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第9話 生きていてよかったです

 自室で侍女のメリにドレスを脱がせてもらって、ワンピースドレスに着替えると、私は急いでクリスティアン様の部屋に向かった。


「オーレリアです。入ってもいいですか?」

 軽くノックをして、クリスティアン様の部屋に入ると、クリスティアン様はまだ礼服姿だった。焦り過ぎて思いのほか早く着いてしまったようだ。

「すみません。まだお着替えが済んでいませんね…お手伝いしましょうか?」

「ええっ⁈着替えの手伝い…いや、それはいいよ…」

 コートに手を掛けようとしたら、クリスティアン様が慌てて私を止めた。別にコートを脱いで、ドレスシャツを脱がすくらい、私でも出来ると思うのだが?

「そうですか。脱いだ方が楽だと思いますが…」

「いいよ、別にこのままでも問題ない。リアに今話せることも、実は少ないんだ」

「少ない?」

「ああ、キースの事情をまだ把握できていない。あいつに会って直接話をするのは、明日以降になる予定なんだ。だから、今、僕が分かっている範囲で説明するよ」

 クリスティアン様が説明してくれたのは、キースお兄様から伝書蝶が飛んできてあの日屋敷に向かったこと。そして、キースお兄様が両親を殺した刺客を追って、自害した刺客の身分証を使って間諜としてガレア帝国に潜入していたというものだった。

「お兄様が、間諜?あの、どちらかというとぼんやりした兄が…?」

「リアは、キースの兄としての部分しか知らないからね。あいつは学園でもかなり優秀で、闇属性の魔法に長けていた。見た目に騙されて、学園の連中も痛い目に…っと、これは言わなくていい情報だった」

 どうやらお兄様は、妹にやんちゃな部分を見せていなかったようだ。温和で優しいお兄様のイメージは修正した方がいいようだ。

「兎に角、それで7年もの間、音信不通になっていたようだ。僕がその事を聞いたのも最近なんだよ。半信半疑だったから、謁見の間にリアを連れて行くのも迷ったんだけど、もし本当なら早く会わせたくて、事情を説明せずに連れて行ったんだ。もし情報が間違っていたら、リアががっかりすると思って、キースがいることは伏せていたんだ、ごめんね」

「いえ、顔が見られて嬉しかったです。もう兄はこの世にいないと思って、諦めていましたから…生きていて、よかった…」

 クリスティアン様が何も言わずに優しく抱きしめてくれた。久しぶりに頬を伝う涙の感触に、ぎゅっと目を閉じた。

「ああ、よかった…よかったな、リア」

 そう言ったクリスティアン様の声も少し震えていた。きっと女性が見たら卒倒しそうなほど、綺麗な泣き顔がそこにあるのだろう。残念ながら抱きしめられている私には見る術がないけれど。

 詳しい話は明日以降、秘密裏にキースお兄様と接触を取るそうで、今後の方針が決まり次第、私とお兄様の対面も叶えてくれると約束してくれた。

「今は慎重に行動しないと、キースの身に危険が迫ることになる。もう少しだけ我慢できるかい?」

「はい、7年待ったのです。あと少しくらい待てます」

 クリスティアン様がホッとしたように微笑んだ。いつも見慣れた顔なのに、私は内心焦っていた。胸が苦しいほどドキドキしているのだ。無表情でなければ、今頃リンゴの様に頬を真っ赤に染めていただろう。

「では、あの、これで、今日はもう部屋に帰って、…寝ます!!」

「え、あ、そう。ではおやすみ、リア」

 聞きなれたはずの声が、耳の奥をくすぐる…

「あ、はい、お、おやすみなさい」

 そう言って、そのまま俯いたまま自室まで早歩きで帰ってきた。部屋に入ると、ベッドに突っ伏して悶えた。

「なに、なんで、おかしい…心臓の病か何か…??」

 もしかして恋心?いや、それは絶対にない。だって、クリスティアン様は私にとって家族同然の存在だった。特に両親を亡くしてからは、兄であり父親であり、上司でもあったのだ。それ以外の感情は持っていない。いや、持っては駄目だ。だって、私は……私はなに?

 私は無意識に心に芽生えようとした感情を無理やり封じた。


 それから5日後の真夜中、魔法研究所の執務室で私は7年ぶりにキースお兄様との再会を果たした。

「お兄様、キースお兄様…」

「オーレリア、なんだね。髪の色も瞳の色も変わらないね。でもやっぱり、無表情のままになってしまったんだ」

 やっぱり無表情?お兄様は痛ましそうに私の顔を見た。

「キース、僕とリアにも、分かるように説明をして欲しい」

 昨日、秘密裏に陛下や王弟殿下、そして直属の隊長には説明をしているそうだ。そして今日、何とか使節団の目を盗んで、こうして再会を果たすことが出来たのだ。

「勿論だよ、クリス。今までリアを保護してくれて、本当にありがとう。ずっと気になっていた、でも、どうしてもやり遂げないといけなかったんだ。伝書蝶で君を屋敷に呼んでいたから、リアを保護してくれたんだろ?まさか僕が刺客を追った後に屋敷が燃えていたなんて知らなかった。昨日隊長から聞いて驚いた。リアを助けてくれて感謝する」

 キースお兄様が、クリスティアン様に深々と頭を下げた。

「キース、君が無事で良かったよ。それは本心だ。でも、こんなに長く音信不通とか、リアがどれほど心配して心を痛めたか、一回殴っていいか?」

 ギョッとした顔で、キースお兄様がクリスティアン様を見た。

「殴られる覚悟は出来ているが、今はやめてくれ。明日も外交官として活動しないと駄目なんだよ。顔が腫れていたら困る…」

「じゃあ、この件が片付いたら、覚悟しておけよ」

「ああ、覚悟しとく……」

「じゃあ、説明を聞こうじゃないか」


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