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第36話 お兄様の婚約者

 お兄様とクリスティアン様と共に、謁見のため陛下の玉座前まで進み出た。宰相様や王弟殿下、貴族議員たちが両端に整列しているため、かなり緊張する。

 陛下の前まで来ると3人揃って、挨拶のための礼を取って頭を下げた。

「面を上げよ。キース・アドキンズ侯爵、聖女オーレリア・アドキンズ、並びに白の魔法使いクリスティアン・エイベル伯爵よ。此度のこと、そなたらの活躍により、大きな混乱を招くことなく収束出来たこと、国民を代表して感謝する。褒章も授けるので受け取るように。また、前アドキンズ侯爵夫妻の件も、内容を精査して、厳粛に裁くこととする」

「陛下の寛大なご配慮、有難くお受けいたします」

 兄のキースが代表して感謝を示した。

「さて、今日正式にキース・アドキンズは侯爵位を継承した。そしてオーレリア・アドキンズ侯爵令嬢は、ここにいる白の魔法使い、クリスティアン・エイベル伯爵と婚約を結ぶことも合わせて承認しよう。この件に意義のある者は、今すぐ申し出よ」

 陛下がぐるりとざわつく参列者たちを見渡したが、誰も異を唱えることはなかった。

「オーレリア嬢、クリスティアン。婚約おめでとう」

「ありがとうございます、陛下」

 二人揃って頭を下げた。宰相様、王弟殿下が拍手をすると、周りにいた貴族議員たちも一斉に拍手をした。一部の方の顔が渋って見えたのは、もしかしたらクリスティアン様を婿にと願っていた貴族かもしれないが、ここで異議を唱える勇気はないのだろう。

「さて、ここでキース・アドキンズ侯爵に聞きたいのだが、婚約者のことは、よもや忘れてはおらぬな?」

「…婚約者、と、申しますと…?」

「そなたが長期で出張する前に、私が打診していたことだ」

 つまり8年前ということだ。流石に当時8歳の私にその情報はなかった。お兄様も何か思い出したのか、見る見るうちに顔色を無くしていった。

「我が娘、第一王女のシェリルを降嫁させると言っておいただろう」

 確か今年22歳になる王女殿下だ。第二王女のセシリア殿下は、今年の初めにハリス公爵家に降嫁したはずだ。どうして先に妹の方が降嫁したのか、王宮でも色々な憶測が囁かれていた。

「確かにそのようなお話はあったと記憶しておりますが、その時シェリル王女殿下はまだ14歳でしたし、その話が決まる前に私はガレア帝国へ行ってしまいました。まさかそのまま話が残っているとは…」

「私も、何度かシェリルを他の者へと考えたこともあったが、その度にあの子はそれを断った。自分はキースの花嫁になると決めていると、もしこのまま戻らなければ、王族が入る修道院に行くとまで言われてしまえば、私も反対することが出来なかった」

 お兄様は陛下の話を聞きながら、青くなったり赤くなったりしていたが、覚悟を決めたのか一歩前に出た。

「身に余る光栄です。シェリル王女殿下のお気持ちに報えるよう誠心誠意…」

「何が誠心誠意なの?それが待ち望んだ私への言葉なら、今まで待っていたことも無駄だったのかしら?」

 陛下の玉座横のカーテンから、美しい女性が現れた。艶やかな金色の髪にサファイヤのような瞳、陛下によく似た色を持った女性だ。

「…シェリル王女殿下?」

「まあ、顔も覚えていないの?でも14歳から22歳では、仕方ないですわね」

 悲しそうに微笑む姿も儚げで美しい。第一王女殿下はタランターレの薔薇姫と呼ばれるほどの美貌をもち、他国の王族からも婚姻の申し出があったと聞いている。

 何故その王女殿下が兄を待っていたのか、そこがとても気になった。

「申し訳ございません。以前護衛としてお仕えしていた頃とは、かなり印象が違いましたので……」

「そうかしら?」

「はい、すっかり大人の美しい女性になられて、見違えるほどです」

 お兄様の言葉に、シェリル王女殿下が頬を真っ赤に染め、もじもじとしながら俯いてしまった。護衛と兄が言ったので、接点があったようだ。

「あの頃は、まだ子供でしたし、美しくはなかったのでしょうね」

「あ、いえ、あの頃は可憐な王女殿下でした」

 周りの貴族や私たちの視線が、段々生暖かいものに変化していった。目の前でもじもじイチャイチャされては、どう反応していいか困ってしまう。

「うおっほん。そろそろ本題に入っても良いか?」

 陛下がわざとらしく咳払いをして、その場の空気を現実に引き戻した。慌てて二人は陛下の方へ向き直って頷いた。

「二人が結婚に同意するのであれば、私は反対できない。シェリル王女の降嫁を認めるつもりだ。だが、今すぐ決めるのは時期尚早だとも思う。なので、この件は二人で話し合って決める機会を設けようと思う。どうだろうか?」

「はい、ご配慮に感謝いたします」

 お兄様はそう言ったが、ここまで話が大きくなってしまえば断るという選択肢はないに等しいだろう。

 陛下は、あえてそれを見越して衆人環視の中、この話題を出したのだ。陛下も大切な娘のために、兄の逃げ道は断っておきたかったのだろう。


 5日後にお茶会の席を設けることを確認して、私たちは謁見室を後にした。


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