グレイ・カシス
『グレイ・カシス』――。私の家の近所に住む19歳の女性。
人当たりが良く、端整な顔立ちの彼女は、近所(半スラム)でも有名で皆から好かれていた。
しかし彼女も女性という事に加え、肌の色が黒いという事で差別を受けていた。
『街』へ行こうものなら蔑まれ、疎まれ、買い物はおろか、図書館にさえ入る事が出来なかった。
彼女の場合、女性という事よりも、肌の色が違うという事で差別され、時には警官から目を付けられ、いわれのない罪で逮捕される事もあった。
それでも彼女は明るく振る舞い、彼女からはそういった事を感じさせなかった。
彼女程ではないが、東洋人の私と境遇も似ており、良く面倒を見てもらっていた私は、彼女を実の姉の様に慕っていた。
そして驚く事に彼女は学校へ通っていた。
この半スラ(半スラム)では学校へ通う者は殆どいなかった。
貧困や差別、学校へ通いたくとも通えない。
しかし彼女は進学まで果たし、高校へ通っていた。
普通半スラの住人は学校へは通えず、故に進学などありえない。
そんな中彼女は、学校へ通い、高校へまで進学していた。
望んでも出来る事ではない。
彼女の家も貧しく半スラ育ち。しかも肌の色が違う事、女性である事は少なからず彼女を苦しめ、学校を、進学を遠ざけた。
唯彼女は優秀だった。彼女は学業で貧困や差別を乗り越え、高校まで進学したのだ。
勿論そこへの障害は多々あっただろうが、彼女の努力はそれらをものともせず、周りからの支援もあり高校へ通う事が出来た。
そして更にすごい事に、彼女は大学への進学も決めたのだ。
今の時代、女性が学業に専念する事は珍しく、難しかった。
大学進学など以ての外。
しかし学業優秀な彼女は大学への進学が決まったのだ。
特待生での進学に授業料免除。彼女がいかに優秀であるか窺えた。
貧困に差別、肌の色や性別、それらを乗り越え努力を続けた彼女は、貧しくても、蔑まれようとも努力を続ければ報われることを証明した。
彼女は半スラの希望であり、私の憧れでもあった。
「何時か私も『お姉ちゃん』の様に――」
そんな彼女の大学進学を祝う為、私は『街』へ買い物に向かった――。