街へ
『街』へ行く事は禁止されていた。
差別により罵声を浴びせられる位ならまだいいが、暴力が日常化している『街』に行く事は命の危険があった。
半スラに住む者はその風体は誤魔化せず、貧富の差は差別を生み、東洋人の私ではそれを隠す事も出来なかった。
況してや子供一人でなど以ての外。危険であった。
何故危険を冒してでも『街』へ向かうのか。
私一人で――。
それは私がそうしたいと懇願し、姉さんを祝う『ケーキ』が『街』にしか売っていなかったからだ。
彼女を祝う事に私はそれ位しか出来ず、何より半スラの人達は『ケーキ』を諦めており、それが納得できずにいた。
それに彼らには無くて、私にだけはあるもの。最悪それに頼れば自分の身は守る事は出来るだろうと考えた。
私には『魔法』があった――。
それでも半スラの人達からは心配され止められたが、『魔法』の事をうまく隠し、どうにか私は彼らを説得し、何とか許可を得た。
持ち得る服の中から一番上等なものを着、頭巾で顔を隠す事を条件に。
半スラから街の中心地までは5キロ以上あり、更にケーキが買える洋菓子店はその先であった。
道のりは解りやすく、殆ど街へ行った事の無い私でも地図を頼りにどうにか行ける具合で、街の中心には『国会』が在り、とりあえず先ずはそこを目指した。
明日に控えた『グレイ姉ちゃん』の祝賀パーティーの為に。
――ボストン川に架かるタワー橋を渡り、ヤンキー通りまで来ると『街』へ着き、国会前広場までもう少しだった。
しかし、私の足ではここまで来るのに2時間かかっており、流石に疲れていた。
『街』には多くの人間が居た。建物も高く立派で、都会そのものだった。
すれ違う人々は横目に私を見ている事を感じたが、その視線は冷たく感情など感じなかった。
唯見られている。しかし私にはそれだけでも恐怖に感じ、そこに私の居場所は無い事を感じた。
恐怖を堪え進み続けると、国会前広場へ近付くにつれ異様な空気が漂っていた。
大勢の人々が自分と同じ方向へ進み、その先には国会があり、同じ目的地へ向かっているのを感じた。
国会前広場へ向かうであろう大勢の人々は、その殆どが女性で、私はその意味をその時は理解出来ずにいた。