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第23話 白の魔法使いと聖女

「ふーん、そうか、青の魔法使いが聖女カイラの幼馴染ね。僕もまだクリスに接触できていないから、その時に聞いておくよ」

 闇を使って私の部屋へやって来た兄が、のんびりとお菓子を食べながら私を見た。

「それで、クリスとはどうだった?」

「どうとは?謁見の間で少し目が合っただけですよ。特に何もないです」

「いきなり花嫁には近づけないか。まだ歓迎の宴の最中だよね。帝王は最初の挨拶から数刻で退出したらしいし、今頃は後宮に籠っているのかな?それにしても、リアのメイクがバレたのは、拙いよね~」

「うぅ…それは、本当に迂闊だったと反省しています。まさか、神殿に帝王様が急に来るとは思っていませんでしたので…」

 帝王様は神殿にほとんど近づかない、誰もがそう認識していたのに、あれは異例だった。

「ああ、それね。多分もうすぐ分かると思うんだけど、聖女アニタが力を失ったんだよ」

「え、それは、聖女ではなくなったということですか?」

「そうだね、守護印が消えた、ということさ。今頃ゴルゴール国に新しい聖女が誕生しているはずさ。アニタ様は、聖女としては、長い方だったんだ。普通は10代で聖女になって50代前後で聖女の力は失われることが多いんだ。アニタ様は27歳の時に聖女になったから、異例の70歳まで聖女でいられたようだね」

 それはアニタ様も言っていた。自分の力が失われたら、新たな聖女が誕生して、きっとまた不幸になる人が出てしまう。だから私は出来るだけ長く聖女でいるつもりだと。

「そうですか、これでやっと家族の元へ帰れるのですね…」

「う~ん、そこはどうかな?アニタ様は帝王の母親代わりだったしね。後宮で過ごす可能性もあるよ」

「そんな…」

「明日からの話し合い次第だね。クリスたちは帝王に、天界樹の祈りの方法を変更するよう迫るだろし、今のガレア帝国では4カ国を敵に回す力はない、というか帝王があれじゃ駄目だよね」

 確かに、何もかも宰相様に任せっきりの帝王に、色を冠した魔法使いたちが負けるとは思えない。赤の魔法使いであれば、別だったのかもしれないけれど…

「クリスも今頃イライラしながら宴に出ているんだろうね。リア不足解消にはならなかったようだし」

「なんですかそれ。まあ、ほとんど護衛に阻まれて、自国の魔法使いなのに接触できませんでした。歓迎すると言っておきながら、あの態度は酷いですね」

「とりあえず僕も次の作戦を考えるよ。クリスにもそのうち接触する機会があるだろうし、もう少し辛抱して、頑張って欲しい」

 お兄様は私の頭を撫でてから、闇の中に消えていった。兄が消えた床には、追加のポーションが大量に置いてあった。

「これを飲んで頑張れと…?」


 魔法使いが訪れている間も、神殿はいつも通りの日々が続いていた。話し合いは行われているようだが、情報は一切入ってこない。ウルスラ様の回復も望めず、カイラ様と私は天界樹に祈ってはポーションを飲む、毎日それを繰り返している。

「アニタ様は後宮に移られたし、ウルスラ様とも今は会えないって言われているし。このままじゃ、本当に倒れるまで酷使されるわね…」

「そうですね、カイラ様も青の魔法使い様には会えないんですよね?」

「そうね、面会希望を伝えたけど、今は話し合いで忙しいから無理だの一点張り…それも、護衛の言うことだから、本当かどうか信じられないし」

「そうですね、もう訪問から5日経っているのに、ここはいつもと変わらないですし、私の方も面会は却下されました。きっとクリスティアン様が今頃怒っているでしょうね…」

 決して私が面会を断っているわけではない。そこは声を大にして言いたい。

 そして、それから3日後、今度はウルスラ様の聖女の守護印が消えたと知らされた。

「宰相様、それは本当ですか?ウルスラ様と会えますか?」

「それは無理です。ウルスラ様は塔のある離宮に移られましたので」

「いきなりそんな事後報告、聖女をなんだと思っているの?」

 カイラ様が宰相様に詰め寄ろうとしたが、護衛によって阻まれてしまった。何の情報も与えてもらえないまま、宰相様は去っていった。

「どうして塔のある離宮に行ったのかしら?アルフ殿下がいるから?」

「それって、一緒に幽閉されたってこと?」

「どうでしょうか、ウルスラ様が離宮に行くのを希望したのか、強制的に連れて行かれたのかは分かりません」

「聖女が急に二人もいなくなるなんて、今頃各国は新しい聖女を探しているだろうけど、この状況で帝王の花嫁として、新しい聖女を差し出すとは考えられないわね。つまり、この最悪な状況が当分続くってことかしら」

 二人で祈りを捧げるのも限界が近づいている。これでどちらかが倒れれば、一人で現状維持は難しくなることは、どちらも言わないが明白だった。

「早く話し合いが決着することを祈りましょう…」


 次の日、天界樹に祈りを捧げると、天界樹を通して新しい聖女の魔力を感じた。心なしか天界樹の輝きも増している気がする。

「ねぇ、リリア様、気づいた?」

「はい、いつもより楽に祈りが終わりましたね。おそらくゴルゴール国とエリシーノ国の天界樹に、新しく聖女となった方が祈りを捧げているのかもしれません」

「そうかもしれないわ。少し前に同じ現象があったわね。あれはリリア様が?」

「多分そうです。一度タランターレ国で真夜中に、祈りを捧げました」

「事実はわからないけど、これで魔力切れで倒れることは無くなった、と考えていいのかしら?」

「今後も祈りを続けてくれればですが、これで、各国の天界樹を通して祈ることの有効性が証明されると思います。そうすれば、聖女は国に戻すことに同意してもらえるのではないでしょうか?」

「この国が、その事実を素直に認めるか…かなり不安ね」

 

 その晩、お兄様が闇を使って部屋へ忍んできた。いつもいきなり現れるため心臓に悪い。何とかして欲しい。

「今日、天界樹に新しい聖女の方が祈りを捧げたことは、宰相様に報告しました。ですが、このまま私たちを帰すとは言いませんでしたね」

「だろうね。クリスが魔法使いの会合で、僕の仮説が正しいと周知したから、ゴルゴール国とエリシーノ国の聖女は、このまま国に留められるだろう。そこはガレア帝国も認めたそうだよ。だけど、今いる聖女及び王太子の母であるウルスラ様、そして帝王の最初の妃であり、母親代わりだったアニタ様を手放すことには難色を示している。帝王の花嫁として、リアも嫁いでいるからね。タランターレ国が所有権を主張出来ないんだよね」

「まさか、このまま一生この国にいることになるのですか?」

「はは、まさかそんな事、うちの白の魔法使いが許さないさ。もう少し待っていて、クリスにも会えるようにするからさ」

 お兄様が消えた闇を見つめながら、何故か嫌な予感がして不安になった。


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