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第14話 あの時の記憶

「リア、リア……」

 クリスティアン様の声を聞きながら、私は意識を手放した。

 魔力を使いすぎて倒れるなんて、初めて魔法が使えた子供がはしゃぎすぎてすることだ。体が熱い…


「お母様、熱いよ、苦しいよ…」

「リア、大丈夫よ。お父様がすぐにあなたのことを助けてくれるから。マーカス、急ぎましょう、もう限界よ」

「父さん、僕は王宮に向かいます。魔力回復のポーションを手に入れてきます」

「キース、よろしく頼む。この術式は、俺とミリアの魔力でギリギリだろう」

 お兄様が部屋の外に出ていく音がした。

「お兄…様…?」

 お母様が安心させるように私の手を握った。右手に突然現れた痣が、私の魔力を暴走させているとお父様が言っていた。息をするのも辛いほど、押し潰されそうな強い力が体の中に渦巻いて、今にも私の体を突き破って出てきそうだ。

「リア、大丈夫だ。すぐに良くなるから、もう少し耐えておくれ」

 お父様の大きくて温かい手が、私の頭を優しく撫でた。私は薄っすらと目を開け、お父様を見て頷いた。大好きなお父様の顔が焦っているのが分かった。私は死ぬの?


「さあ、リア、これで大丈夫だ」

 お父様の声で目を覚ますと、安心したような両親の顔が見えた。先ほどまで、体が熱くて呼吸が苦しかったのに、今は体の中で暴れていた魔力を全く感じられない…?

「お父様?お母様、リアの体、変です…」

「これでいいのよ、リア。過ぎた魔力は、あなたの体には毒にしかならない。成長するまで、これでいいの…でも、表情が無くなってしまったのは、残念ね…」

「リアは、無表情になっても愛らしいさ。副作用みたいなものだから、成長して封印を解除したら戻るさ」

 疲れ切った両親の顔を見ながら、私はホッとして目をつむった。


 次に目が覚めたのは、部屋の中がやけに騒がしかったからだ。誰かが争う声に混じって、お母様の悲鳴のような声が耳に響いた。

「え?お母様、どうしたの?」

 私は寝ていたベッドから起き上がって、声のする方へ歩いていった。そこには黒い服を着て口元を覆った男が立っていて、足元にはぐったりとしたお父様が倒れていた。

「お父様?」

「リア…来ては駄目!逃げて!うっ…」

 私の方へ来ようとしたお母様の胸が、真っ赤に染まっていくのが見えた。

「きゃああ、お母様!お母様!」

 泣き叫ぶ私に、男が近づいてきた。恐怖で固まった私の口に、男が何かを押しつけようとしたので、思いっきり暴れて抵抗した。

「いやっお父様っお母様っ離してっいやっ」

「リア?どうしたんだ!」

 お兄様の声がした。私を抱えるように持っていた男は、私の右手の甲を見て落胆したように呟いた。

「やはり聖女ではないのか…嘘の情報なんか信じるんじゃなかった…」

 そして私をお兄様に向けて、思いっきり投げつけた。強い衝撃を感じたが、お兄様が受け止めてくれたため痛みはなかった。

「リア、その場を離れては駄目だよ」

 茫然とする私を置いて、お兄様は何処かに行ってしまった。

「ここに、いる…?」

 目の前には両親が横たわっていた。あたり一面が真っ赤に染まっていて、むせ返るような匂いに吐き気が込み上げてくる。悪夢の中にいるようだった。

「おい、お前。聖女なのか?」

 ぼんやり座り込んでいると、突然知らない男の声がしてびくりと肩が跳ねた。ゆっくりと振り返ると、頬に傷がある男が私を見下ろしていた。私は怖くなって首を横に振った。男は乱暴に私の右手を掴むと、手の甲を確認して舌打ちをした。

「聖女じゃないのかよ。ジェイの奴、あれほど殺すなと言っておいたのに、やっぱり頭のネジが足りないんだな…殺害現場を発見されたら、ややこしくなるだろうが、めんどくせぇ。仕方ねえなぁ、燃やすか…」

 男はチラリと私を一瞥した。そして魔法で炎を出すと、壁に向けて放った。

「悪いがそこの親と一緒に焼け死んでくれ。子供を直接殺すのは趣味じゃないからな、じゃあな」

 男はそのまま姿を消した。壁に当たった炎は壁を伝って天井に燃え広がっていく。目の前が赤く染まっていく。頭が割れるように痛んで、私は気を失った。


 次に目が覚めると、辺り一面が炎に囲まれていた。どうしてここが燃えているのか、思い出そうとしても思い出せない。お父様とお母様が、どうして目の前で倒れているの?


 ああ、そうか、これはあの時の記憶だ。

 幼い私は心を守るために、この記憶を忘れたんだ。屋敷が燃えていたのは、屋敷に忍び込んだ男が2人いて、あとから来た男が魔法で屋敷に火をつけて逃げたからだ…

 クリスティアン様が来てくれなかったら、私は犯人の思惑通り焼け死んでいたのだろう。あの時右手の甲を確認していた犯人は、今も聖女を探しているのだろうか。


「リア、リア」

 体が重く熱い。あの時のような感覚だ。でも、体を満たす魔力は私に馴染んでいるのか、暴れ回るような感覚はない。

「目が覚めたかい?今は、魔力酔いのような状態だよ。熱が高いけど、命に別状ないからね。辛かったら、薬草を処方するから言ってね」

 私は、心配そうに覗き込むクリスティアン様を見た。部屋にはキースお兄様もいた。

「お兄様、思い出しました…」

「何を?まさか、あの時の記憶かい?」

 私は頷いて、あの時の出来事をゆっくりと話した。熱が高く体が燃えるようだ。あの時と記憶が重なる。

「犯人は2人いたの…お兄様が刺客を追って行ってしまった後、もう一人が私の手の甲を確認した後、火を放って逃げました。私と両親の遺体を燃やして証拠隠滅を…頬に、大きな傷がある男、でした…」

「そうか、リアに怖い思いをさせてしまったな、すまない」

「いいえ…あの時は、仕方なかった…から…」

「リア、もう喋らなくていい。今はゆっくり休んで。2日間眠ったままで心配した…目覚めて良かった」


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