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第27話 sideキースの混乱

 夕方になって、僕たち外交官が働いている部署に通達がきた。

「え、これどういうことだろうか、キリアン」

 同僚に名前(偽名)を呼ばれ、通達の用紙を渡された。

「え、これは…」

 その紙には、アニタ様ウルスラ様は体調を考慮しながら帰国。カイラ様は即刻帰国という文字が書かれていた。そして、聖女リリアは引き続きガレア帝国に残り、住まいは後宮に移すと書かれていた。

「どういうことだ。急すぎるだろう…」

 心の声が漏れたが、同僚も同じように思っていたため、怪しまれることはなかった。こんなことクリスが知ったら、即刻この国を滅ぼしそうだ。

「聖女様はもう後宮に?」

「ああ、そのようだ。先ほど確認のため、宰相様が後宮の方へ走って行ったのを見た者がいた」

 あそこは神殿と違って警備が厳しく、魔法に対しての防御もしてある。今までの様にリアに会いに行くことも難しい場所だった。すぐに事情を聞きに行きたいが、少し様子を見るしかない。


 夜になって、僕の住んでいる屋敷にクリスが突撃してきた。予想はしていたが、急に転移魔法で現れないで欲しい。(自分のことは棚に上げる)

「どうしてこうなった?リアは無事なのか?」

 開口一番そう言ったが、それは僕も聞きたいところだ。

「青の魔法使いを通じて、聖女カイラから事情は聴いた」

「え、そうなのか。僕はその事情すら知らないよ」

 沈痛な面持ちでクリスが事情を話してくれた。聖女カイラは泣きすぎて、なかなか要領を得なかったそうだが、帝王に呼ばれた時に、聖女カイラが言ったことに対して、帝王がそのような提案をリアにしたそうだ。

「どうして僕のリアが、帝王の後宮にいるんだ…」

「僕のではないよ。そこ、ちょっと気になるな」

「気にするな。いずれそうなる予定だ。それで、後宮には行けるのか?」

 今すぐ強奪しそうな顔で言われても、連れて行き辛い。

「後宮は神殿と違って、魔法に対する警備が厳重なんだ。入り込むのすら厳しいね」

「くそっどうしてリアは残るなんて言ったんだ」

「まあそこは、その状況なら言うだろうね。聖女カイラは30歳、ギル殿も同じ歳なのだろう。二人が恋仲になったのなら、聖女カイラをここに残して二人を引き裂くような真似、リアがするはずがないよね」

「それならば、僕とリアだって…」

「ん?そこは何もなってないよね?」

「今からなる予定だ」

 クリスがリアを想っているのは知っているけど、兄の前で言われても反応に困る。取り敢えず、ここは止めておかないと本当に後宮に強奪に向かいそうだ。

「リアは、今のところ大丈夫だと思うよ。後宮と言っても、いるのは子供だけだし、帝王はその子供たちを育てているだけで、手を出している形跡はないからね」

「そうだとしても、リアはもうすぐ成人の16歳だ」

「ははは、それこそ無理だ。帝王は大人の女性が怖いんだよ。前王妃の歪んだ愛情が原因で、女性恐怖症なんだから」

「それは確かな情報なのか?」

「ああ、確かさ。だから克服しない限り、リアに手を出すことはないと思う、たぶん…」

 クリスは苦虫を噛み潰したような顔で唸っている。そんな顔でも美しいってホントどうなんだと思ったが、それは言わないでおく。

「兎に角、各国の聖女と元聖女が返還されるのはいい事だよ。3名の聖女が国の天界樹を正常に戻せば、魔物や瘴気は抑えられるはずだ。あとは、リアの奪還だけに集中すればいいんだ」

「ああ、絶対に奪還してやる。それで、どうしたらいいんだ。何か作戦があるんだろう?」

 いくつかの作戦が頭に浮かんだ。一番確実なのは、帝王を退位させることだ。宰相に任せて何もしない王など、必要ない。今すぐ退場してもらいたい。

「そうだね、まずはアルフ殿下が王位を継ぐ意思があるか確認する。意思があるなら、その後はクリスにも頑張ってもらいたいんだ」

 僕は秘かに思っていた計画をクリスに説明した。

「先輩がガレア帝国の血族。確かに威厳はあるよな。魔王だけど。それで、僕にアビゲイル嬢を説得して来いと言うのか」

「公爵家の姫君だ。王族に嫁ぐ家格だろ。それに赤い髪に炎の魔法、彼女なら赤の魔法使いになれるよ」

「なるほどね。帝王でなくても赤の魔法使いにはなれるな。彼女が子を産んで、その子が魔力を引き継げば、問題も解決する」

「ああ、そこはクリスの頑張り次第だね。彼女が納得しなければ、公爵も可愛い娘をガレア帝国には嫁がせないだろう。先輩もいるしね…」

 クリスが嫌そうな顔で僕を見た。

「僕の方が大変な役割じゃないか…」

「ははは、そこは愛するリアの為に頑張ってくれ。まずは僕がアルフ殿下に接触してからだけどね」

「わかった、その代わり、帰国前に一度リアと会せて欲しい。ちゃんと気持ちを伝えてから帰りたい」

 真剣な目で僕を見る親友の気持ちを考えると、それは無理だとは言えなかった。

「わかったよ。何とかしてみる」

 忍び込むのが無理なら、正式な申し込みをして聖女リリアに会わせてもらうしかない。ずっとリアに想いを告げられずにいる親友の為に、何とか頑張るしかないだろう。


 次の日に、僕は塔のある離宮に忍んで行った。前に接触した時よりも、少しだけ警備が厳重になっていたけど、それでも僕には問題なかった。

「アルフ殿下、それとウルスラ様ですね」

 離宮には、療養して帰国の準備をするウルスラ様もいた。皮肉なもので、ずっと離れ離れになっていた親子は、帰国を前に一緒に過ごすことが叶っていた。僕は今の状況を説明して、アルフ殿下の意思を確認した。ウルスラ様はその様子を黙って見ていた。

「母上、僕はこの国の王になって良いのでしょうか…」

 最後にアルフ殿下はウルスラ様の方を見て問うた。ウルスラ様は困った様に微笑んだ。

「あなたの中には、ちゃんと王族の血が流れていますよ。例え赤い髪でなくても、私はあなたのことを誇りに思っています。離れて過ごしていても、それは変わりません」

「母上、ありがとうございます。僕はこの国の王になろうと思います。僕も離れても母上のことを大切に思っています。健康でいてください。そして、僕が王になったら、戻って来てください」

「ええ、その日を楽しみにしています。立派な王になってください」

 僕はその光景を見届けてから、闇の中に消えた。


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