表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

絶対に手放しませんから

作者: 叶奏
掲載日:2021/09/16



 ――見てしまいました。

 はっきりしっかりくっきりと、見てしまいました。


「あ、ああ」


 叫び狂う心中を必死で吐き出さないようにして、ワタクシは王宮内にあてがわれた自室に戻ってきました。

 どうしましょう、どうしましょう!


 侍女を下がらせ、部屋に一人であることを確認した後、ベッドに倒れ伏してしまいます。

 はしたないとは重々承知ですが、仕方がありません。だって、耐えきれなかったんですから。

 むしろここまで堪えたワタクシのことを褒めていただきたいくらいです。


「そんな、そんな……」

 無意識に溢れた声に、自分が酷く動揺していることを改めて知らされました。


 ふと見上げた窓の外は、馬鹿みたいに眩しい蒼穹が広がっておりまして。


 それはまるでまるで――今のワタクシの心そのもので。


「う、ふふ、ふふふふふふふふふフフッ」


 見てしまいました。ワタクシはきちんとこの目で、見てしまったのです!



 かの王太子が、ワタクシの婚約者であるこの国の王位の第一継承権を持つあの男が、不貞を働いているところをッ!



「ようやく、やりましたね……」


 ようやく、ようやくなのです、本当に。


 ワタクシとは違い、単なる一匹の雄でしかないあの男のことです。

 不貞を働かせるなどということ、婚約者という立場にいるワタクシにかかれば容易いものです。


 成し遂げた悲願に酔いしれた頭も、徐々に冷めてきました。

 のっそりとした動きで立ち上がり、服の皺を正します。ワタクシの愛するもの達と真剣に向かい合うためにも、これからは特に気を抜くわけにはいきません。

 それでも未だ洩れ出る笑いを抑えるようにして、今後のことへ思考を巡らせます。


 証拠となるあの男の不貞の映像は、きちんと撮りました。

 まだ最新の技術ということでとても値段が張るものでしたが、想定通りの役割を果たしてくれたましたので良しとしましょう。


 ですのでまずは、この証拠をワタクシの父である現国王陛下の元へお持ちしましょう。

 父はこれまでに前例がないからと仰りワタクシが王位を継承することを否定なさっておりましたが、今に至るまでの度重なる交渉の末、三人目になる今の婚約者との婚約が破棄せざるを得ない状況となったらワタクシに譲ってくださるという契約を取り付けました。


 元より王の子であるワタクシがいる以上、無理に他の貴族の家の子息を王としなければならない訳ではありません。

 あの男はあくまでワタクシの婚約者だからこそ、次期国王の王太子となっておりましたが、以上の背景がある故、不貞を働いてしまった者がワタクシとの婚約を続けることなど出来ません。

 国として、あの男が王にならなければならない絶対の理由はありませんから。


 時代の流れと共に他国でも女性の王が誕生していることもあり、ワタクシは父と契約を交わすことが出来ました。

 契約は、この国で一番重いとされているもの。父がいくら国王陛下であるとはいえ、破るのはもっての他。


 おそらく、というより絶対、ワタクシがこの証拠を父に渡した時点からすぐさま状況は動き出すでしょう。

 向かう先は、もちろんワタクシが即位する未来へ。


「ふフフ」


 本当に、ようやく叶うことです。



 ワタクシの愛するもの達、人々から都市、町や村、覆い茂る自然豊かにて美しさに溢れたこの国全ての王に、ワタクシはようやく成ることが出来るのです。



 ワタクシがこれまで生きるために費やされたもの達への恩返しも、それに勝るワタクシの愛を注ぐことも、ようやく赦されるのです。


「なんという――幸せ」


 この国全てに心からの感謝とこれからの挨拶に深く礼をします。

 はやる気持ちのままに、ワタクシは自室を出ました。



 希い続けた未来を、絶対に手放さぬように。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