悪魔ベルフェゴール その5
また長くお待たせしてしまいました。
更新が本当に遅い作品ですが、楽しんで読んで戴ければ幸いです。
『我が主から許可を戴いておりますので、私に答えられる問いであれば何なりとお答え致しますので、遠慮せずにお尋ね下さい』
「え~と……」
うん、確かに俺は質問したい事で頭の中がいっぱいだった。
でも、そうやって改まって言われると、言葉というやつは中々出て来ないのだ。
しかも、相手が自分の意思を持ってスラスラと言葉を喋る、摩訶不思議なコートなら尚更だ。
「……そもそも……この指輪は、何?」
取り敢えず俺は、悪魔と称している謎の男(女かも?)を出したり、吸収したり出来る――そもそもの事の発端とも言える白銀の指輪の事を尋ねてみた。
『その指輪の事……ですか……』
コートは少し言い難そうに言葉を詰まらせた。
「……あ、あの……分からないのなら、別に無理しなくても……」
『……我が主、よろしいでしょうか?』
コートがベル―に話し掛ける。
当のベルーは完全に眠りに耽っており、返答どころか何の反応も無い。
『……左様ですか……それでは、お話致しましょう』
え? 尋ねた意味は?
『……その指輪の名称や詳しい来歴はまだ分かりません、その指輪はフランスのある魔術師が私と共に我が主を封印し、思うが儘に操る為に作られた物なのです』
俺が頭の中で色々突っ込みを入れている間に、コートはしっかりと俺の質問に答えていた。
「ベルーを思うが儘に操る為の指輪?」
『左様でございます。悪魔との契約は非常に難しく、契約をする者は悪魔と渡り合えるだけの秘められた力を持っていなければならず、更に魔術にも精通していなければ悪魔と契約を結ぶ段階にすらいけないのです。それに、契約をするにしても頭の回転が早く、弁も立たなければ契約を結べずに命だけを落とす事にもなります』
今まで漫画やラノベとかの世界の話しだと思っていた魔術の謎を、コートは淡々と語っていく。
俺はすっかりと聴き入っていた。
『故に儀式を過って命を落とす人間や、契約に失敗して早々に最期を迎えた人間が多くいました。そこで、魔術に精通した人間達は悪魔を一方的に支配する方法を探し始めたのです。そして、生み出されたのが……』
「この指輪だったのか……」
俺は自分の指に嵌まっている指輪を見詰めた。
確かに美術とかの知識が無い俺でも、一目見て凄いと分かるような素晴らしい指輪だが、そんな不思議な力を持っているようには見えない。
『言う事を聞かなければ封印する……そう脅すだけで我が主ほどの大悪魔を使役する事が出来るのです』
「それにしても……よく教えてくれたね、そんな大事な事」
頼んだ俺が言う事でも無いのだが、つい口から出てしまった。
『今の所有者である貴方には偽りなく言っても良い、それが我が主の考えでございますから』
「コートが判断したんじゃないの?」
自分で勝手に決めていた様に見えたんだけどな?
『言葉を使う必要はありません。我が主の魔力で動いている私は、我が主の魔力を通してその思考を読み取らせて戴いておりますから、こうして身体に触れている間は我が主の考えは手に取る様に分かるのです』
俺の考えを読んだかの様な答えが返ってきた。
「つまり、以心伝心ってやつ?」
『その通りでございます』
コートはベルーと違って、面倒くさがらないでしっかりと答えてくれるから助かる。
とゆーか、コートが教えてくれた事を総合的に考えると……。
「……ベルーって、悪魔って何でも出来るの?」
『我が主は、神ではなく悪魔でありますから全知全能ではありません。しかし、悪魔の持つ力、即ち魔力は使いようによっては人間の大抵の望みを叶える事が出来ます』
「……だよね。そうじゃなかったら、そんな命懸けの契約をしたがる人はいないだろうし……」
つまり、この指輪は……アラジンの魔法のランプの様な物って事か。
出て来たのは魔神じゃなくて悪魔だけど。
『特に我が主の魔力は数多くいる悪魔の中でもトップクラスですから、他の悪魔に出来ない事すらも出来るでしょう』
「え? ベルーってそんなに凄いの?」
この面倒くさがりな悪魔が?
