無くす前のリアは天使のように愛らしかったが、今のリアだって十分可愛いのだ。


 国内の魔物被害を聞きつけ、王宮に向かった。どうやら辺境の森に中型の魔物が入り込んでいたらしい。まさか国内に魔物が現れると思っていなかった領民が、数名襲われて怪我を負ったらしい。その後、魔物は倒されたと報告がきていた。

「クリスティアン様、陛下がお呼びです」

 天界樹の様子を確認していると、近衛騎士団の第5部隊長のクリフォード卿がやって来た。天界樹に近づけるのは限られた人間だけだ。隊長クラス以上なら可能だ。

「わかりました、このまま向かいます。クリフォード卿も呼ばれているのですか」

「ええ、一緒にお話をした方がいいと、陛下が判断されました」


 陛下の執務室には、陛下と王弟殿下が待っていた。僕とクリフォード卿、4人で話すこと?

「ああ、急にすまないな。今日こそは言わねばならんと、覚悟をして呼んだのだ。クリスに怒られそうで、ズルズルと伝える機会が遅くなった…」

 僕に怒られる?気まずそうにしている陛下を視線で促す。

「う、う、ん。あのだな、実はキースは生きている、と言ったらどうする?」

「は??どうするって、生きているのですか?」

「そうだ、実はな、キース・アドキンズは間諜として、6年間ガレア帝国に潜入していたのだ」

「はぁ?どういうことですか?あの時そんなことは一言も……」

「話すと長くなるのだが、そのようなことになったのは偶然だ。アドキンズ侯爵邸が襲われ、刺客をキースが追いかけ捕まえたが問い質す前に自害、刺客の持っていた身分証から、どうやらその刺客がガレアの手の者だと分かったらしい。その刺客が所持していた身分証を使って、キースはそのままガレア帝国に向かったそうだ」

 僕は、混乱で軽く眩暈がした。ガレア帝国にいたなんて、それも間諜だなんて、想像もしていなかった。


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