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第13話 封印を解きましょう

「おかえり、リア。王弟殿下の用件って何だったの?」

 執務室に帰ってくると、書類に目を通しながらクリスティアン様が心配そうに聞いてきた。流石に帝王へ嫁げと言われたとは言えず、困った末に咄嗟に口をついて出たのは…

「お見合い話を少々?」

「は?お見合い??」

「…お見合いみたいな、そんな感じのお話です」

「それで、何と答えたの、まさか…」

「考えさせてほしいと…」

 その部分は、嘘は言っていない。帝王に嫁ぐか嫁がないかの返事は、お兄様の仮説を確認した後だ。仮説では、聖女は帝国に嫁ぐ必要はなく、祈りはこの地で可能になるはずだ。

「考える…何を考えるんだ?お見合いする可能性もあると?」

「それは、ありますよ。お断りできる可能性は低いと思いますし…」

 クリスティアン様は、愕然とした顔で椅子から立ち上がり、私の目の前に立ち塞がった。

「僕はそんな許可を出していない!今すぐお断りしてきなさい!」

「え?あの…そんなお父様のようなセリフを…」

「お父様…せめて、兄と言って欲しい。兎に角、お見合いだなんて、許可出来ないからね」

 私のお見合いの話に、クリスティアン様の許可が必要なのだろうか?確かに8歳から私の保護をしていたクリスティアン様には、育ててもらった恩はあるし、感謝はしているのだが、そうだとしても…クリスティアン様だって、夜会で女性とダンスを踊ったり、話したりしている。今はいなくても、恋人がいた時期だってあったかもしれない。どうして私にだけ許可がいるの?

「それは横暴です。クリスティアン様にそんな権利はありません。私が決めます」

「リア、反抗期なのか⁈」

「……」

「ああっもう、二人とも子供の喧嘩ですか。今は忙しいのですから、冷静になってください。オーレリア嬢も、そろそろ馬車が迎えに来る時刻です。帰宅の準備をして下さい」

 エルマー様が険悪なムードに割って入った。私は無言で帰宅の支度をしてそのまま執務室を出た。何か言いたそうなクリスティアン様の顔が見えたが、完全に無視だ。


 エイベル伯爵邸に帰って来てからも、ずっとモヤモヤとしていて食欲がわかなかったため、夕食も断ってしまった。クリスティアン様は、真夜中まで執務室で仕事の予定だ。顔を合わせずに済んでホッとした。

「今、顔を合わせたら、何を言ってしまうか分からないもの…これも反抗期?」

 キースお兄様が恋人だと聞いた時は、こんなにモヤモヤしなかったのに、クリスティアン様に恋人がいたかもしれないと考えると、胸の奥がモヤモヤした。


 あれから5日経ったが、クリスティアン様と仕事以外の会話はしていない。珍しく意地になっていた。

「リア、明日封印を解くよ」

 二人きりの執務室で、クリスティアン様が突然そう言った。どうやら封印解除の術式が出来たようだ。明日、その結果次第で私は帝王の花嫁になるつもりだ。お見合いなら断れるが、こればっかりは断れない。

「はい、よろしくお願いします」

「リア、僕に何か隠し事をしてないか?」

「していませんよ。私はこの書類を届けますから、仕事をしてください」

 クリスティアン様は、私が無表情でも感情を読み取ってしまう。私は慌てて執務室から出た。

 王弟殿下に花嫁の打診を受けてから、ずっと心の中にある感情。帝王の花嫁になんてなりたくない、ガレア帝国になんか行きたくないという気持ちは、絶対に悟られたくなかった。貴族なら政略結婚も義務だ。ガレア帝国に嫁ぐのも、きっと貴族令嬢なら受けるべきなのだ。

「私の我儘で戦争は起こせない…」


 次の日の深夜、私たちは魔法研究所に集まった。クリスティアン様は夕方から術式の最終確認を行い、問題はないと判断した。すぐにキースお兄様に連絡をとって、今夜封印を解くことになったのだ。

「リア、準備は出来た?もし途中で体調が悪くなったら、すぐに教えてね。いつでも中止するから」

 クリスティアン様が心配そうに言ったので、私は黙って頷いた。8歳の時に聖女の魔力が大きすぎて死にかけた為、光魔法を封印したと聞いた。15歳の私なら、理論的には魔力に耐えられるはずだ。キースお兄様も不安そうな表情で私を見ている。

 魔法陣の中心に立って、クリスティアン様を見た。

「絶対に無理はしないで。では、封印の術式を解除する」

 クリスティアン様が、呪文を詠唱する。魔法陣が白い光を帯びて輝いた。眩しくなった私は目を閉じた。体の中に魔力が巡るような不思議な感覚がした。暫くして私を呼ぶ声で目を開けた。

「リア、大丈夫か、リア」

「は、い。多分大丈夫です」

「術の解除は成功した。ほら、見てごらん」

 渡された手鏡をのぞくと、キョトンとした私の顔が見えた。長年無表情だった弊害なのか、少し引きつったような表情だが、封印を解いたお陰で、表情も戻ってきたようだ。

「気分はどうだい?」

「今のところ、大丈夫です。本当に光魔法が使えるのでしょうか?」

「右手を見て。聖女の守護印だ」

 右手の甲には、白い印があった。天界樹の葉が絡み合ったような複雑な模様だ。

「リア、体調に変化がないなら、すぐに仮説の証明がしたい。このまま天界樹まで行けるかい?」

「はい、お兄様。大丈夫です、行きましょう」

 お兄様の仮説が正しければ、帝王の花嫁にならなくてもいいはずだ。結果を知ることは少し怖かった。もし失敗なら、私の選択肢は無くなってしまう。

 

 暗い空を照らすように、天に向かって巨大な天界樹が淡く発光している。この光が魔物を寄せ付けず、瘴気を祓っていると言われている。昔に比べて光が弱まっているのが原因で、魔物や瘴気が発生しているというのが、魔法研究所の見解だった。

「リア、ゆっくりでいいから、天界樹に触れて癒しの光を注いでくれないか?昔やっていただろ、怪我を癒す方法と一緒だよ」

 私は天界樹に触れて、そっと目を閉じた。手の平に魔力を集め注いでいく。そして天界樹が元気になりますようにと祈りを捧げた。手の平に温かい魔力が集まる、懐かしい感覚だった。私は嬉しくなって、夢中で魔力を注いだ。今まで何かに阻まれて、上手く出来なかった光魔法が使えたことで、気分が高揚していたのか、魔力量のことなどすっかり失念していた。

「リア、待って、やり過ぎだ。魔力切れを起こす、止めるんだ!」

 クリスティアン様の焦った声が聞こえた時には、目がかすんで意識が遠くなっていた。


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