第壱話 『《ワルキューレ》』
『《ヴァルキュリア部隊》に出撃命令。関東第3区に〈壱型〉が出現。直ちに向かって下さい』
ここ最近、《自立戦闘汎用人工知能》の出現率が高くなっている。
零斗は《機械装着戦闘服》を装着し、応答する。
「了解。こちら、〈ブリュンヒルデ〉。《機械装着戦闘服》装着完了、出撃準備完了」
《機械装着戦闘服》。日本が科学を駆使し、《自立戦闘汎用人工知能を破壊する為に作られた戦闘服(服といっても機械だが)。《ヴァルキュリア部隊》では主にこの機体を使い、敵機を破壊している。
『了解。出撃してください』
関東第3区、元々栃木県と呼ばれていた辺りか。
日本本部のあるここ東京からは、戦乙女では大分かかる。
「最大展開」
零斗がそう言うと、《機械装着戦闘服》が一瞬赤く発光し、全身の装甲が変形する。
機動力が3倍にも増す最大展開。しかし、一度使うと装甲が損壊してしまうため通常使われる事は無い。
しばらくすると、零斗は目的地の関東第3区に到着した。
「支援か?助か....」
緑色の装甲に青く発光している大剣を持った、《ユグドラシル部隊》の隊員がこちらを見てくる。
「チッ」
ユグドラシルの隊員は零斗を見た途端、舌打ちをした。
「銀色の装甲に、その「戦乙女」の文字。おまえ、《ヴァルキュリア部隊》か?それに、その機体は最大展開すっとぶっ壊れるんだろ?その状態で....」
零斗の瞳が、一機の〈壱型〉を捉える。鉄に肌色を塗ったような頭、赤い光学センサに黒いコートを羽織り、刀のような武器をもった機体。《自立戦闘汎用人工知能》初の人型機である。
零斗は展開され、刀の柄の様になっている雷式ブレードを握る。
零斗が〈壱型〉に向かって走っていると、〈壱型〉も零斗を仕留めようと走ってくる。
「おいっ、戦乙女!」
零斗が仕留められたかのように見えたユグドラシルの隊員が言う。
突如、〈壱型〉が爆発した。
「殲滅完了」
零斗が言う。
雷式ブレードの展開。ブレード類は〈ワルキューレ〉が最大展開した時にのみ、展開する。その刀身は、使用者の思うままに変形することができ、今回の技もそれを使い刀身を長くすることで、破壊したのだ。
「応援にき....」
銀色....と言うには少し黒い装甲に、胸部に書かれた「戦乙女」の文字。
《ヴァルキュリア部隊》の隊員だろう。
「お前....最大展開を使っているのか?」
最大展開、〈ワルキューレ〉に搭載されたギミック。装甲部が変形し、普段とは全く違う容姿になり、機動力が3倍になる等の能力がある。ただし、最大展開するのに40秒かかってしまう他、使ってしまうと損壊率が上がってしまったり、使用可能時間が最大90秒と短いため、通常使われる事はない。
しかし、零斗は使用時間を過ぎても最大展開された〈ワルキューレ〉を身につけていた。これは本来、大変危険な行為である。
「ええ」
「見ない機体だな」
《ヴァルキュリア部隊》の隊員が言う。
「本日、入隊しました。機体名〈閃光戦〉搭乗員、天野原零斗です」
ーーーーー思い返せば、あの日「天野原零斗」が彼らの前に現れた時から、運命の歯車は動き始めたのかも知れない。獲物を狙う捕食者の如く駆られる機体が、人々の不安をも消し去っていった。(渡航者の追憶より)ーーーーー