プロローグ
プロローグは雑に世界観を紹介しただけです。本編は第一話からどうぞ!
山田夕夏が目を覚ますとそこはやけに青く暗い大理石の上だった。
「あれ、俺はどうしてこんなとこに?」
「その質問にはわしが答えよう。」
「どぅわぁ!びっくりしたぁ。」
頭上から声がして見上げると、闇の向こうに巨人のような者が重く腰据えていた。目が慣れてくるとどうやら、ここは大きな城の玉座の間らしく、荘厳な装飾に夕夏は見覚えがあった。
「ここ、俺が昔やってたゲームの魔王城みたいだ。」
「ホッホッホッ。さすがは【強靭な魂】の持ち主じゃ。鋭い勘を持っておる。」
「てことは、貴方は魔王、様ということですか?」
「いかにも。」
夕夏はボーッとする頭を何度か軽く叩きながら、夢でないことは確認した。そして急速に身に迫る危険が無いことも確認できた。然し、今まで居た現実とあまりにもかけ離れたこの空間に、朧気な恐怖を抱いた。
「それで、先程の質問についてなのですが。」
「ああ。そうじゃったな。良いか!おぬしはたった今からこの魔王ドランゼルギアの九つ目の、心臓じゃ!」
「は?し、心臓!?」
「うむ。」
何がなにやらわからない。言葉は聞こえているけれど夕夏の頭にはまったく届いてこなかった。それよりも何故言葉が違和感なく通じるのか、疑問だった。
「無理も無いわい。まあ、まずはこの世の成り立ちから順を追って話すとしよう。」
「は、はあ。」
「その呆けた面ではまともに聞ける話も無いじゃろうて。目が覚める美味な茶でも用意してやるかの。」
そうして魔王が指を鳴らすと、夕夏の前に椅子と卓、ティーセットが瞬時に現れた。
「ありがとうございます。いただきます。」
「ホッホッ。遠慮するな。」
『ゴホンッ。ええ、わしもこの世に生まれてまだ三千年と百数十年しか経っておらんから、それより以前のことは詳しく知らないのじゃ。そこらへんは勘弁しとくれよ。
初め、すべては無じゃった。無は、完全でもある。そこに穴が出来た。それがすべての始まりじゃ。穴を通ることで時間が生まれ、変化という概念が生まれたそうな。あやふやじゃろ?わしも良くわからんでの。
そして永い時が経ち、大きな池のような物が広がった。それが海じゃな。その後、池に石が降り注ぎ、大陸となった。この時にも穴が生まれた。そこに広がったのが魔境じゃ。』
随分ざっくりした話だな、と夕夏は思ったがお茶とともに飲み下した。鼻から抜ける気品高い素晴らしい香りが、魔王の言った通り、夕夏の頭は冴え渡らせた。
(今魔王が話してるのは神話みたいな物か。聞くべきはもっと後の出来事だな。それにしてもこのお茶美味しい。)
『と、言うわけでわしら魔族は獣より強い肉体、樹木より永い命、人間より賢い知性を獲得するに至ったわけじゃ。
そこで、ずっと魔境の淵に追いやられていた我ら魔族は人間を自然界へ追い返し、逆に自然界を支配してやろうと立ち上がったのじゃ。その筆頭として先陣切っていたわしも気付けば魔王と呼ばれるようになり、今や多くの同胞たちがわしを崇拝しておる。』
(お、ここからはちゃんと聞いた方が良さそうだ。)
『それが今から千年前の事じゃ。魔王軍として連帯感を強めた魔族は自然界を半分まで制圧し、魔王と人間たちとの戦いは熾烈を極める最終局面を迎えることとなった。
じゃが、まあ結果から言うと引き分けじゃな。人間は質も量も敵わない圧倒的な魔王軍を、魔境に送り返し封印する事で自然界の平穏をギリギリ何とか死守することに成功したのじゃ。』
「それは、どうやって?」
「ん?ああ、おぬしちゃんと聞いておったのか。真面目に聞いてくれてないなぁと思っとったわ。」
(途中まで聞き流してたのバレてたのか。)
『ホッホッホッ。じゃが、言い質問をしたのう。奴ら人間は魔境門を無理やり作り出し、そこにわしらを追い詰めて魔境に送り返したのじゃ。
今まで奴らは元々この世界にあった魔境門に魔王軍を追い詰める算段じゃったのを、もう一個別の近い場所に作り、そこに詰め込んで封じたのじゃな。
つまり、今この世界には、魔境と自然界を繋ぐ門が二つ存在することになる。これは奴らにとっては非常に厄介な問題じゃろうな。』
(人間たちは自分で、封じなければならない場所を増やしてしまったということか。本当に苦肉の策だったのだろう。)
『そして千年後の現在、人間は永い時を経て力を取り戻し、厄災の元凶である魔族を根絶やしにせんと魔境に乗り込む気らしいのじゃ。
二つの魔境門が再び開かれれば、また大いなる戦争が始まってしまう。』
「然しのう。」
魔王は何やら悩んでいるようだった。
「然し、実のところわしはこのままが一番良い状態じゃと思っておるんじゃ。そもそもわしが人間と争っていたのは、この魔境と同胞を守るためで、自然界侵略も勢いとノリじゃったし。戦争は終結し、平穏な魔境を取り戻した今の同胞たちが幸せに暮らせているのなら、わざわざ自然界を支配する理由も必要も今のところ無いんじゃよ~。」
魔王は案外、穏やかな心の持ち主だった。
「それに人間ら、わしを倒せば何とかなると思っておるらしいじゃない。わしはただ形を取っただけの王で、そんなわし一つの首でどうこうなる魔族じゃないっつーの。そりゃあ今でもわしが魔族の首領じゃし、最強の魔族なのは自負しとるがのう。まあこの自信は歴戦を生き抜いた賜物じゃな。」
「なるほど。魔王様は人間と戦いたくはないと。」
「そうじゃな。できれば仲良く手と手を取り合いたい所じゃ。」
「俺に何かできないでしょうか。」
夕夏は魔王の話を聞き、何とか自分が人間と魔族の架け橋に成れないかと甘い幻想を抱いていた。だが、現実はまったく違っていた。
「おお!わしに協力してくれるのか。でもおぬし元人間じゃろ?それでも良いのかの?」
「はい!当然です!魔王様の理念に感銘を受けました。」
夕夏は魔王の“元”という部分をすっかり聞き逃していた。
「なんと!ホッホッホッ。初めは心配しとったんじゃが、話せばわかり合えるものじゃのう!」
「人間と魔族も、きっとわかり合える日が来ますとも。」
「え?そりゃあ夢見過ぎじゃよ。」
「へ?」
そして夕夏は魔王ドランゼルギアに最初の命令を与えられる。
「魔王第九心臓よ!おぬしにはこれから自然界に行き、勇者とか言う者を倒して来て貰おうかのう。何でも魔王討伐の筆頭らしい。そいつを潰せば向こう十年平穏は保たれるじゃろうて。」
「いや、あの。」
「ほんじゃま、よろしく~!」
「ええええええええええええ!!!???」
こうして夕夏の第二の人生?は幕を開けた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。