『当然です! 貴方は我が主がどれ程の大悪魔なのかご存知ないのですか?』
そりゃあ、悪魔の会ったのは今回が初めてだし、そもそもオカルト的なものには余り興味が無かった。
『我が主、ベルフェゴール様は悪魔の中でも“七つの大罪”と呼ばれる原罪を司る悪魔の一つに数えられる実力者で、あの魔王サタン様や冥王ルシフェル様とも肩を並べる程の大悪魔なのです! かつてはフランス中の悪魔を統一するフランス大使を務め、人間の恋愛、結婚の真実を見極めた事や私の様な優れた発明を生み出した事から、悪魔一の賢者、魔界一の発明家とも呼ばれていたのです』
「魔王? 悪魔一?」
それってやばい位に凄過ぎるんじゃないか?
マジで俺は、魔法のランプを手に入れたのかも?
『質問は以上でございますか?』
呆然としていると、コートが俺に尋ねてきた。
「え? あ、その……そうだ! さっきのドロドロした奴って何なの? ベルーは妖怪って言ってたけど?」
慌ててもう一つの疑問を俺は口にした。
『先程、我が主が地獄に落としたものの事でしたら、あれは間違いなく悪魔ではなく妖怪です』
「ベルーにも聞いたんだけど、悪魔と妖怪って違うの?」
そういう事に関する知識が皆無な俺には、その二つの違いが全く分からない。
どっちも怪物だという認識だけだ。
『そうですね……妖怪という言葉は人外、人に非ざるモノの事でもあり、また人知の及ばないモノの事でもありますから、人間の貴方にとっては悪魔も妖怪も広い意味では同じモノという事になるでしょう。しかし、我が主を含める悪魔と先程の現れた類の妖怪は、そもそもルーツがまるで違うモノなのです』
「ルーツ?」
思っていたよりも、難しい説明になるそうだなぁ。
『先ず、悪魔はキリスト教における唯一絶対の神、ヤハウェの敵対者として地獄より生まれ出た種族ですが、妖怪はキリスト教とは一切関係の無く、人間界から自然に生まれてきた種族です』
「えーと……つまり、悪魔はキリスト教と関係あるけど、妖怪は関係無いって事?」
一応、確認してみた。
『一番分かりやすい違いはそうであります』
どうやら合っていたようだ。
そして、すぐに俺は次の質問を口にした。
「それで、あの妖怪がいきなり出て来たのはどうして? ベルーが出て来た事と関係あるの?」
『あの妖怪が此処に姿を現したのは、我が主の強大な魔力を感じ取って、それに惹き付けられたからでしょう』
「惹き付けられた? ベルーの魔力って奴に興味を持って、わざわざ此処までやって来たって事?」
完全に漫画の理論だな、と俺は改めて思った。
フィクションの世界の理論が、まさか現実でも通用する事だったなんて思うと、軽い頭痛すら覚えそうだ。
『自分に永い間掛かっていた封印を一瞬で解く程の力だったのです。妖怪が我が主の居る此処へやって来るのは当然かと』
「封印?」
何か聞いちゃいけない事を聞いたような胸騒ぎが微かにした。
「封印って、どういう事?」
そんな胸中の報せを無視して、俺はコートの言った事の意味を詳しく聞く事にした。
これが、俺とベルーの物語が本格的に始まる事となるきっかけになるとも知らずに。
ここまで読んで下さって、本当にありがとうございます。
取り敢えず、最初の章はこれで完結ですので、次話からは妖怪との戦いの話になる予定です。