首斬り門左衛門 その1
どうも、しばらくお待たせしてしまいました。
取り敢えず、序章をどうぞ。
それは、街灯だけが外を照らしている真っ暗な夜に起こった出来事だった。
遅くまで酒を飲み続けた一人の中年が、家族や近所への迷惑も考えずに家路を歩いていた。
すると、中年の後ろから自分以外の足音が聞こえてきた。
それも、ただの足音では無く、ガチャガチャと金属同士がぶつかって出せるような重々しい音を立てながらだった。
中年はそれを不思議に思い、半分だけ酔いから醒めた様子で後ろを振り返った。
振り返った中年から少し離れた場所に、それはいた。
僅かな明かりによって、何とか全体を視認する事が出来るその姿。
血と泥で汚れた鎧を着こんだ武者の化け物だった。
何故、中年がそれを化け物だと思ったのかは当然の事だった。
中年は汚れている鎧の姿よりも、右手に掴んでいる刀よりも更に非現実な証拠を見たからだ。
その武者に、頭が存在しなかったからだ。
首から上が全く存在しないのに、武者は動いていた。
武者の化け物、暗い空間。
言葉だけではありきたり過ぎて、大した恐怖を抱かせられないが、中年は現実に訪れたその事態に心から恐怖した。
酔いが醒め、鳥肌が一斉に立ち、心臓への苦しさと嘔吐感に似た恐怖感が中年の身体を大きく震わせた。
中年のその後は、あっけなく終わった。
その場から逃げだすよりも、何か声を出すよりも、化け物の存在を現実だと認めるよりも、恐ろしさで締まる肺に空気を送るよりも先に、終わってしまっていた。
中年の身体はそれすらも分からないまま、離れてしまった自分の頭部の方へと無情に倒れた。
頭の無くなった首から、大量の血が次々と流れていく。
武者の化け物は、頭と共に存在しないはずの目でそれを確かめると、血の付いた刀を振り回しながらその場を去って行った。
まるで出来の悪い恐怖映画のようなこの怪事を目撃したのは、塀の上からずっと動かないでいた黒猫一匹だけだった。
次回を楽しみにして戴けたら幸いです。