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とられられ  作者: つくつ
2/3

始まりの日!

2

 ……僕の姿が変わってから早くも3日が経過していた。

 ふて寝を繰り返し、少し気持ちに整理がついたのが4日目の今日である。

 女の子になった直後は気にする余裕がなかったが、慣れ親しんだ自分の体からこうもかけ離れてしまうと、流石にさみしいものもある。


 1〜3日目を簡単に振り返ると……。

 

 1日目。喪失感(主に下腹部)に苛まれ寝込む。

 2日目。現実に向き合おうと、自分の体を観察しようとする。が、妙な罪悪感に襲われ断念。寝込む。

 3日目。風呂に入ろうとするも以下略。


 不思議なことに飲食をしていないにも関わらず、空腹感はさほど感じない。

 不思議なことといえば、神様は神社で喋ったっきりで、話しかけてくる様子はない。


 今日までは大半の時間を廃人同様寝たきりの生活を送ってきた。

 学校は無断欠席。両親は仕事で家にいない。タイミングの良い事に家に1人だけ。


「貴様は死にたいのか? このままだと我が力をなくして消滅してしまう」

 ベッドの上で目が覚めた後も、横向きになったまま寝ていると神様に話しかけられた。

 神様が消滅したところで自分に影響なければどうでもいいかな……。


「我が消滅すると貴様はもとに戻れないどころか……一緒に……消え……」

 後半を小声で話すものだからあまり聞き取れなかった。聞こえなかったけど僕も巻き添えみたいなこと言ってないか?

「さっさと信仰を集めろ! 知名度的なものでも良いぞ!」

 と、神様は自分の言ったことをかき消す様に捲し立ててくる。


 信仰。神様は前にも言っていた覚えがある。それを集めると力が使える様になるのだろうか?


「いやでもどうやって?」

「カーッ! これだから現代っ子は!!」

 ただの一般学生にそんなこと言ったって、できるわけがない。

 神様の姿は見えないが、きっと額に片手を当て、上半身を後ろにのけ反らせ「あちゃー」と言ってそうな気がした。


「信仰ってあの廃神社で集めるってこと?」

「腐ってないわ!! 我の家ぞ!! ……まぁ実際あの場所限定で活動しても限界はあるだろうて。今じゃ人が寄り付かんからの」

「お供え物とかお賽銭とか目に見える形の物が貰えるといいの?」

「我のリアクションをスルーするとは……貴様慣れてきたな」

 なんだか会話のテンションが高く感じる。全部に反応すると疲れそうなので、気になっている事を聞いていく。


「物として貰う事に意味もある。1番は存在を知ってもらうこと、忘れられないこと。その先に貢物がある感じじゃ」

「それじゃあ神様の名前を言いふらせばよくない?」

 駅前でビラとか配ったり、選挙活動よろしく名前を言い回ればある程度は良さそうだが……。

「我の名を出せずとも、貴様が名を挙げれば良い。そうすれば自動的に我の元に力が集まる」

 てことは神様は何もしないの? 消滅がどうとか言っておいて協力する気なし? だから神社が腐るんだ。

「貴様の体に細工するのに残り少ない力を使いすぎたのだ。こうして話すだけでも使うのだ。我はしばらく休む」

 会話は終了した。それからは話しかけられる事はなかった。


―――

 自分の生死が関わっていると分かった以上、こうしてベッドで腐っているわけには行かない。現実と向き合えなければならない時が来た!!

