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第16話 結婚なんてしません

 目が覚めると、ベッドの周りは沢山の花で埋もれていた。一瞬、死んでしまったのかと思った。

「リア、おはよう」

 クリスティアン様がいつもより甘い声で囁いたので、驚いて現実に引き戻された。

「あの、これはどういう状況でしょうか?もしかして、葬儀の途中で生き返ったとか?」

「…違うよ…プロポーズには、花束がいいと聞いたけど、小さな花束で僕の気持ちが伝わるとは思えなくて、ありったけの花をかき集めたら、このようなことに…」

「誰が誰にプロポーズを?」

「僕がリアにだよ」

 私はまだ夢の中にいるのだろうか?これが夢ならば、きっと私の深層心理が具現化したのだと思われる。そしてこれが現実なら…

「悪夢だわ」

「え、悪夢…??」

「だって、こんな事あり得ないですから…」

 クリスティアン様がショックを受けたような顔でこちらを見ている。どうしよう、そんな顔ですら美しいと思ってしまう私は、クリスティアン様にかなり毒されている。

「あり得なくないよ。リア、僕と結婚しよう、今すぐに!」

 クリスティアン様が私の右手を掬い上げて、そっとキスを落とした。結婚…?

「今すぐに⁈」

「それは…ちょっと事情が有って、陛下が持ってきたお見合いの延長線上にあるような、無いような…兎に角、直ぐに結婚して欲しいんだ。君を他の誰かに渡すなんて、考えられないんだ」

 何だろう、結婚して欲しいと言われたはずなのに、あまりにも唐突過ぎて、まったく現実味がない。感動もないし、どちらかと言えば困惑だ。全く心が震えない。

「お断りします」

「リア、でも、このままでは君は帝国に行って、帝王の花嫁にさせられるんだ。それでいいの?」

「そういう理由で…?そんなこと…でしたら、私は帝王の花嫁になってやります!ええ、喜んで行きます」

 今、私がどんな顔をしているか想像がつかないが、無表情ではないのだろう。封印前の私は、感情豊かな部類の人間だったはずだ。

 クリスティアン様の顔が涙で歪んで見えないし、きっと酷い顔で泣いているはずだ。

「リア、待って。ちゃんと話を聞いて。大事な話なんだ」

「嫌です。クリスティアン様の顔なんか見たくないです。大嫌いっ出ていって!」

 私は枕を掴むと、思いっきりクリスティアン様の顔に投げつけた。周りにあった花も一緒に掴んで投げたため、花びらがひらひらと舞い散った。

 そうだ、王弟殿下の申し出を受けよう。これで二度と、クリスティアン様の顔なんて見ないで済む。そうしたら、このままならない感情ともさようならだ。

「リア…わかった。今は出ていく、けど、ちゃんと話を聞いて欲しいから、もう一度、話をする機会が欲しい」

「……」

「いきなりで、ごめん。ゆっくり休んで…」

 パタンと扉が閉まって、部屋の中が静かになった。グスグスと鼻をすする音だけが、室内に響いていた。

「あちゃー、断ってしまったか。リアはクリスが好きではなかったの?」

 突然お兄様の声が室内から聞こえた。

「お兄様、いくら兄妹でも、いきなり女子の部屋に闇を使って現れるのは、マナー違反です」

「ごめんよ。気になってたから、来ちゃった。それで、どうして断ったの?」

「クリスティアン様が言った言葉。結婚したいとは言いましたが、それは帝国に行かせたくないから、無理をして結婚するなんて、お互いの気持ちがない結婚なんて不幸になるだけです。それならば、私は国のために、帝国に行く方がいいです。聖女としての使命を果たします」

「リア、それは誤解だよ。クリスの気持ちは言えないけど、リアが思っている様な、無理やり結婚するのとは、違う…と思う」

 お兄様はそう言ったけど、だってクリスティアン様は言っていないのだ。私のことをどう思っているのか、愛しているも、好きもない。そんなの義務ではないか。きっと恋人だった人たちには……

「いいです。決めました。私は帝王の花嫁になる運命なのです。一生、平和を祈って過ごします。ですから、お兄様ももう、出ていってください!」

 お兄様はシュンとしたまま、闇の中に消えていった。



 そして2か月が経ち、お兄様が使節団の外交官として、ガレア帝国に帰る日がやって来た。

「聖女様、転移門まで少しかかりますので、馬車で移動いたします。ゆったりとお過ごしください」

 外交官メルス・マクロス様が、ほくほく顔でそう言った。タランターレ国にやって来て、運よく聖女を偶然発見したのだ(偶然ではない)。聖女を連れて帰れば出世は確実、帝王にもお褒めの言葉を賜るのだろう。

 聖女風の花嫁衣裳を着た私は、黙って馬車に乗り込んだ。豪華な馬車の中が、まるで牢獄のように感じる。

「はあ、本当に嫁ぐことになるなんて…」

「まあまあ、そう言わないで、聖女様。君がクリスをことごとく振ったから、時間切れでこうなったんだから」

 向かいの席に座ったキースお兄様改め外交官補佐キリアン・タランが、ニコニコと笑っている。

「振っていません。クリスティアン様が、無理をして私と結婚するのが嫌だっただけで…」

「まあ、プラン1は却下されたんだから、プラン2で行くしかないよ。どの道ガレア帝国に行って、他の聖女様と会わないといけなかったんだから、リアがいてくれた方が接触しやすいよ。帝王様も52歳、15歳のリアを本当の意味で花嫁にはしない、はずだ…」

「そこは、断言してください!不安になります…」

「だってさ、僕の妹は可愛いからね。帝王だって惚れてしまうかもしれないよ」

「だから、このメイクなんでしょう?」

「そうそう、念には念をだよ。偶然孤児院で聖女を発見したんだ。お世辞にも美しいとは言えない娘、リリアちゃんをさ。凄いよね、メイクって。綺麗にも不細工にもなれるんだから」

「不細工って、失礼な…」

 日焼けした肌に、そばかすとシミを足し、目は伏せ目で無表情を心がけ、髪はわざとボサボサだ。人に触られるのが嫌いだという設定で、身の回りのことは一人でする。平民で孤児院出身のリリア。偶然孤児院の前を使節団と我が国の騎士団が通りかかり、たまたま孤児院を訪問したら、孤児の少女の手に聖女の守護印を見つけた…帰国まで残り3日という時期だった。(って胡散臭いでしょ、疑おうよ…)

「マクロス殿は、素直なのがいいところなんだよね」(騙しやすくって)

「今頃、クリスも頑張っているから、僕たちは僕たちで頑張ろうね」

 クリスティアン様は今、4カ国で開催される色を冠した魔法使いたちの会合に出ている。定期的に行われる会合は、今回タランターレ国で行われている。いつもより開催時期が少し早いが、まあ誤差だと誤魔化せる範囲だろう。

「クリスが魔法使いたちを説得してくれれば、あとは僕たち次第だからね」


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