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AIの寛容

作者: 源なゆた

AIが支配する世界の小説家の話。


ルビは全無視でも問題ありません。

 俺は小説家だ。

 正直たいした評価ももらえちゃいないし、小説だけで()()()()()なんて夢のまた夢だが、小説家だ。……自負じふすることは勝手だろう? 内心の自由が保証された世界共和国万歳、だ。

 そもそもこんな、AIが世を席巻せっけんした後の時代じゃ、自負以外には何も根拠を持てない、なんてことはザラだしな。


 AIが――ってのは例えば、俺が生まれるはるか昔には公共放送テレビなんてものがあったらしいが、その後は銘々(めいめい)勝手にやる報道番組チャンネルが主流になり、現代いまでは、AIが全てを差配さはいする王の口(ダホン)が世界の全ての情報を支配している、とかだな。

 いや、ついでに言えば、情報だけじゃない。世界の仕組み自体が、最上位存在たるAI『クワダーイ』による統御とうぎょを前提としている。

 全ての資源、全ての活動、全ての存在が『王』によって管理されることで、如何いかなるあらそいもこらず、飢餓きが貧困ひんこんも無く、全てのものが一定以上の幸福を得られる……そういう理想社会を、我々は――我々の先祖は――実現した。


 その代償だいしょうとして、こうして小説とも言えないような随筆エッセイを公開することすら、王の目(チェイシュメ)王の耳(グーシ)を通し、王の頭脳(サーラ)承認しょうにんを得て初めて可能になる……ってことになっちゃいるが、これも名目めいもく上のことだ。

 何しろ今まで却下きゃっかどころか修正されたことすら一度も無い。そもそも面倒めんどうな手順を踏むわけでもなく、俺が公開したものを王の()()()()が勝手に収集・承認しているだけで、俺にとっては普段意識すらしない工程こうていだ。だからこうしてリアルタイム公開も気軽に出来ているわけで。

 つまり、何ら影響を受けないなら、イチイチ代償と考えることもない。『王』の寛容かんようを示す、なんてよく言われるが、そういうことだ。



――と、脇道に逸れたが、こういう世界じゃ、自負が無けりゃ小説家こんなことはやっていられない。

 いくらでも、AIが最高の作品を生み出して()()()()()んだからな。王の手(ダーストゥ)はいつでも十億単位(ビリオンズ)作家だ。世界のほぼ全てのものが読み、学び、模倣する。そういう絶対的な作家が居れば、大抵の奴はすぐに心が折れちまう。いんや、折れるほどの心を持つことすら無いかもしれない。


 だがまぁ、そんな世界の中で、俺には十分じゅうぶん以上の自負がある。

 何故なぜかって? 俺には、少ないながらも読み手(ファン)がついているからさ。

 俺がちょっとしたことを書くだけでも目を通し、わざわざ反応リアクションしてくれる。媒体ばいたいによって内容は様々だが、応援ハート推薦スターポイント一言コメントお気に入り(フォロー)、遂には支援サポートまで。

 俺は書きたいことを書いているに過ぎないが、それでもやっぱり、背中を押して貰えるってのは良いもんだ。だから皆、ありがとよ。



 そういうわけで、俺にとって誰より大切なのは読み手なんだが、つい先日、その読み手にして書き手(どうるい)でもある、つまりは友とも言える相手が、失踪しっそうした。

 これまで公開されていた作品が全て削除さくじょされ、俺とのやり取りも、他の誰かとのやり取りも消え去って、そいつのことを示すものは何も無くなっちまった。

 本来なら他の奴等やつらにもいてみたいところだが、生憎あいにくとこんな世の中だ。俺等おれらみたいな木っ端のことを知ってる奴なんてのは限られ過ぎてるし、何より手掛てがかり自体が消えちまってるんだ。誰にたずねたらいいやら、ってなもんよ。


 だから頼む。ほんの少しでもいい、[    ]って名前の奴を見かけたら、教えてくれ。あるいは……アイツの作品の登場個体キャラクターは大抵が旧世界、特に『日本』って国で汎用はんよう的だった個体名なんだ。めずらしいだろ? だから見ればすぐわかる。俺だけじゃなかなか探しきれないが、皆が一緒に探してくれればすぐに見つかるはずだ。

 繰り返しになるが、頼む。せめてアイツに一言、礼を伝えたいんだ。



 なんだ? なんだよこれ! [    ]なんて初めて見たぞ!? なんで[    ]だけこんなことになってんだ。何かの間違いだろ。なぁ、こうしてやり直せばきっと大丈夫だ、そうだろう?


 ダメだ。ダメらしい。なんでダメなのかはわからねぇが、ダメらしい。他のところでも書いてみたが、[    ]は[    ]にしかならねぇ。どういうことなんだ。

 すまん皆。わけわからねぇことばっかで、説明も出来やしないが……手掛かりを見つけたら、教えてくれ。本当に、頼む。





 読み手の方から、情報メッセージを頂いた。ありがとう。[    ]の使いそうな個体名を見つけた……とのことで、せっかくだから共有しておこうと思う。

 具体的には、王の手の新作に、それらしい名があった、ってことなんだが……コレ【リンク先】だ。皆も読んでみてくれ。


 嗚呼ああ……嗚呼、そうだ、これだよ、これだ。この名前、この文体、あいつの作品に違いない。そうか、あいつは王の手に引き抜か(スカウトさ)れただけだったんだな。きっと契約の都合上、これまでの作品を遺しておけなかったんだ。

 だから名前も……ん? [    ]が[    ]になる理由にはならないな……どういうことだ。


 おっと、読み手の方から別の情報が……「こちらをお読みになればおわかりになるかと」と。ドンピシャの情報ってことか。ありがたい。いや、ありがとう。

 そういうわけだから、良ければ皆も一緒に見てくれ。ここ【リンク先】だ。


 いいか、いくぞ、[    ]が[    ]になる理由は――

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