 自分を奮い立たせ、ベッドから降りる。

 まずは着っぱなしのYシャツから部屋着に着替えよう。

 着替えといっても身長がかなり縮んでいる為、ほとんどの服がぶかぶかになっている。

 ズボンにしては、サイズが合っていたとしても尻尾が邪魔で履けない。

 だから今はTシャツだけ上に着ることにした。

 ……いつか下着も履くことになるのか。


 Yシャツを脱ぎかけたところで手が止まる。胸を見てしまった。大きくなさそうだが、それでも異性の体だ。

 思いきってYシャツを脱ぎ捨てTシャツをかぶる。

 尻尾をTシャツの中にしまうと収まりが悪いため、尻尾を摘んで引っ張り出す。尻尾に服が乗っかって多少捲れてしまうが、こっちの方が楽かな。


 Yシャツだけも中々ヤバい格好だったと思うが、Tシャツだけもあまり変わらないな……。

 いつかはこの体でも着れる服を探さないとなぁ……。


 名を売る方法を検索しようと、スマホを4日ぶりに触る。

 スマホの連絡アプリには欠席を心配するメッセージが溜まっていた。

 ひとつひとつ返事を打ち込み返していく。その途中で数少ない友人から新規メッセージが届いた。


『お前神社に行ってから何かあっただろ?』

 学校だけの付き合いの人間は何人か居るが、こいつは違う。頻繁に遊んだりずっと一緒にいるわけでもないが、細々とした付き合いが中学から続いている。


『そうだよ。だからしばらく学校には行けないかな』

『やっぱりな。何があったのか?』


 彼はTさん。周りからは寺生まれのTさんと呼ばれている。名前は智弘だったか智昭だったかいまいち覚えていない。

 Tさんは別に寺生まれでもない。ただオカルトが人より好きなだけで、イニシャルがTだからそう呼ばれている。

 僕達は彼が得た情報に対し、嘘か本当か話し合う事が多かった。

 彼としては、まともに話し合ってくれるのが僕ぐらいで、話していると楽しいと言われた事がある。

 僕も都市伝説や怪談が彼ほどではないが、好きな部類である為に彼との会話は楽しいと感じていた。


『――とこんな感じで』

 神様に姿を変えられた事。有名にならなければ死ぬかもしれない事を伝えた。

 信じてもらう為に自撮りの写真も添付する。

 今まで自撮りとは無縁だったが故に、全身を写す事が難しい。

 なんとか撮った写真を送ると『他の奴には送るなよ』と怒られた。


『部屋から出ずに有名か……。配信とかか?』

『配信ってやったことないぞ!』

『お前かわいいから大丈夫だろ。服とか機材とかないものあれば持ってくぞ。服はネットで買うから安心しろ、金は落ち着いたら返してくれ』

 急にかわいいと言われびっくりしたが、やけに段取りがいいな。なんだか乗り気になってないか?

『わかったあり』


 返事を打ち込む途中で意識が遠のく感覚に襲われた。

 文章の途中だがメッセージを送信しベッドに倒れ込む……。


 目を覚ました時にはすっかり朝になっていた。

 飲食をしなくとも支障が出てないあたり、そこに神様の力を使ってそうな気がする。

 起き上がってスマホを確認する。Tさんからは荷物が届き次第家に行くとメッセージが――。


 インターホンが鳴った。基本的に家には誰か来ることはない。メッセージを見た瞬間に鳴ったから、誰か来るなーって心構えをする時間もなかった。

 びっくりしてベッドから転げ落ちてしまった。急いで立ち上がり玄関に急ぐ。


「なんだもう来たのか!」

 玄関のドアを開ける。やはりTさんが来ていた。両手に大きめの紙袋を持っているのを見るあたり、服とか持ってきてくれたのかな?

「お前……。いいから戻れ」

 呆れるように吐き捨て、半ば強引に家の中に自分を押し込む形で入った。

 ドアをTさんがしめたところで「防犯意識をもて。そんな格好で出てくるな」と怒られた。


「でも、服とか丁度いいサイズないし……」

「除き穴から確認するとか、チェーンかけてからドア開けたりしなさい」

 小さい子に言い聞かせる様な物言いに少しイラッとしたが、言っている事は正しいし、自分の身を案じての事だろう。素直に受け取ろう。


「いやぁ、本当に画像と同じだな」

 自分の部屋に移動したTさんと僕。Tさんはベッドに腰掛け、僕は机の前の椅子に座る。

「こんな姿でも僕を僕だと信じてくれるのか?」

 Tさんは顎に手を当て考える仕草をし、少し間をおいてから話し始めた。

「お前が本人か別人にしろ、面白そうだし気にはしない。かな。当面は判断つくまでは本物として扱うよ」

「おぉ、ありがとう。相談しようにもする相手がいなくて困ってたんだ」

「よせよせ、こっちも確かめたい事もあるし気にすんな」

 少し照れた様子のTさん。

 確かめたい事ってなんだろうか? まさか僕の体!?


「邪推してるとこ悪いがほれ、着替えを持ってきた。着替えてこい」

 と紙袋を1つ渡された。中を覗くと衣類がそのまま雑多に入っていた。

 上から取り出してみる。赤色のズボンの様なものに白い着物の様な服。これはコスプレ用の巫女服か……。


「おいおい、変な目で見るなよ。協力してやるからにはこっちにも見返りがあってもいいんじゃないか? それに似合うと思うぞ。その耳に尻尾だ、かわいいぞ!」

 目を細め哀れみの視線を向けたが、勢いに負け同意してしまった。

「ま、まぁこの体もコスプレみたいなもんだもんね! せっかくだし着てみようかな!?」

 若干おかしなテンションになりつつある。気を紛らわす為に、再度紙袋を漁っていく。

 今度は水色でセーラー服に似たデザインのワンピースが出てきた。後はキャミソールと女児用のもこもこしてそうなパンツ……。


「言いたい事はわかる。だが安心してくれ、妹のお古だ!!」

 さっきよりも冷たい視線を送れたと思う……。

 コイツ、妹のものだとしてもやってることやばくないか?

「せっかくだし着れるか試してみるよ」

 椅子から降りて部屋から出ていこうとする。が、腕を捕まれ邪魔された。


「ここで着替えてく――」

 奴が言い終える前に、服を持ったままの手で奴の顔面に拳を打ち込む。そこまで強くは殴ってないが、奴は掴んだ手を離してくれた。

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